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ナンちゃんの落語会

2006年7月15日(土) ヤマハホール
「大銀座落語祭2006」


古典落語
「仔猫」

−完全ネタバレですのでご注意ください−

◆落語は大筋やオチは同じでも噺家のアレンジによっていろいろなところが違っています。
以下は、今回の落語会で南原さんが披露した「仔猫」に補足を加えたものです。


蔵前に奉公人を2、30人抱える大きな問屋があった。
問屋といえば忙しく賑やかで、夕方になると戦場のような状態になる。
歳の頃は16くらい、田舎から出てきた純朴そうな1人の女が、手に書付を持って問屋の前に立った。
「ちょっくら物尋ねるがのう〜。おら、上州屋から来たおなべちゃ〜す」。
女は上州屋という口入れ屋(奉公人などの世話をすること所)から小僧について来たが、店の前で小僧を見失って自分の行き先が解らないと告げる。
店の者が書き付けを見ると、女の行き先はこの店だった。
口入れ屋に女中を1人頼んでいたのだが、それがこの女らしい。
しかし、店の他の者が「こんな面白い顔をした女中にご飯をよそってもらったら、笑ってご飯が食べられない」と言い出し、店の者は他の口入れ屋にも頼んでいたので、今日のところは上州屋に戻って連絡を待てと女に告げる。
女は帰り道が解らないから、でかい男5、6人で送れと言い出す。
そこに店の女将が現れ女の相手をする。
年に2両という安い給金でも良いのならという条件を飲んだ女・おなべは、その日から住み込みでその店の女中として働くことになった。
おなべは顔は面白いが気持ちの良い働き者で、皆から「おなべ」「おなべ」と可愛がられた。

ある日のこと。
その日は夜半までかかる筈の仕事が思いのほか早く終わり、主人から食事以外に熱いうどんが振舞われた。
その後、なかなか寝れない店の者たちは、店の間でワアワアと話をしていた。
皆は今日早く仕事が終わったのもおなべのおかげ、大の男が2人でようやく持てる荷物もおなべはヒョイと片手で持ち上げる程の力持ちだし良く気が付くと話す。
1人の男は穴の開いた足袋を繕った上にキレイに洗濯してもらい、1人の男は押入れに放り込んでいた汚れた褌を洗濯してもらった。
しかも、誰の褌か解らないけど取りあえず洗っておいたというおなべの言葉に感激。
ある男が、もし嫁をもらうなら、おなべと美人揃いの越後屋の女中のどちらをもらうかと尋ねる。
道に落として車に轢かれた饅頭と同じ顔のおなべとは比べられないという皆に対して、1人の男は見た目は悪くても男の足りないところを埋めて男をたててくれる女を嫁にもらった方が良いと力説、他の者も同意する。
その時、1人の男が「大層ご執心ですな。さてはおまえら、おなべの一件知らないな?」と言い出す。
何のことかと尋ねられ、男は話し出す。
10日程前の雨が降った夜のこと。
夜中に腹痛を起こした男は憚り(トイレ)へ向かった。
憚りでしゃがんで用を足そうとして窓から空を見ると、雨が上がりキレイな月と雲が見えた。
ふと視線を下ろすと、蔵と蔵の間を動く影がある。
足音が聞こえたので賊でも入ったかとじっと見ると、月明かりの下に現れたのはおなべ。
昼間と違い身が軽く、月を見上げながら嬉しそうに「ヒ・・・、ヒ・・・、ヒ・・・」。
あまりの恐怖に、部屋に飛んで帰って布団に潜り込んだと話す男。
男の話を聞いて怖がる皆に、そこにいた番頭が「実は私も」と話し出す。
2日前の夜、番頭が憚りへ向かう途中におなべの部屋の前を通りかかると灯りがついていた。
転寝でもしていたらいけないから声をかけようかと迷っていたら、障子が少し開いていた。
部屋の中を覗くと、おなべが鏡台の前にろうそくを立ててうずくまっている。
覗き込むと同時におなべが顔を上げ、ざんばら髪で耳をピンと立て、目は異常に光り口に血糊がベッタリと付いたおなべが、鏡の中の自分の顔を見て恨めしそうに「ヒ・・・、ヒ・・・、ヒ・・・」。
話を聞いていた皆がまたも怖がり大騒ぎしていると、そこに主人が現れて皆に早く寝るよう叱る。
主人は番頭に自分の部屋に来るよう告げる。

