7、ことのはじまり


 大陸の北西に広がる樹海。そしてその中央に丘があり、ガルディア城は下界すべてを見下ろしているかのように堂々と、そして美しく、そこにたっている。
 今日は城中の者が集まり、王に謁見することができる素晴らしい日。
 ガルディア城はいつになく、静まりかえっていた。

 午前。朝の仕度がすむと、まずコックをはじめとする戦いに関係のない者が王の御前に集められ、そして今後の城内のあり方について意見を述べていく。
 その時、俺はいつものようにリーネ王妃を遠くから見守っていた。それが俺の役割だったから。俺はあのお方の盾であったから。
 「…では、そのように私も気をつけましょう。」
 リーネ王妃のお声。

 ガサッ

 「!」俺は不気味な殺気を感じたような気がして、身構えた。
 集まった者は誰ひとり気がついた様子がない。まあ、当然だろう。武芸にはほど遠い者たちだ。
 さて。
 俺は今、柱の影にいた。大衆より王座に近く、なおかつ大衆には見えにくい場所。もちろん、陛下と王妃様の前には兵士が二名ほど立っている。俺は、彼らの補佐をすればいい。
 だが、あの様子を見るとあの二人もこの殺気には到底気がつきそうにもない。
 俺は殺気を探して、大衆を見張った。…見たところでは、不穏な動きを見せる者はいなそうだ。
 どうしたものか。
 俺は身をより潜めた。
 もしかしたら、「ヤツ」は俺に気がついているのかもしれない。
 
 一息。

 気を静めた。そして、大衆にまぎれた「殺気」を探す。
 どこだ。
 何を狙っている?
 辺りを見回しても何の影もない。逃げられたのかもしれないな。俺は念入りにもう一度「殺気」を探した。そして目でも影を追ってみた。
 …どこにもいない。俺は念入りに周りを探る。
 気がつくと、両陛下に近づけるギリギリのところまできていた。
 …逃げられたか。

 ガサッ

 「!」俺は再び殺気を感じて剣を握った。殺気。そうだ。
 少しずつ殺気は移動していくような感覚がする。だが目で追っても姿はない。一体どこに潜んでやがる。何が狙いなんだ?
 向こう側か?柱の方へ、目を向ける。その先?その先が狙いなのか?
 はっとして、顔を上げた。
 ―――王妃様!!!

 ふと、殺気が消えてしまった。俺は気を落ち着かせるのに精一杯だった。「奴」は何者で、何を狙っていたのか。今ではもうわからない。が、まあいい。
 昼になって、会は終わった。午後は俺たち、兵士の番。

 王妃様がお城のベランダで昼食をとっておられたので、俺は少し離れた場所から外を見張っていた。さっきの奴はまだこの近くにいるはずだ。厳重に警戒する。すると、王妃様は俺を見つけてお声をかけてくださった。
 「せっかくの昼食なのよ。そんなところで怖い顔をせずに。これでもどうかしら。」
 高貴な皿の上にあるサンドイッチを手に、王妃様が俺を見て微笑んだ。俺はすぐさまその下にひざまづき、こう答える。
 「恐れ多い事でございます。」
 それを見た王妃様は、ご自分のお手でサンドイッチをお持ちになり、俺の口の中へと押し込んだ。俺が顔を上げると王妃様は小さく微笑み、満足そうな顔をお見せになられた。…自分の体温が上がっていくのを感じた。
 守らなければならない。
 強く心に決めていた。


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