鉱山には星の神にまつわる伝説が多いようだ。
例えば,北極星は妙見神に,明星(金星)は虚空蔵神になぞらえられると同時に虚空蔵と妙見神は同体であるという。そして虚空蔵神や妙見神が祀られた山は鉱山であるという。
虚空蔵神や妙見神は表れないが,興味深いのは星伝説と鉱山があった徳島市の最高峰・中津峰山。弘法大師空海が南麓で,人々に災いを起こした悪い星を落として封じ込めたという「星の岩屋」がある。
北麓の徳島市多家良町には金山比古神を主祭神とする式内社「山方比古神社」がある。古くは「金谷大明神」と呼ばれた。一帯では金属生産が行われ,神社所蔵物に鉱滓があり,境内に溶鉱炉跡があったという。金属に由来する地名・金谷川も中津峰山頂付近から流れている。多家良町の地名も「宝があった」ことに由来する地名であろう。
西隣の八多町とは古代氏族の秦氏にちなむ説がある。豊玉比女神が主祭神の式内社「速雨神社」もあり,近辺からは銅鐸が出土している。注目されるのが,北隣の渋野町に5世紀中ごろに築造された徳島県最大の前方後円墳「渋野丸山古墳」(国指定史跡)がある点だ。多々羅川の北岸にあるが,多々羅川とは流域が古来の製鉄法で寺院の鐘を造る人が住んでいたことに由来するからだという。
渋野丸山古墳の被葬者は,一帯を統治した国造クラスの墓であることは間違いない。秦氏との関連は分からないが,金属と忌部との関係を考えると忌部一族の墓ではないだろうか。
よく似た例で,金比羅宮がある香川の大麻山の麓には忌部が祭祀をした大麻神社がある。銅鐸も出ている。有岡古墳群(国指定史跡)もある。北麓には金の文字が付く金倉川が流れている。金属も採れた山かもしれない。金比羅とは従来,「ワニや鯨であるkumbhira」からきたとされるが,インド最大の財宝神「kuber」に由来する説もあり,総合的に考えると後者に軍配が上がりそうだ。