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■後立山連峰縦走 2002年8月12・13・14日晴れ一時雨
【扇沢登山口より爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳を経て遠見尾根へ】

 今年の夏は、初めて北アルプスの地に足を踏み入れることにした。
岩場ってどんなところだろう。3000m級の高さで高山病は大丈夫だろうか。
今までの山歩きとは少し違った不安もよぎる。

 場所はどこにしようか。穂高、槍、立山、剱等々・・・有名な山ばかり。
混むのも嫌だし、あまりメジャー路線もちょっとと言う気がする。
去年飯豊連峰へ登った帰りに出会った青年が「後立山云々」と言っていた。
うん、響きはミーハーっぽくない。そうだ、そこにしよう。

 
一日目

 柴やんとは信濃大町駅で待ち合わせた。バスの出発まで20分ほど時間があったので、私はバスに荷物を置いて蕎麦を食べに行くことにした。駅ロータリー向かいの蕎麦屋で聞くと、すぐに出来るというので、ざる蕎麦を頼む。外を見ていると、さっきザックを置いたバスが目の前を走り去っていくではないか。
「ウソ〜」と店から飛び出すが間違いない。焦った。

 バス停の方に目をやると、ザックを2つ抱えた柴やんがトボトボとこちらに向かって歩いて来る。事情を聞いてみると、満席となったので時間を待たずに出発したとのこと。但しすぐにまた臨時便を出すらしい。柴やんがバスに居てくれて助かった。ちなみに蕎麦は旨かった。

【写真】扇沢の駐車場
 バスは40分ほどで扇沢の大駐車場に着いた。
黒部ダムに通ずる観光ルートでもある。


 自家用車の回送サービスあった。
さすが北アルプス。人が多いと色々な商売が成り立つものだ。


 扇沢の登山口へは、歩いて10分ほど戻ったところにある。
登山者が駐車するスペースもある。
下山してきた人に声をかけると、昨日一昨日とガスって展望は得られなかったらしい。本日も曇り気味だ。

 扇沢の川辺で軽い食事をした後、12:45分に柏原新道を登り始める。
登山道は良く整備されていて歩きやすい。

 途中からは鉢ノ木雪渓が遠望できる。

 遅い時間からの登りだったので、下山してくる人とのすれ違いが多かったが、ふらふらと登っている単独行の男性がいた。
何かちょっとおかしい。何がおかしいか観察してみると、ザックが曲がっている。そのザックの横にはコウモリ傘が差し込んである(折り畳みではない)。ベルトからはぷらぷらと携帯電話がぶら下がっていた。靴はスニーカーであった。
 抜きつ抜かれつしているうちに話を聞いてみると、神戸から車でやってきたらしい。こちらが五竜まで行くつもりだと話すと、彼もそのつもりだと言っていた。
「お互い今日は種池小屋だ。ゆっくり行きましょうや。」と話してくる。
・・・・・一緒にされたくない。(翌日やはり、路頭に迷う彼の姿を見ることになった。)

 インストラクターが8名ほどのメンバーを引率している集団を抜いていく。
へたっている人も居て大変そうだ。
道がなだらかになる頃、種池山荘が見えてきた。
種池山荘の前は広い範囲でお花畑となっている。花の落ちたチングルマの群落が一面に広がっていた。
 小屋には16:00に到着し、宿泊手続きを済ませた。アルバイトの女性達はキビキビとしており、なおかつカワイイ。小屋にはスキー宿と同じように乾燥室がある。着替えて汗で濡れた衣類を乾かし、一段落しビールを飲む(500ml750円、350ml500円)。風呂がない以外は民宿感覚だ。

当日は多少混んでいた。よく布団一枚に二人とか三人などという表現を聞いていたが、今までどんな状況なのか分からなかった。山小屋の敷き布団は絨毯のように繋がっていたのだ(知らなかった)。それで混んでるときは詰め込むことも出来るのであろう。男の私でもすぐ隣に汗くさい親父が寝てたらげんなりだ。重たくてもテント泊を選ぶ人の気持ちはよく分かる。幸い今日は布団1枚に1人程度である。
 夕食は2回に別れていた。1回目が17:00で2回目が18:00。私たちは2回目であった。おかずはエビフライ、鶏の唐揚げ、シュウマイ、ガンモ、ひじきに漬け物だった。連れの柴やんは食事を早々に切り上げ席を立った。後で話を聞いたら、八方方面から縦走してきた隣の人の体臭が耐え難かったらしい。

 泊まった部屋ではさして遅くまで騒ぐ人もなく、全員8時頃には就寝する。
ラジオを聴いていると、唐松岳近くの登山道からおばあさんが滑落し死亡とのニュースが流れていた。

