四、悪戯
 「嵐慈…、お前…このビデオのことを知ってたんだな?こうなることも…。なんで見せた?なんで俺に見せた?…言えよ!」
 思わず智津雄は嵐慈に怒鳴りつけた。泣きたい気持ちだった。なぜこんな目に会わなくてはいけないのか、そう考えるだけで憤りを感じた。
 「すまん…、これ以外に方法が見つからなくて…。すまん。」
 肩を落とし、暗い顔でうつむいている嵐慈に、いつもの強気な態度はそこには見られなかった。
 「すまんって…、そんなこと言われても、ああいいよ…なんて言えるわけねーだろ!」
 「だってしかたないだろ!怖かったんだよ!自分の命がビデオを見ただけで決められちまうのが!ずっと打ち明けられなくて…打ち明けても嘘くさいって言われそうで…。だから同じ状況になって、理解して、一緒に考えてくれる仲間が欲しかったんだよ!今のお前ならそれが分かるだろ!?」
 半泣きの状態で我を忘れたように次々と言葉を放つ嵐慈に智津雄は多少怒りも覚えたが、同情もした。確かにこれは同じ状況に陥らなければ分からないかもしれない、そう思った。今自分達がすることは互いの傷つけ合いではなく、協力することだろう。
 「そうだな…お前の気持ちもわからんでもないな…。しかたない、こうなっちまったからには、協力して呪いを解く方法を探そうぜ。」
 「智津雄…、お前ってやつは…、すまん…。」
 嵐慈は智津雄のやさしさに心を打たれたのか、涙を流していた。
 「泣くなよ嵐慈、何か照れるじゃねーか。…そ、そういえばさ、さっき香梨須マキが言ってたんだけど…、嵐慈に呪いを解く方法を聞け、みたいなことを言ってたんだけど…。お前何か知ってるのか?」
 「呪いを解く方法…?香梨須マキがそんなこと言ってたのか。」
 涙を拭きながら、かすれた声で嵐慈が言う。目はまだ赤い。
 「ああ、確かに言ってたぜ、近くにいるお友達に聞けってさ。」
 「そうか…じゃあ多分あのことだな。」
 「あのこと…って?」
 「実はもう試したんだが…、成功したかはまだ分からない。」
 「それはどんな方法なんだ?」
 智津雄は嵐慈の顔をのぞき込むように聞いてみた。
 「智津雄は『リング』っていう映画知ってるか?実はな、その話にも呪いのビデオテープが登場するんだ。そしてビデオを見終わった後には電話がかかってくるんだよ、ただし無言だけどな。そして一週間以内に呪いを解かないと、死んでしまうという内容なんだ。」
 「なんとなく聞いたことあるぜ…、貞子ってやつが呪いの元なんだろ?」
 「ん、まあそんなとこなんだけどな。で、その呪いの解き方が一つだけあって、呪いのビデオテープをダビングして、第三者に見せるんだよ。そうすると呪いが解除されるんだ。」
 「…ってことは、さっきのビデオはダビングしたやつってことか?」
 「ああ、そうだ。智津雄には悪いけど試させてもらった。今回のこの出来事がほぼ『リング』の内容にそっくりだったんで、やってみたんだ。だけど本当にこれが正しい解除方法かは分からないからな…。一応、智津雄もダビングしとけよ。そのために空のテープを持ってきた。」
 嵐慈は鞄から空きのテープを出して、智津雄に手渡した。
 「嵐慈…、わりぃんだけど、俺んちビデオデッキが一台しかないんだよ…。」
 「え…。そうだっけ…。」
 「じゃあ、明日にでも俺んちに来てダビングしようぜ。」
 嵐慈はそう言ったが、智津雄は三日間という時間しかないことを思いだし、今から行こうということになった。
 時計を見ると午後11時をまわっていた。確かビデオを見終わったのは9時45分頃。もう一時間以上たっていた。一秒でも時間を無駄にするわけにはいかない。時間は止まってはくれないのだから。
