十、恵美
 「もしもし…」
 電話の声は若い女性の声だ。たぶん恵美さんだろう。
 「あの、喫茶店カワウソの店長さんから聞いたんですけど…恵美さん…ですか?」
 「ええ…そうよ。私が恵美よ。カワウソの店長?…ああ、河瀬(かわせ)くんの…。伊織は元気だったかしら?」
 「え、ああ…元気でしたよ。」
 店長の苗字が河瀬だったことが初耳だったので智津雄は少し戸惑った。そういえば店長と奥さんは学生のとき、サークルで知り合ったと言っていた。だからその二人のことを恵美が知っているのは当然のことだ。
 「そう。それは良かったわ。で、何か私に用なのかしら?」
 「はい…実は、香梨須マキ…いえ、角崎麻希さんについて聞きたいことがありまして…」
 「…!!麻希の…!?」
 恵美さんが驚いていたのがよく分かった。だがただの興味本位ではなく、真剣に聞きたいということを伝えるために智津雄は続けた。
 「はい、そうです。麻希さんのことです。店長に聞いたら恵美さんが一番親しかったと言われまして。遊び半分で聞いている訳じゃないんです。僕達…真剣に麻希さんいついて知りたいんです。ちょっと事情があって…。」
 「事情…?それは何…?」
 あきらかに恵美の声は震えていた。
 「嘘を言ってもしかたがないんで、はっきり言います。僕達、香梨須マキから呪いを受けたんです。昨日…。それで色々と手がかりを知りたくて…。」
 「麻希の…呪い…。そんな…今頃になって…また…。」
 そして、しばらくの沈黙の後、恵美は自宅に来るように言ってきた。智津雄は了解して、さっそく恵美の家に向かうことにした。
 電話を終えると嵐慈が聞いてきた。
 「おい、なんだって?」
 「家に来てもOKだってさ。さっそく今から向かうぞ。」
 「恵美って人、どんな感じだった?なんか電話越しに大きな声聞こえたけど…。」
 「ああ、香梨須マキの名を出した途端に驚いていたな。店長の言ったとおりだ。何か怯えていた感じがしたよ。」 
 「そうか…。でも何だろうな。そんなに怯えていたってことは、きっと何かあるんだと思うけど…。」
 「ま、それを今から確かめに行くんだ。俺達が色々考えたところで、なんかなるってわけじゃないしな。あ、次の角を右だ。」
 20分ほど歩いただろうか、やっと恵美の家に着いた。日もそろそろ暮れてきていた。
 恵美の家はどこにでもある普通の二階建てアパートだった。綺麗とも言えないが、決して汚くもない。智津雄と嵐慈は階段を上り始めた。
 「確か…202だったな…。」
 「なんか初めて訪れる家のインターホンを押す瞬間って、けっこうドキドキするよな。」
 「そうか?俺はそう思わんけどな。」
 そう言って智津雄はためらい無くインターホンを押す。
 インターホンを押すと音楽が流れた。よくあるインターホン用の曲だ。そして曲が鳴り終ると同時にガチャッという受話器のあがる音がして、女性の声が聞こえた。
 「はい?」
 「あ、さっき電話した…」
 「ああ、さっきの。どうぞ。開いてるわよ。」
 智津雄が言いかけた瞬間にすぐに返事が返ってきた。しかし、女の一人暮しで鍵もかけないとは…よっぽどヤリマンなのか、ブサイクなのか…。などど考えていると、嵐慈がドアを開けて入っていった。
 「おじゃましま〜す。」
 なんだか嵐慈は楽しそうだった。まあ、気持ちは分からないでもない。年上の女性の家に入るのだから。しかもこっちは男二人だ。襲おうと思えばいつでも襲える。そんなことを考えながら、智津雄も嵐慈に続いて入っていった。
 以外に綺麗な部屋だった。玄関から入ると、すぐに台所がある。部屋はその奥にあった。最近の女性の一人暮しはだらしないと聞いたことがあるので、どうせ散らかっているのだろうと思っていたが、恵美の家は以外と片付いていた。
 「何してんの?早く入ってきなさいよ。話しがあるんでしょう?」
 恵美の声が聞こえてきた。一体どんな女性なのだろう。智津雄は少し心を躍らせながら、そそくさと恵美のいる部屋に向かった。
 「どうも…こんにちは。すいません、お忙しいところ…。」
 「ああ…いいわよ。どうせ明日は休日だし。ま、座って。お茶でも出すわ。」
 「あ、すいません。」
 智津雄と嵐慈は言われるままに座った。
 恵美は思っていたよりも綺麗だった。髪はショートで、体は細身だ。胸は…そこそこ、Cカップというところだろうか。智津雄は舐めるように恵美の体を見ていた。
 やがて恵美がお茶を入れてやってきた。お茶を配るときにかがむと胸がチラチラと覗く。智津雄と嵐慈はついつい凝視してしまった。それを知ってか、シ知らずか、恵美はすぐに立ちあがりベットに座り込んだ。
 「で、なんだっけ?」
 ボ〜っとしていた二人はハッと我に返り、お茶をすする。
 「え、え〜と…、あの、香梨須マキについてなんですが…。」
 「そうだったわね…麻希のことね…。ところで、呪いをかけられたと言っていたわね?ちょっと詳しく教えてもらえる?」
 「は、はい。分かりました。」
 智津雄は時々胸元に目配せしながら説明をし始めた。



 「なるほどね…。3日以内に呪いを解く方法を見つけないと、最高の快感と共に性器が破裂して死亡…か。けっこうエグイわね。」
 「はあ…。まぁ、そうですね。」
 智津雄はまだ胸元を気にしている。
 「…で、嵐慈君だっけ?一応あなたは試してみたんでしょう?呪いを解く方法を。」
 「あ、ああ!はい!そ、そうです。リングっていうやつに似ていたんで、そのまま試してみたんです。ダビングして第三者に見せるってやつを。」
 恵美を見ながら淫らな想像をしていた嵐慈は急に声をかけられて戸惑った。
 「そう…ダビングしてみたのね…。」
 「はあ、それが正しいかよく分からないんで、色々と手がかりを見つけてるんですけどね。」
 「はっきり言って、ダビングしても意味は無いわね。」
 「え!?えええ!?」 
 智津雄と嵐慈は声を上げた。その声は部屋に響く。
 「な、なんでですか!?っていうか、なんでそんなこと言いきれるんですか!?」
 恵美はふぅと息を吐き、言った。
 「だって、その方法…昔試したけどだめだったもの…。」
 「昔って…どういうことですか?恵美さん、教えてください。」
 先ほどのイヤラシイ智津雄とは打って変わって、急に真剣になった。
 「そうね…あなた達も一応被害者だからね…。こうなった以上、何も教えないってわけにはいかないし…。教えてあげるわ。麻希…いえ、香梨須マキのことを。」
 このとき、智津雄と嵐慈のアソコはもういつの間にか萎えていた。


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