平成17年度、熟成するトロトロ層の確認ツアー報告書

 掲載:平成17年3月17日
 
ツアー事務局 「ふゆ・みず・たんぼ」に集まる人間 高奥


[1]ツアーの目的について
 冬期湛水水田(ふゆ・みず・たんぼ)を実施しているそれぞれの水田を比較し、冬期湛水により形成される水田表面のトロトロ層の熟成度を確認し、本年における稲作方法について意見交換を行った。

[2]ツアーの概要
実施日時 平成17年3月13日(日) 8:00〜16:00
主催 ふゆ・みず・たんぼツアー実行委員会
天候 快晴、14時頃より若干の小雪が吹き付ける
参加者 菅原秀敏、佐々木紀嘉夫妻と子供さん、冬水田んぼクラブ(佐々木寛、、高橋吉郎、佐々木和彦、相澤重夫、白鳥章、遠藤則靖先生、木村君、高橋浩

[3]ツアー結果について
(注)以下の記載中で示す「年度」とは10月〜9月を示している。例えば「平成16年度の冬期湛水」と記した場合、これは平成15年10月〜平成16年9月を表している。

菅原水田 場所:志波姫町間海 面積:4.5ha(7筆)
〜農薬を使わず、肥料も使わない田力頼みの水稲農法〜
 調査日時:平成17年3月13日 8:00〜8:40

[冬期湛水]
平成15年度より冬期湛水継続、本年度分は平成16年11月より湛水
[耕起状況]
平成4年より不耕起継続
[調査当日のほ場状況]
結氷あり、残雪なし。田面水は透き通っている。表面の土壌は乳褐色であり、あちこちにイトミミズが盛り上げたフン塚が見られる。水田表面に残留していたワラは大部分がトロトロ層に埋没。
トロトロ層4cm程度
田面の状況
盛上がりがイトミミズの糞

白鳥水田 場所:築館町照越 面積:0.5ha(3筆)
〜熟練の冬期湛水水田、こだわりの稲作〜
 調査日時:平成17年3月13日 8:50〜9:20

[冬期湛水]
冬期湛水継続11年以上
[耕起状況]
耕起は行わず、浅耕代掻きのみの「半不耕起」
[調査当日のほ場状況]
結氷なし、残雪なし。田面水が濁っていたため、水田表面の状況は良く観察できなかったが、トロトロ層は厚く6cm程度。
 3枚の圃場のうち、もっとも道路に近い圃場は渡り鳥が飛来しなかったとのこと。道路から離れて2番目の圃場には白鳥が多数飛来し、稲株がほとんど食い尽くされていた。さらに3番目の圃場には雁の飛来が多かったとのことで、道路からの距離と渡り鳥の警戒心の関係がはっきりと特徴づけられている。
 左側:白鳥が集まった圃場
 右側:渡鳥が飛来しない圃場

「冬・水・田んぼ倶楽部」水田 場所:迫町伊豆沼三工区 面積:2.8ha(2筆)
〜1ha以上の大区画冬期湛水水田〜
 調査日時:平成17年3月13日 9:30〜9:50

[冬期湛水]
平成16年度より開始、本年度はA水田(1.2ha)が10月中旬より、またA水田に隣接したB水田(1.4ha)は12月上旬より湛水開始した。
[耕起状況]
平成16年度はワラの腐食が遅く田植え対策のため「半不耕起」を実施したが、平成17年度は不耕起を目指す
[調査当日のほ場状況]
結氷あり、残雪なし。田面水は透き通っており、田んぼの表面には赤茶けた酸化層が形成されている部分が多かった。この酸化層はB水田よりもA水田がより顕著である。
 トロトロ層は、A水田が4cm程度、B水田が2cm程度で、A水田は表面のワラの大部分がトロトロ層に埋没していたが、B水田のワラが表面に露出しているヶ所が多かった。A水田では12月28日〜1月3日に100kg/10aの米糠を施肥
 水田表面を観察すると、ミジンコのような微生物が確認されたが、土壌中にイトミミズはあまり確認されなかった。
[特記事項]
A水田、B水田は隣接した水田で土壌条件もほぼ同様であると推測されるが、それぞれにトロトロ層の形成に差が生じている。これは湛水開始の時期に違いが生じていること、またA水田では米糠を施肥したことが原因と考えられる。
 A水田の土壌表面に酸化層が発達しているのは、この地域の土壌条件に加え、米糠を施肥したことで、一時的に土壌の還元度合いが強くなり、それが表面に鉄分を湧出させ、酸化層の形成が促進されたものと想像される。また土壌表面を撹拌するイトミミズもそれほど多くないように感じられたので、この酸化層はそのまま保持されていく可能性もある。
 酸化層がそのまま保持されれば、雑草が繁茂しやすくなるので、。今後、注意深く酸化層の変化を観察していく必要がある。
A水田、酸化層が発達する
B水田、表面にワラが多い

及川水田 場所:迫町伊豆沼二工区 面積:0.4ha(2筆)
〜伊豆沼に一番近い冬期湛水水田、生き物豊かな田んぼ〜
 調査日時:平成17年3月13日 10:00〜10:10