 智津雄と嵐慈はタクシーを呼んで、すぐに嵐慈の家に向かった。そして嵐慈の家に着く頃には0時をまわっていた。
 「相変わらず散らかってるなー、お前んちは。」
 部屋に入るなり発した智津雄の第一声はこれだった。ゴミ袋や段ボールはためてあり、部屋の中も散らかりすぎている。どうやって歩けばいいのか分からない。嵐慈は適当に散らかっている物を端の方に無理矢理寄せると、なんとか座れるスペースを作った。
 嵐慈の家は、智津雄の家からかなり離れたところにある。にぎやかな場所で、近くには国道やデパートがある。智津雄は静かなところが好きなので、こんなうるさい場所に住んでいる嵐慈の気がしれなかった。しかし今は少しでも賑やかな方がいいと感じた。静かだと時間に押しつぶされてしまうような、そんな気がした。
 「おい、ダビングの準備ができたぞ。始めようぜ。」
 「あ、おう。」
 嵐慈にビデオを渡して、智津雄はわずかなスペースに座った。このビデオは約40分ものだから、まだ時間がかかりそうだ。智津雄はダビングが終わるまでに、嵐慈に聞いておきたいことがあった。
 「なぁ嵐慈。聞きたいことがあるんだけど。」
 「ん、なんだ?」
 ダビング開始のスイッチを押した嵐慈がこちらに振り向く。
 「嵐慈はさ、いつ、どうやって香梨須マキのビデオを手に入れたんだ?」
 「え?ああ、えーと、確か昨日の夕方だよ。バイト帰りにゴミ捨て場を通りかかったら、ポツンと捨ててあってさ、なーんか裏物っぽい雰囲気出してたから…つい拾っちまったんだよ。そんで家に帰ってきて、見たんだよ。最初はビックリしたね、あの伝説のAVだったからな。でも最後まで見てたら…さっきみたいな感じさ。後は智津雄も知っての通り、呪いをかけられちまったってわけ。」
 嵐慈はそこまで話すと、ハアーとため息をついた。
 「じゃあ、ビデオを見終わったのは何時頃だったんだ?」
 「確か…家についてすぐだったから8時には見終わってたかな…。」
 「ってことは、今0時半だから…嵐慈は約43時間、俺は約69時間しか残されていないってわけか。きついな…。」
 智津雄は爪を噛み、腕を組みながら考え込んでしまった。
 「でもさ、このダビングしたビデオを第三者に見せればOKっていう方法が合ってるならいいよな。」
 「まあ、それはそうなんだけどな。もし違ってたらやばいし…。一応別の方法は考えるべきだよ。」
 「そうだな…確かに智津雄の言うとおりだ。別の方法も考えなきゃな。」
 「そういうこった。しかも、嵐慈にはワリィけど、俺の方が一日時間があるからな。お前が解除方法間違えたとしても、俺にはまだチャンスがあるってわけだ。酷な言い方だけどな。」
 「こ、酷だな…。」
 嵐慈は自分の命が追いつめられていることを再確認したのか、暗くなり、目には涙がたまっていた。
 「しかたないだろ、いまさら後悔すんなよ。時間は違えど、俺も条件は同じだ。お前の時間に合わせて、確実な解除方法を探してやる。」
 「すまん…ありがとよ、智津雄…。」
 そう言ってまた嵐慈は泣きだした。智津雄は、嵐慈ってこんなキャラだったのか?と思いつつ慰めた。
 「おいおい、泣くなよ。お前はもっと強気なキャラだろーが。お前がしっかりしてくんなきゃ、俺まで不安になっちまうだろ。頼むぜ、いつもの嵐慈で行こうぜ。そんでもって、この質の悪い遊戯に勝ってやろうぜ。」
 智津雄は嵐慈の背中をポンと叩きなが吠えた。すると嵐慈も持ち直し、勇ましくうなずき、吠えた。
 「この勝負、勝ちに行くぜ!」
 どこかで聞いた台詞だった。

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