主人の部屋を訪れた番頭。
主人は自分もおなべの一件を知っていると話す。
昼間は一生懸命働くが、夜になると締りを越えて外へ姿を消して明け方までに戻り、翌朝はまた一生懸命働くおなべのことを、妙で怪しい女だと思っていると話す主人。
悪い仲間がいて妙な事になっては困る、悪い芽は早目に摘むに限ると、主人は番頭におなべに暇を出すよう命じる。
番頭は何の証拠も無しに暇を出してもおなべが納得しない、明日、女将が芝居見物に行く供としておなべをつけ、おなべの留守中に荷物を調べて変なものが出てきたらそれを証拠にしてはと提案し、主人も納得する。

翌日、何も知らないおなべは女将の供で芝居見物に行き、主人と番頭はおなべの部屋へ。
おなべの唯一の持ち物である葛篭を開けようとするが、錠前が付いている。
番頭が煙管を使って簡単に鍵を開けると、主人は5年前に蔵に賊が入ったことを持ち出しからかう。
葛篭の蓋を開けた2人は中を検める。
1枚1枚着物や帯を調べるが、番頭はおなべの持ち物だと答える。
最後の1枚という時に着物の下から生臭い嫌な匂いがし、主人は調べるのをやめようとするが番頭は調べるよう勧める。
最後の1枚を上げると、そこには白黒斑の血に染められた獣の皮が・・・。
驚いて大慌てで葛篭の蓋を閉める主人。
主人はこんな怪しい物を持っている女を店に置けない、すぐに暇を出すよう番頭に命じる。
しかし、番頭はそんなことを言えば今度は自分の喉笛をガブリとやられると嫌がる。
主人は隣の部屋に屈強な男を4、5人程用意するからと言い、番頭も承知する。

女将の供をして帰ってきたおなべは番頭に呼ばれて番頭の部屋へ。
番頭は何とか話を切り出そうとするが、気まずさと恐怖とで「いつからここにいるのか」とか「芝居は面白かったか」という質問を何度も繰り返し聞いてしまう。
いつもと違う番頭の様子に気付いたおなべは、来年暖簾分けをするらしい番頭が自分を嫁にと思っていると勘違いする。
誤解されて慌てた番頭は、離縁された女将の妹が親元には戻り難いということで女中としてこの店に入る、1人増えたので1人減らさなければならない、それで1番新しく入ったおなべにとりあえずこの店を出て口入れ屋へ行ってほしいと話す。
おなべは自分は女将の妹の世話係をすると言うが、何とか暇を出したい番頭はおなべに「ウン」といって欲しいと遠回しに頼む。
番頭のおかしな様子に勘付いたおなべは、留守中に番頭が自分の荷物を見たのか問い質す。
認めて葛篭の中を見たことを詫びる番頭に、おなべは「あれを見られては仕方ない」と全てを語る。

おなべの父親は百姓片手の山猟師で、生物の命を取るのは悪いことだというおなべの言葉も聞いてくれなかった。
親の因果が子に報い、子供の時に怪我をした仔猫の足を舐めてやったのが始まりで、猫の生き血の味を覚えた。
それから人が可愛がる猫を捕って食らうのが自分の病。
「鬼じゃ、鬼娘じゃ」と噂されて村にいれなくなり、江戸へ出て奉公すれば治るかと思ったがダメだった。
昼間は何ともないが夜になると心が乱れ、締りを越えて外へ出て仔猫を捕らえて喉笛に食らい付く。
猫の血が喉元を過ぎれば我に返り、後悔しても後の祭り。
ここを追い出されたら自分には他に行くところが無い。
これからは慎む、手足縛って寝るのでここに置いてくれと嘆願するおなべ。
番頭はおなべが人をかじっていたのではなく、猫をかじっていたと解り安堵して笑う。
「しかし、因果だねぇ。昼間はあんなに朗らかに働いてるおまえさんが、夜はそんなことになってたとは」
「へえ、おら、昼間の間、猫被ってた」


◆上方版では、サゲは番頭の「昼間はあんなに朗らかに働いてるおまえさんが夜になって猫をなぁ」の後に「ああ、猫かぶってたんか」となっています。
関西では物をかじることをかぶると言うので、「猫をかぶる(かじる)」と正体を隠すという意味の「猫を被る」の2つの意味をかけている下げになっています。

参考資料「枝雀落語大全第十三集」



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