 【写真】 爺ヶ岳     岩小屋沢岳方面

二日目
 夜半から小屋のトタン屋根に当たる雨音は激しさを増していた。
日の出の頃には少し雨足は弱まったが、ガスと雨がしばらくは続きそうな様子であった。今日の行程はキレット小屋までなので時間を焦る必要は全くない。
ゆっくりと準備し7:00に出発することにした。
 ところで、最初に地図を見たとき、水場がどこにもないのでどうしたら良いのか思っていた。ところがこちらでは小屋で水を下の沢からポンプアップし、宿泊者にサービスしたり販売しているのだ。我々も1L頂戴する。

 小屋の入り口で昨日のコウモリ男がまさに傘をさしてた。水はどこでもらえばよいのかと聞いてくるで目の前に見えている場所を教えた。
我々が合羽を着込み出発するとき、やはりコウモリ男が入り口近くてたたずんでいた。どうやら雨具は傘しか持ってきてないらしい。どうするのか聞くと、天気の様子を見て五竜に向かうと言う。今は風はないが、強風となればコウモリでは役立たないので「無理はしない方がいいですよ」と声をかけ別れた。既に宿泊者の大半は出発していた。
  
爺ヶ岳を南方、中峰、北峰と順に越えていく。
視界は利かないものの花が目を楽しませてくれる。


赤倉尾根と合わ冷池小屋に着く頃、日が射してきた。
キレット小屋では水が不足気味とのことなので、冷池小屋で1L150円で購入する。そうしているうちにも天気は見る見る晴れてきた。

 冷池小屋から5分ほど上がったところにあるテン場を通り過ぎ、布引山に向かう。立山、剱が霧の中から浮かび上がり、雲の合間からはっきりと顔を出してきた。やっと北アルプスに来た実感がわいてくる。
 気が付くと赤いヘリコプターが五竜方面に飛んで言った。
荷揚げだろうか。それとも昨日の遭難のニュースと関係があるのだろうか。

 【写真】鹿島槍南峰
 鹿島槍南峰は、もう目の前である。
信州側からはガスがわき上がり、風でまた信州側に飛ばされていく。夏のパターンであるらしい。
山頂には11:50に到着する。
南峰はにぎやかな山頂だ。ここまでは北アルプスの入門コースとして紹介されており、登ってくる人はとても多い。
南峰より北峰へは急な下りの後の登り返しとなるため、縦走者以外はわざわざ行かないようだ。北峰山頂は静かなものであった。


北峰山頂からは、キレットから五竜岳にかけて稜線を望むことが出来た。明日はあそこを五竜に向かって歩くのだ。

昨日五竜山荘に泊まった登山者達が、次々にやってきた。誰もがかなり疲れている様子。最後の南峰への登りが辛そうであった。

 北峰からキレットに向かう道は、足元を注意していけば難しいところはない。
一番の難所と言われる八峰キレットは梯子と横に張られた鎖で安全に通過できるが、個人的には今回の縦走路の中で一番怖いとの感覚を持ったところであった。(通過そのものより、補助的人造物が無かった場合どうだろうかと言う想像面でそう感じたのかもしれない。)

 八峰キレットを越えるとすぐにキレット小屋だ。
しかしココで安心しては行けません。登山道から小屋に降りる所は、高さこそ10mほどだが、難所であり落ちたら大怪我ですぞ。
小屋からは鹿島槍も五竜も見えないが、西側には立山、剱の眺望が得られます。
【写真】   小屋前のテラス       キレット小屋


 この小屋への荷揚げはヘリコプターを利用する。
食べ物は晩飯も翌日のお弁当も旨かった。
晩飯は、ハンバーグ、トマト、キャベツ、ポテトサラダ、漬け物だった。
ちなみに翌日のお弁当は、ウナギ弁当(ウィンナー付き)1300円でした。
 特質すべきは、トイレがとても綺麗であったこと(においも非常に少ない)。
掃除していたアルバイトのお兄ちゃんを思わず誉めてしまいました。
 宿泊者も20名程度と少なく、居心地の良い小屋でした。


三日目
 今日は下界まで降りて電車で帰る日だ。風呂にゆっくり入ることも計算に入れれば、結構急がなければいけない。
 朝4時に起床し4時半には出発準備完了のはずだったのであるが、いつもあるはずの左手に時計がない。高度計付きのカシオプロトレックなのだが、何故か無い。朝起きてトイレで時計の時間を確認したのを記憶している。布団とザックを3回確認したが出てこない。 身の回りの整理整頓は、山にはいると非常に大切なのだが、それが出来ていないことにひどく自分で腹が立つ。小屋の人にもし出てきたら連絡して欲しい旨伝えて出発する。