[冬期湛水]
平成15年度より冬期湛水開始、対象区を設け水稲生育調査も実施、本年度分は12月上旬から開始
[耕起状況]
平成15年度は不耕起、平成16年度は春草対策のため「半不耕起」、平成17年度は不耕起を目指す
[調査当日のほ場状況]
結氷なし、残雪なし。田面水は若干濁っている。田んぼの表面は乳白色で、トロトロ層は4cm程度でイトミミズも多数、確認された。
[特記事項]
及川水田は、平成10年に10cmほど山土を搬入して客土を実施しており、トロトロ層の形成には不利な土壌条件となっている。そのため、昨年は雑草対策に苦慮したが、本年は昨年よりもトロトロ層が良く発達しているようなので、雑草も少なくなると期待される。本年度の冬期湛水は、現在まで肥料を散布していない。
田面の土壌は乳白色

佐々木水田 場所:迫町山ノ神 面積:0.5ha(1筆)
〜牛糞厩肥を施肥した耕畜連携型の冬期湛水水田〜
 調査日時:平成17年3月13日 10:15〜10:30

[冬期湛水]
本年の2月初旬より冬期湛水開始
[耕起状況]
昨年まで耕起を実施。現在のところトロトロ層は未発達であるが、平成17年度は不耕起を目指す
[調査当日のほ場状況]
結氷なし、残雪なし。田面水は緑色に濁っている。トロトロ層は未発達。1月下旬に牛糞厩肥を3t/10a施肥している。
[特記事項]
平成17年作付けは不耕起を目指すため、田植え期までには田植えに支障がない程度にトロトロ層が発達することを期待したい。
 田面水が緑に濁っているのはラン藻類が繁殖しているためと推測される。ラン藻類は空気中から窒素を固定する能力があるので、無肥料栽培の技術的可能性に大きな可能性を与える。なぜ、この時期に、この場所でラン藻類が繁殖したのか、大変興味深い課題である。
 厩肥を過剰に施肥した場合、水田から多量の硝酸態窒素が地下水に浸透する場合もあるので注意を要する。ただし、耕畜連携型の稲作は循環型農業を推進できる農法として注目されるので、今後、地域環境に配慮できる厩肥施肥量がどの程度であるか把握し、耕畜連携型冬期湛水稲作の技術的可能性を追求できればと思う。
田面の状況
田面水が緑色に濁っている

遠藤水田 場所:河南町北村 面積:0.9ha(5筆)
〜無肥料にして多収穫、冬期湛水直播きに挑戦〜
 調査日時:平成17年3月13日 11:20〜11:40

[冬期湛水]
5筆のうち1筆は、平成15年度より冬期湛水開始、それ以外は平成16年度より開始、本年度分は12月1日から開始
[耕起状況]
冬期湛水を開始してからは不耕起であるが、本年度分は一部水田で冬期代掻き(冬期に代掻きをし、冬期湛水を行う)を実施。
[調査当日のほ場状況]
結氷なし、残雪なし。田面水は若干濁っている。田面の土壌表面は乳褐色。昨年直播きを実施した水田は、すでに春草(アシカキ?)が繁茂しかけている。平成15年度より冬期湛水した圃場ではトロトロ層が5cm程度、それ以外は2cm程度。
[特記事項]
平成16年作付では、一部圃場で無肥料により稲作を行ったのにもかかわらず10俵以上の多収穫を記録した。一部圃場で試行した冬期湛水直播きは発芽に苦慮したものの、それでも4俵程度を収穫できた。
 平成16年度の実績から考えると、冬期湛水による有機栽培は、通常の慣行栽培に比較して2割ほど収穫量が減収するようである。また無肥料での栽培を行った場合、慣行栽培の2割減収するものとされており、、それから考えれば、冬期湛水無肥料栽培は慣行栽培の6割5分程度の収穫量になると予想される。事実、冬期湛水無肥料により稲作を実施した菅原水田では、おおよそこの程度の収穫量であった。
 にもかかわらず、遠藤水田では慣行栽培に遜色のない、あるいはそれ以上の多収穫を実現している。なぜこれが可能であるのか今後、明らかにしていきたい。
すでにアオミドロが繁殖
昨年の直播き水田、アシカキ?

高橋水田 場所:大郷町石原 面積:0.9ha(8筆)
〜山間地の冬期湛水水田、天水利用で冬期代掻を実施〜
 調査日時:平成17年3月13日 13:30〜14:20

[冬期湛水]
5年間、無農薬・無化学肥料の水稲栽培を継続、昨年の12月に天水を利用して冬期湛水を実施した。
[耕起状況]
冬期湛水と同時に冬期代掻きを実施。
[調査当日のほ場状況]
結氷なし、残雪なし。田面水は濁っており、田面の土壌は確認できず。そのため田面表層の土壌を手ですくい取り観察。冬期代掻きを行っているため、トロトロ層とその下の表土の境界の判別は難しいが、それでも土壌はよく肥えており、数年間有機肥料で水稲栽培を実施してきたことを窺わせている。
[特記事項]
冬期湛水水田・冬期代掻により期待される稲作上の効果はいくつかある。

