2、お化けカエルの森


 僕はグランドリオンの柄と、勇者バッチを握り、山を下りた。
 デナドロ山はただ、そこにいた。

 もう何をする気力もなかった。
 ただ呆然と、ガルディア城へ向かった。…王様にすべてを伝えなければいけない。
 体力回復のために、とりあえず近くのグッズマーケットに入った。

 「うわっ!!!ば…化け物!!!」
 僕が店に入るなり、店員はそう叫んで家の中へと逃げていった。
 …化け物?
 僕はあたりを見回した。…が、それらしきモノは見あたらない。
 「お前、さては魔王の手先だなっ!!!お、おいお前、騎士団を呼んでこい!!!!!」
 店長らしき男が店の武器を持ってそう叫ぶ。武器を持つ手は震えながらも、僕をまっすぐに見つめていた。
 カウンターのむこうに鏡が飾ってあった。
 その中には奇妙なカエル人間がいた。
 僕はそいつの姿を探した。…が、いない。
 「こ、こ、こ、こ、こいっ!この化け物カエルっ!!!」
 男が震える声で叫んだ。持っている剣の先はやっぱり僕を指していた。

 僕は頭の中が真っ白になる勢いで、急いで店を出た。
 …カエル人間。
 さっき鏡の中にいたそいつを思い出す。

 まさか。
 まさか。

 僕は震える手で顔をさすった。
 そして再び絶望感にさいなまれ、城へ帰るのを諦めた。


 パレポリ村の西に位置するところに、人を避けたように生きる森があると、誰かに聞いた事があった。
 もう人里には行けない。
 もう人として生きることはできない。
 ただ絶望感だけが体を支配していた。
 森の中で自分が住めるような場所を探す。
 幸い、大きな穴が森の中にあり、僕はそこを住居と決めた。

 数日かけて、最低限の生活道具を揃えることができた。
 そして死んだように眠った。
 ただ眠るだけで数日を過ごした。

 こうやって死ぬまで生きていくのか?
 誰かがそう言っている気がしたが、僕は何も答えなかった。


 サイラス…ごめん。
 僕には…できないよ。
 ごめん。


 そしてまた数日が過ぎた。
 森はいつの間にやら、人々に名がつけられていた。
 「お化けカエルの森」。
 僕はこの森の主と人々に言われた。
 僕の名前を呼ぶ人は誰もいない。
 カエル。
 それが新しい名前だった。
 もう人として剣を振るうこともできない。


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