彼女はチョコレ−トと僕の顔を、交互に眺めて警戒している。しかし、
興味はあるらしい。小さな鼻をひくつかせて、匂いを かいでいる。
 僕は一欠け食べて見せて、再び彼女に差し出した。
 鳥少女は警戒しながらも、顔を近づけ、かりりとかじった。
 もぐもぐと口を動かしながら、目を丸くして表情を変えていく。
 味が気に入ったのだろう、彼女はついばむように僕の持つ 手から
チョコレ−トを食べた。
 チョコレ−ト板の大きさが半分になった所で、僕はそれをさっと
隠すと、彼女は不満そ うに僕の顔を見上げた。
「残りはおとなしく治療させてくれたらあげるよ」
 僕の言った言葉が上手く伝わっているのかいない のか、彼女は
口の周りを汚したままふくれ面をして見せた。
 僕は噴出しそうになり、少し彼女に対する恐怖心が和らいだ。

「足を診るから、座ってくれないかな?」
 僕が促しても座る気配が無かったので、まず僕が座って見せた。
「ここ。隣に すわってね」
 僕が隣を示しながら言うと、ちょっと首を傾げてから、彼女は
おとなしく僕の隣に座ってくれた。
 僕の まねをしてちょこなんと座った彼女は、少し可愛らしかった。

 彼女の傷は、そんなに深くは無かったが、やはり少し化膿しか か
っていた。
 傷の周りを触れようとすると、ぎゃっと声をあげてから、噛み付く
ようなそぶりを見せた。
 僕は少し ひるんだが、思い切ってそろりと患部付近に触れた。
 少女は一瞬息を飲み、きゅうっと目をつぶった。少ししてから、
彼女は目を 開け今度はさっきよりも大きな声で、ぐわあと抗議の
声をあげた。
「大丈夫だよ、悪い事はしないから」
 僕はなるたけ 優しい声で言うと、彼女は不満そうに鼻を鳴らした。
 僕はリュックから薬の瓶を取り出すと、ガ−ゼにそれを少し染み
込ませた。
 鳥少女は消毒液の匂いを嗅ぐと、ずずっと後ろに下がった。とても
警戒している。
 そういえば、この消毒液は少し減って いた。男が彼女に使ったの
かもしれない。だとすると、彼女はこの薬がしみる事を彼女は知って
いるのだろう。
 ・・・・・・困った。
 簡単には触らせてくれなさそうだ。
 しかし、この子の治療が終わらないと帰して貰えないだろう。

 しばし鳥少女と にらめっこした後、僕は突然「あっ」と大きな声を
出して、格子の向こうを指差した。
 少女は素直につられてくれた。
 彼女が 驚いて余所見をしている隙に、僕は彼女を横から翼ごと
抱きしめて、患部に消毒薬を塗ってしまった。
 当然、少女は初めて会った おじさんの乱暴な行いに怒り、ぎゃわ
ぎゃわと叫んだ。
 僕は手早く患部を消毒して、傷薬を擦り込み、ガ−ゼを当てて
何とか くるくると包帯を巻いた。
 自分の中でも最速の処置だったと思う。

 少女は騒ぐものの、その力は怪物の様ではなくて、 10代の
女の子のものらしく、非力な僕にでも抑える事が出来た。
 すぐに離せば噛み付かれたり、殴られたり、引っ掻かれたりしそう
なので治療が終わっても、彼女が落ち着くまで抱きしめたままでいた。
 しかし、ずっとこのままでいるわけにもいかない。彼女は薄い 布を
まとっただけの、裸同然の姿をしているのだ。
 羽根を抜かせば少女の外見なのだ。とても悪い事をしている気が
してくる。
わあわあとわめく少女を落ち着かせようと、僕は残りのチョコレ−トを
差し出しながら
「痛かったね。ごめんね。ちゃんと手当てさせて くれて偉かったね。」
 と言って頭を撫でた。
 偉かった偉かったと言いながら、頭を撫でている内に彼女は落ち着き
僕の手から チョコレ−トを食べ始めた。
 余程痛かったのだろう、うっすら涙を浮かべ、まだ少し不機嫌なまま
甘いチョコレ−トに噛み付いてる。
 その横顔を可愛らしいななどと思いながら眺めていると、がりりと指に
食いつかれ、今度は僕がぎゃあと叫んだ。


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