九、微風
 「………。」
 店長は無言のままだった。当然だ。こんな話し、そう簡単には信じてはもらえないだろう。そんなことは分かっていた。
 「ま、そういうわけ。信じてくれとは言わないけど、俺は本当のことを言ったぜ。」
 そう言うと智津雄は席を立った。
 「おい、智津雄。どこに行くんだよ?」
 嵐慈は智津雄を追いかけた。
 「時間がもったいないだろ。勘定すませて香梨須マキの手ががりを探しに行くぞ。」
 「あ、ああ…分かったよ。んじゃあ、店長、勘定頼むよ。」
 「…まあ、待て。」
 店長は勘定を済ませようとする二人を止めた。
 「誰も信じていないなんて言ってないだろう?このまま闇雲に香梨須マキの事を探していても時間の無駄だ。ちょっと待ってろ。」
 そう言うと店長は店の奥へと入って行った。何やら奥さんと話しをしているみたいだ。
 しばらくすると店長は一枚の紙を持って現われた。
 「ここへ電話してみろ。多分、香梨須マキに近づけると思う。」
 店長から渡された紙には何処かの電話番号が書かれていた。
 「店長、これは…?」
 智津雄がいまいち理解ができない様子で聞いた。
 「そこに書かれている電話番号は恵美先輩の自宅の番号だ。香梨須マキに近づきたいのなら、まずそこに電話してみろ。何か手がかりが掴めるはずだ。」
 「恵美…先輩?さっきの店長の話しに出てきた香梨須マキの親友の?」
 「ああ、そうだ。その恵美先輩の連絡先だ。幸いまだこの辺に住んでいるらしい。俺にできるのはこれくらいだ。今日のカワ茶はおごりにしといてやる。さっさと行って、呪いでもなんでも解いてこい。全て終わったら、また遊びにこいよ。」
 「サンキュー、店長。んじゃあ、行ってくるよ。急ぐぞ嵐慈。」
 「ああ、そんじゃ、店長またな。」
 「ああ、がんばってこいよ。」
 智津雄と嵐慈はすぐに店を飛び出していった。それを見送っていた店長に、奥から伊織が声をかけてきた。
 「あなた…。本当にこれで良かったのかしら…?」
 その声に気付き、店長はタバコを一本くわえ、火をつけた。そして伊織に言う、
 「ああ…、良かったと信じたいよ。あいつらが全てを終わらせてくれるってな…。」
 時計はすでに午後5時を回っていた。

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