3、再会


  三年が嵐のように過ぎた。
 剣を見ると、昔の事を思い出すようになっていた。
 そして、この森にも魔物が出るようになり、剣は生活になくてはならないものになっていた。…だが、騎士として剣を振るうことはなかった。
 人とのふれあいは、誰かがこの森に迷い込んだとき。
 魔物に襲われる人を、見捨てることはなにがあってもできなかった。

 人間の時のように、強くなる必要はなかった。ただ、生きていくことさえできれば。
 剣を捨てることはできなかった。その行為はサイラスとの思い出の日々を否定するような気がした。だから、どうしてもできなかった。
 森で拾った、古びた剣。グランドリオンは作った棚の中にしまってあった。

 勇者バッチは、いつも離さず持っていた。
 持っているとサイラスといるような気がした。
 あの悪夢は、俺の中でまだ終わっていない。
 だが俺にはどうすることもできない。
 懺悔をすることで毎日が過ぎていた。


 その日は朝から村が騒いでいた。
 だが俺には関係のないことだ。
 いつものように剣を眺めていた。剣の鍛錬はこの3年まったくしたことが無かったが、その日はなぜか久しぶりに素振りをしたくてたまらなかった。
 なまった腕に回数を刻む。
 一振り一振りが、人間の時の感覚を思い描いているようだった。
 「…45…46…47…」
 見慣れた森の木々が、空を斬る音を聞いているかのように静かな日であった。
 木漏れ日が汗を輝かせる。
 こんな感覚は久しぶりだった。
 サイラスの影を剣越しに見た、その瞬間。

 「きゃあああぁぁぁっっ!!!」

 森を斬るような甲高い女性の叫びが耳に飛び込んできた。
 「…またか…。」
 俺はその声の元へ、剣を片手に向かった。

 薄暗い木の陰で、声のヌシは震えているようだった。白いスカートらしき布が、木の影からはみ出ている。
 木を囲むように並ぶ、薄汚い魔物の数々。
 俺は奴らの不意をつけたようだった。
 奴らは俺の姿を見ると、一目散に逃げていった。どうやら奴らにも俺の顔は知れてしまったらしい。まあ、仕方がないことだが。
 魔物の姿がいなくなったことに気がついたのか、木の向こうに隠れていた女性がこちらに出てくるようだった。
 「…一人で森をふらつかんことだ。」
 俺は彼女を見ぬようにわざと後ろを向いた。背中に人の気配を感じる。醜いカエルの姿を、わざわざ、さらすこともあるまい。
 俺はそのまま、元の場所へ帰ろうとした。
 「待ってください!私はあなたを待っていたのです。」
 後ろから声がした。
 凍りつくような想いだった。
 森がざわめいた。



 ふりかえったそこには、いるはずのない、リーネ王妃が立っていた。


続く

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