 一つ目は、稲刈り後に田面に生じた凹凸を均す効果。できるだけ田面を平らにできれば、それだけ田面水を均等に湛水させることができ、水管理による雑草管理も容易であると考えられる。
 二つ目は、漏水を防止する効果。湛水と同時に代掻きすれば、田面や畦畔に生じている亀裂を土粒子により目詰まりさせることができ、水田の保水力を向上させることができるので、冬期湛水を効率良く実施することができる。
 三つ目は、通常、田植え前に行う代掻きを冬期に実施することで、冬期〜春期に田面に堆積するトロトロ層を田植え後もそのまま保持できる効果。これにより代掻きを行ってもトロトロ層による雑草抑制効果を十分に期待できる。
 四つ目は、冬期に代掻きしておけば、春期のトロトロ層が未発達であっても、改めて代掻きせずに田植えができる効果がある。

 冬期湛水・冬期代掻は以上の効果が期待できる一方で、いくつかのデメリットも想定される。

 一つ目めはこの農法があまり実績がないため、上記で述べた効果がどの程度発現されるか不確定なこと。
 二つ目は代掻きを行うので、それだけ営農経費が増大すること。
 三つ目は田面の藁を土壌にすき込むため、藁の腐植が不十分になり、それにより硫化水素が発生して水稲の生育に障害が生じたり、あるいはメタンガスの発生が増大する等である。

 いずれにしても、冬期代掻きは、冬期湛水水田の効果をより効果的に発現できる新しい農法として注目され、この農法による本年度の水稲の生育状況を注意深く観察していきたい。
山間地に広がる冬期湛水水田
田面の土壌状況

浦山水田 場所:色麻町下新町 面積:2.0ha(7筆)
〜冬期湛水米定食の店「ライスフィールド」、ジャズの生バンドあり!〜
 調査日時:平成17年3月13日 14:50〜15:20

[冬期湛水]
平成14年度まで合鴨農法主体の水稲稲作であったが、平成15年度より冬期湛水水田を開始して現在まで継続
[耕起状況]
冬期湛水を開始してからは不耕起を継続。不耕起専用田植え機を用いずとも、冬期湛水ならば不耕起の田植えが可能であることを実証した。
[調査当日のほ場状況]
結氷なし、残雪あり。今回のツアーでは、もっとも積雪の多い地域である。そのため、冬期湛水を実施していない圃場でも雪解け水により冬期湛水の様相を呈していた。
 トロトロ層は4cm程度。水は濁っていたが、それでもある程度は土壌表面を観察でき、黒色の度合いの強い土壌が観察された。藁はあまり腐植しておらず、これはこの圃場が積雪の多い地域に位置し、それだけ有機物の腐植が遅いためであろうか?
[特記事項]
現在のところ、冬期湛水は不耕起で行なったほうが、より効果的であると考えられている。これは高橋水田の項でも述べたが、トロトロ層を撹拌しないほうが、雑草を抑制でき、また有機物を地中にすき込まないほうが、土壌から発生するガスを抑制できるからである。
 しかし汎用田植機で田植を行うためには、田面の土壌が苗を差し込める程度に軟弱な必要がある。このため通常は田面を撹拌する代掻きを行う。そのため代掻きを行わない不耕起では、汎用田植え機による田植えは困難と考えられていたが、冬期湛水を行えば田面に軟弱なトロトロ層が堆積するので、この層が十分に厚ければ不耕起でも田植えが可能になる。
 しかしながら、田植え時に欠株が生じるのを回避するため、平成16年度の冬期湛水でも、大部分の方々は田植え前に浅い代掻きを行う「半不耕起」を行った。ちなみに不耕起を継続している菅原水田では、不耕起用の田植え機で、田植えを行っている。
 しかし浦山さんは、まだそれほど冬期湛水が知られていなかった平成15年度からトロトロ層の効果に注目し、通常の田植え機で冬期湛水不耕起の田植えに成功している。
 浦山さんは、冬期湛水水稲作を営む傍ら、レストランの「ライスフィールド」を経営している。このレストランで供されるライスは「冬期湛水米」であり、本HPをご覧になっている皆様方で一度冬期湛水米を食べてみたいと思っている方がいましたら、ライススフィールドを訪れていただけたらと思います。
残雪の残る冬期湛水水田
田面の土壌状況



 上記に掲載する調査結果は可能な限り冬期湛水水田での観察結果に基づき記述しております。
 そのため通説とは相容れない部分や、解説の不足している部分、解釈の行き過ぎた部分もあるとは思いますが、自分の目で見た事実を感じたままに伝えるという本HPのコンセプトを重視した結果であるので、ご容赦願いたい・・・などと大上段に構えつつも、何かご指摘、御意見、御苦情、御助言、その他情報等ありましたら、今後の冬期湛水水田の営農方法を検討していくためにも大変参考となりますゆえ、下記メールまで投稿頂ければ幸いです。なお投稿いただきました情報につきましては本HPに掲載することもありますので、あらかじめご容赦願います。 


suhi25@aq.wakwak.com

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