【写真】縦走路から見える五竜岳
 今日の天気は昨日ほどではないがまあまあだ。小屋から五竜岳に向けた登山道はいきなり鎖場が連続する。まだ、時計を無くしたことに自分で腹を立てておりブツブツ言いながら寡黙に登り下りをこなしていく。同行の柴やんがいるからいいものの、自分一人であれば時間が分からない。(と言っても携帯電話で時間はわかるのですが。) 「生死を分ける大失敗だ、バカヤロー」とまだ未練がましく思っていた。これでは北アルプスが泣くと気を取り戻し、「好天を恵んでくれたおてんとうさまに感謝感謝」に思想転換を図ることにした

 風が強いため、口の沢のコルを越えたあたりの低木があるところで朝食を取ることにした。うなぎ弁当を朝からほおばった。
 五竜への縦走路は注意を要する上り下りが連続するが、コースを示す矢印が要所要所で書かれていて迷う心配は無い。五竜岳に近づくに従って鹿島槍を目指す縦走者とのすれ違いが多くなってきた。
 今回計画するにあたりどちらから山に入るか迷ったのだが、登りにゴンドラを使うことに抵抗感があったことと、盆休みに五竜山荘→冷池小屋パターンは避けたいと思ったため今回ルートを取ることにした。
 下から見ると、「あんな所通れるのかなあ」と思うのだが、近くに行けばうまくルートが造られている。G5、G4との記号も地図にあるが、特にココだと意識することもなく通り過ぎてしまった。


 五竜岳への最後の登りは長いザレ場であった。
8:40分に縦走路上の五竜標識に到着する。
本当の五竜岳頂上は、50mほど縦走路をずれたところだ。
霧が湧いてきた。
見え隠れする鹿島槍方面を眺め、昨日からの縦走を充実感を持ってかみしめる。
 山頂から5mほど下に雷鳥が2羽いた。一応見たことを写真に収めて山頂を後にする。五竜山荘までの下りは手足を使うところもあったが、先ほどまでの縦走路に比べると散歩気分で降りていくことが出来た。


                                       【写真】五竜山荘岳

 9時30分五竜山荘に到着する。
柴やんとは山荘に到着した時間で、唐松岳まで行くか、遠見尾根を降りるか決めることにしていた。
体力的には問題なかったが、時間は微妙であった。
唐松岳を経由して八方尾根を降りるとすれば、電車の時間にぎりぎりとなり、ゆっくり風呂に入る時間がとれない。
何が大切かというテーゼに対しては、「風呂」が勝ち遠見尾根を下ることにした。

 余裕があるためゆっくり降りていったのだが、ゆっくりだと時間がかかる(当たり前だね)。遠見尾根は気分的に随分と長かった。岩山を歩いてきた後なので、草木が増えてくると東北の山歩きを思い出す。ただこの尾根も、岩から土に変わったものの場所によってはスパッと切り落ちている箇所が多い。視界がないときにポヤポヤ歩いていたり、場所悪く転けたりしたときには命に関わる場所も多いのでご注意下さいね。

 最後は少し早足にして14:00に無事アルプス平に到着。
柴やんと今回の完歩を生ビールで乾杯する。
車ではないため、ゴンドラ麓のエスカルプラザで風呂に入り、特急に乗る白馬駅まではタクシーを利用した(3000円位)。

 盆休みの間にもう一回どこかにいこうかな。    丹沢主脈縦走に続く

ワンポイントアドバイス

<参考コースタイム>

■一日目(12時45分スタート、16時00分着)
(1)扇沢登山口→16:00種池山荘

■二日目(7時00分スタート、14時50分着)
(1)種池山荘→7:55爺ヶ岳中峰→10:50布引山→11:50鹿島槍南峰
(2)12:50鹿島槍南峰→北峰13:40→14:50キレット小屋

■三日目(5時スタート、14時00分着)
(1)キレット小屋→5:50口の沢のコル(食事)6:30→8:40五竜岳
  →五竜山荘9:30
(2)五竜山荘→14:00アルプス平→ゴンドラ10分

<見所>
1、何と言っても立山・剱連峰の眺望。それがあるからココに行く人も多い。
2、残念ながら今回は信州方面の眺望は終日ゼロ。南には槍も見えた。
3、鹿島槍までの道は花が多い。

<注意点>

  • 今回初めて北アルプスに行ったのであるが、小屋の施設食べ物は随分いいものだと実感した。テント泊でないのなら思いっきり荷物を減らし、距離を伸ばすのも一手である。
  • 一方でコースを別にすれば観光旅行的な色彩が強く、東北の素朴な避難小屋が懐かしく感じられた。
  • 岩場は注意していればそんなに危険はない。むしろ、気を抜いて安心している時に危険が潜んでいると思う。
  • 一泊二日で同ルートを行こうとするのであれば、初日は早朝に出発しキレット小屋まで足を延ばす必要あり。キレット小屋の宿泊者の中には朝扇沢を出発した人も居た。



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