Kugelbahn(玉の道)とHさん         松林 幸二郎

 私の3月からの勤務先“グロスファミリー”(ハンディキャップをもつ7人の成人が家族形態で住む)に,障害が重くて外の作業所に行けない40才なかばのHさんがいます。7〜8年前まで片方の目はまだ10%弱の視力が残っていましたが,現在はすっかり全盲になっています。20年ほど前からHさんには年に一,二度会っていましたので,まだ黒い髪の若い私のイメージが彼の脳裏には残っているものと想像されます。私が“やぎ工房”を出発させて,余程気分が優れない限り,車椅子で工房に働きにきますが,それまでは全盲故,なす術をしらず,一日中虚空を眺めている生活だったとのことです。
 Hさんの仲間の6人のうち5人は,ハンディキャップを背負いながらも外の作業所,工場に毎日出て行きますから。ポツねんと残されてしまう全盲の彼の寂しさはいかほどだったことでしょう。そのHさんが,クリスマス前に高さ1mのKugelbahnを半年かかって完成させました。何百個の木片に卓上ドリル機で三つ穴をあけ,ペーパーをかけ,木片を一つずつ中央の木棒の差し込んでいく,盲目の彼にとっては気の遠くなるような作業ですが,完成させたときの彼の得意満面の笑顔に,私の心はどれほど喜びに満ちたことでしょう。重い障害の故,何も作れぬが故,片隅に追いやられていたHさんにスポットライトが当たった瞬間で,ファミリー構成員の偽りのない賞賛のことばは,彼に自信と存在価値を与えてくれたに違いありません。
 “Hascht mi gern?”“私が好きかい?”
 勤務しはじめて10ヶ月もたつのに,一日に幾度も私に尋ねる言葉です。自他傷癖があって,除け者にされ,何十年を孤独と苦しみのなかに,そして今は暗闇に生きてきた彼にとって,“うん,勿論,大好きだよ”ということばほど重く大切なものはないのです。しかし,これは,なにも障害をもったHさんにのみ必要な言葉でなく,成果主義が幅をきかす競争社会にあって,孤独といわれる現代人全てが,こころから必要としている言葉ではないでしょうか?

やっぱり,おかあさん  相原 雄二

 小3の娘が学校から帰ります。その時妻の姿が目に付きませんと,最初のことばが「おかあさんは」。それより先に「ただいま」でしょ,と催促すると慌てて「ただいま」。それでまた「おかあさんは」。よほどお母さんのことが気にかかるらしい。そこで私は意地悪をして「知らないよ」と返します。すると再度,上に居るの,お買い物に行ったの,ね〜,どこにいるの?と段々泣きそうな顔になります。
 淋しそうな表情がふびんに思い,頃合いを見てお母さんの居場所を教えます。言った瞬間打って変わって笑みがこぼれ,何だといった態度に変身,やっと背負ったランドセルをほっと置きます。
 これって,何なんだろうと,ふと思う。
 母と子の絆は,父と子の結びつきとは遥かに違っていることを知らされた一時(いっとき)でした。
 しかしその場でいるのも怖いくらいに鬼の形相(ぎょうそう)で娘を叱りとばす母親を,どうして,と考える。父親と違い母親は40週という期間,お腹の中の赤ちゃんと心と心のキャッチボールをすでにやっておったことに気づいた。
 それと,この世に生まれる前より,そのようにしっかりとしたコミュニケーションが計られ,お母さんからの無上の愛と思いやりが,赤ちゃんとの共感性となり多少の出来事でもビクともしない強い結びつきとなったのでしょう。
 いつの世も母は偉大ですばらしい存在です。
 そこには,父さんの割って入り込むすき間などないのだと諦観(ていかん)しました。

おもしろいけどスゴイんやなあ   西山 欣子


 私が小学校マンガクラブにボランティアで通い出して今年でもう18年めになる。
 マンガも仕上がったことだし・・と言うことで今日は,色鉛筆などの画材の説明をちょっとだけ私が見本に描いた,野菜や風景や動物の絵を見せるとかなり驚いた様子の子どもたち。

たとえばこんな絵→

 考えてみれば,子どもたちに私のホンキ描き(リアルな絵)を見せたことがなかったっけかなあ。
「きんちゃんはこんな絵も描けるんじゃあ〜〜」
 あっちこちから歓声が・・・。
 さらに「きんちゃんは,おもしろいけどスゴイんやなあ」って。それこそオモシロイ表現だけど,ホメコトバだと思います。たぶん。
 今までに見たことのないような食い入るように見つめる子どもたちの表情がとってもまぶしくて,うれしくて・・・。かなり真剣に色鉛筆についても質問も飛び交ったりして・・・。私自身,想像以上の反応で驚いてしまったことでした。
 ほんとは,見たままの絵を描くより,子どもたちが描くマンガのほうがずっとステキな絵だと私は思うんですけどね。けど,こんな時に私はいつも,描いてて良かったなあとしみじみ思うのですよ。描くことが好き!という共通点によって,こんなに子どもたちとココロを交わすことができるんですから・・・。
 今日は,子どもたちからいっぱいアイをもらった日だったです。ほんとにありがとーー。

両親の笑顔を思い浮かべる     近藤 隆二

 大学四年間(早稲田大学)テスト全部100点満点の100点を取られた方が麗澤大学教授永安幸正先生です。私が(財)モラロジー研究所の生涯学習講座(5泊6日)を受講した時,永安先生の講義の中で大学時代の体験談をお話頂き,四年間試験を全部100点取られたことをお聞きしてびっくり致しました。どうして100点ばかり取ったかその方法を教えて下さいました。テストの用紙が配られたら先ず番号と名前を書いて名前を書いたら用紙をうつぶせて(裏返し)静かに眼を閉じて両親の笑顔を思い浮かべて「お父さんお母さんこれから試験を致します。いただいて出た能力を十二分に発揮して頑張ります。どうぞ難しい問題があれば教えて下さい」と心中でつぶやきお祈りしてから答案用紙を表に返して問題を一通り最後まで読むとやさしい問題からしていき難しい問題は後廻しして時間が限られているので上手に使う。解ける問題が終わったら最後に難しい問題を解いて行く。その時も「両親の笑顔を思い浮かべて,お父さんお母さん私に答えをそっと教えて下さい。お願い致します。と心の中で念じる。」しばらくすると答えがひらめいて来るとのことでした。
 どうやらポイントを両親の優しい笑顔を思い浮かべる所にあると思いました。これは試験だけではなく人生上あらゆることに応用出来ると直感致しました。民謡のコンクールとか演奏の時,人前でお話をする時とか,運転をする時,仕事をする時,民謡のお稽古で唄や三味線の指導をする時,人生の重大事,結婚,出産,育児,就職,とにかくあらゆることに応用出来ることを思い,現在もマネごとをして御守護を頂いています。