その1 Guetzli 作り
第一アドヴェント(待降節)が始まる頃,多くのスイスの家庭もそうであるように,我が家もクリスマス クッキー(Guetzli)作りが始まります。母親と一緒になって,生地を練り上げ,クッキー作りに励んでいた3人娘の姿は今はありませが,20数種類が16種類に減ったというものの,次から次に焼き上がる香ばしいクッキーにまるで魔法を見ている気にさせられます。
形色味様々の手作りのクッキーは,心まで暖かくしてくれるスイスの家庭の伝統の味でしょうが,独立した娘達もそれぞれクッキー作りを始め,行き詰まったときや幼き頃馴染んだクッキーのレシピを家内にSMSで尋ねてきます。そんな交信の様子をみていると家族の絆を感じられ,なんだか焼きたてクッキーのように心がぽかぽかしたものでした。
その2 犬猿の仲から
“ターニャほど親切で素敵なお姉さんは地球上にいないよ”キッチンから家内と会話する,この夏小学校の先生となって独立した末娘ナタリアのことばを聴いたとき,一瞬,我が耳を疑ったものでした。僅か3才しか離れていないけれど,常に2人の妹のお姉さんとして責任と言動を求められ,言いたいことを肚の中に収め,自己主張のすくなく大人しいターニャと,言いたい事をいい,欲求も不満も自由に発散する末娘ナタリアとの全く異なった性格から,特に思春期に入っての2人の仲の悪さは犬猿(スイスでは犬と猫)の仲といってもいいほどでした。私たちは大変胸をいため,姉妹仲良くしてくれるようにと祈り続けてきました。
この夏,やっと末娘ナタリアが独立し,2人がそれほど遠くない所に住み,長女ターニャが昨年夏結婚して善き伴侶を得てから,末娘が時折泊まりがけで遊びにいって,交流が深まっていることは知って嬉しく思っていましたが,まさか,お姉さんほど素敵…という言葉を聴くとは夢にも思っておりませんでした。
その3 見上げてごらん夜の星を…
家族が集まって祝う伝統的なスイスのクリスマスは,我が家にも30年近く定着しています。しかし,クリスト(キリスト=救い主)マス(礼拝)の名称が示す通り,キリスト イエスの誕生日を祝うという本来の意義は喪失し,ご馳走を食べ,プレゼントを交換するお祭りごととなっているのがスイスの大半の家庭の現状であろうと思われます。我が家では,ともに生誕のいきさつを聖書に読み,クリスマスソングの合奏や賛美をしてきましたが,末娘が思春期にはいり,ボーイフレンドの手前もあって大いに反発して,どことなくしっくり来ない,和も損なわれるクリスマスが何年も続いて胸を痛めてきました。ところが,今年のクリスマスは,末娘も一緒になって娘婿たちと一緒に心からクリスマスを祝う幸いが与えられてどれほど心底嬉しく思ったことでしょう。
末娘も5―6年ぶりかにフルートを取り出し,かってのように私のギター伴奏で,6年のブランクが嘘のように,美しいメロディーを奏でてくれました。
My Way,浜辺の歌 そして“見上げてごらん 夜の星を…”飛行機事故で帰らぬ人となった坂本九ちゃんの笑顔の熱唱ぶりが目に浮かび,思わず涙がこぼれそうになったものでした。