もちろん,きみが大好きだよ
               松林 幸二郎

 “Hascht mi gern?” “私が好きかい?”
 ハンスさんがみえない目で私の魂の奥を覗き込むように私に尋ねる頻度は,勤務して3年ちかく経ったいま,さすがに減ってきましたが,今でも一日に幾度も私に尋ねる言葉です。
 ハンスさんは未だ40代半ばですが,全く歯がありません。20年前にグロスファミリーに来る前にいた施設で,あまりに自他傷癖がひどいので,全身麻酔をされて全ての歯を抜かれてしまったとのことです。視力のみならず,身体歩行能力がどんどん後退していくなかでハンスさんは荒れに荒れていったのは理解できますが,その攻撃性と自他傷癖の故に除け者にされ,何十年を孤独と苦しみのなかに,そして今は暗闇に生きてきた彼にとって“うん,勿論,大好きだよ”ということばほど重く大切なものはないのです。彼の「私が好きかい?」という問いは,根元的な人の魂の渇望からくる問いではないかと思います。私たちは,言葉にはしなくとも,伴侶に,親に,子に,隣人に,同僚に,そして,誰よりも神に絶えず問いかけている存在ではないでしょうか。
 “もちろん,お前が大好きだよ”と,無言の返事を受けて,私たちはどんな状況の中にいても,慰められ安心させられ今日を生き抜く力があたえられます。反面,その返事がなければ,精神のバランスを崩してしまい,様々な精神的肉体的疾患に遭遇する事になります。
 “Ja, I ha di gern”もちろん,きみが大好きだよ― この,シンプルな言葉は,なにも障害をもったハンスさんにのみ必要な言葉でなく,競争社会にあって孤独といわれる現代人全てがこころから欲している言葉でしょう。そして,こんなに小さく弱い罪ある存在である私も,日常生活のなかで,人から,そして神からの“Ja i ha di gern”の言葉を聴くことによって勇気と安心を得て,それぞれの人としての責務を果たしていけるのだと信じます。


ラジオ体操        石渡 修司

 教会の近くにある昭和町公園の朝は早い。毎朝,6時30分になると,ラジオ体操の放送が流れる。時間を合わせて,人が集まる。公園を囲む形に石タイルが敷き詰められている。その石タイルの上に横一列に並んで,体操が始まる。子どもの頃に,しっかり覚えてしまった体がラジオ体操の曲に合わせて,自然に動き出す。
 眠気が覚めやらない体も,体操が終わる頃には,すっかり覚める。挨拶を交わしながら,散っていく。時には,顔なじみになった人と立ち話しが始まることもある。他所から来た私にとっては,地元の人と,交わす会話は新鮮です。ここに来て,初めて知ったことも多く,感心したり,驚いたりする。決まった時間に仕事にかからなければならない勤めから解放され,朝の時間をゆったりと過ごすことができる者の幸いがある。
 住宅街の中にある公園,上手に利用され,人が絶えることがない。朝のラジオ体操から始まり,夕方には,子ども達の遊ぶ声が溢れる。日が暮れ,公園の灯りが点き,ベンチに腰掛けて,話する姿が見られる。以前,NHKテレビで見ていた「新日本紀行」さながらの風景が,ここにある。
「朝が来れば花を咲かせ,夕べにはしおれ」詩編90:6
 日々営まれている暮らしを公園が支えている。教会も公園に似ている。朝に元気を与え,夕に一日の労をねぎらう。住宅街にある教会だからこそ,公園のような役割を期待されていると思う。魂に安らぎを与えるところとして,是非,教会にお出でください。

新型インフルエンザ   石渡 路子

 新型インフルエンザが,ついに日本に上陸しました。未体験のウィルスであるために免疫力を持たない私達に対し,強い感染力で,圧倒的な勢いで広がっているようです。幸いなことは,毒性が弱く,季節性のインフルエンザと同程度であるとのことです。それでも,軽く見ることは危険です。風邪は万病の元といわれるとおりです。免疫力が衰えているから,風邪にもインフルエンザにも罹るのです。まして,今回の新型インフルエンザは,感染力の強さが特徴のようです。他の人にうつすことで,危険な状態にならないとも限りません。もしも罹ったら,動き回らないことだと言われています。
 そのために,人の集まるところが利用できなくなってきました。子どもたちを守るために,学校や保育園も閉鎖し,休みになってしまいました。子どもを預けて,働いている親にとっては,困ったことになっています。隣近所で助け合うという関係を築いていない現代の弱点を見せ付けられています。危機はチャンス(好機)と言う人もいますが,命が掛かっています。一日も早く,この危機を脱け出すことができますよう,また,良い対応策が与えられるよう,知恵を出し合いたいと思います。
「主は病の床で彼を支えられる。病む時にどうか彼を全く癒してくださるように」詩篇41:3(新改訳)
 病気の時には,心も弱くなります。その時こそ,互いに支え合い,助け合いたいものです。主がそのことを私達に託しておられることを強く感じます。

マンガ 四神相応 「白 虎」  楠 博文(くすのき いっぽ)