三、当選
数々の体位と技を披露してきた男優が香梨須マキの顔に大量の精液を発射し、ついに果てた。しばらくその場の雰囲気を味わうように、香梨須マキの顔がアップで映されていて、息を整えていた。
「これで終わりかよ…。なんか物足りないけど…、さすが伝説のAVと言われているだけあって、内容は今まで見てきたAVの中でもトップランクだな。いいもん見せてくれてありがとよ、嵐慈。」
「いや、いいんだ。せっかく手に入れた伝説のビデオを独り占めするってのも悪いしな。みんなに見てもらって香梨須マキのすごさを知って欲しかったのさ。」
「ははは、よく言うぜ、このエロエロ星人が。」
そんな冗談を言いながら智津雄はビデオを最初に巻き戻そうと、いったん停止ボタンを押そうと手を伸ばした瞬間、
「待って…。」
と、弱々しい女性の声が突然聞こえた。
「え?嵐慈、何か言ったか?」
智津雄は停止ボタンを押すために伸ばした手を止め、嵐慈の方を向いた。
「いや、俺は何も言ってないぜ。それよりテレビに注目した方がいいんじゃねーか?」
嵐慈は少し緊張した面もちで、なぜか笑みを浮かべ智津雄をテレビ画面に促した。嵐慈に言われたとおり智津雄はテレビを見たが、そこには香梨須マキが息を整えている様子が映し出されているだけだ。
「まあいいや、ビデオ巻き戻しとくぞ。」
そう言って智津雄が再び停止ボタンを押そうとしたとき、急に画面の中の香梨須マキが立ち上がり、智津雄をいやらしい目つきで凝視してきた。最初はただのカメラ目線かと思ったが、明らかに様子がおかしい。まるで香梨須マキには智津雄の姿が見えているみたいに感じる。
「おい…、嵐慈…、なんか変じゃねーか?これ。男優もいつの間にか消えてるしさ、撮影した後のにぎやかな風景も聞こえないし…。」
「見てれば分かるさ。いいから黙ってそのまま見てろよ。」
嵐慈はイライラした様子で強く智津雄に言い放つと、またジュースを一口だけ口に含んだ。
「なんなんだよ…。なんかお前も変だぞ。今から何が起こるって言うんだよ…。」
頭をかじりながら、智津雄はしかたなくテレビを見ることにした。
すると突然、画面が乱れ始めた。香梨須マキは、まっすぐな姿勢のまま口元に笑みを浮かべている。その仕草も、なぜだかいやらしく感じる。だんだんその様子が不気味に思えてきた智津雄だったが、なぜか画面に見入ってしまっていて、止めることができなかった。
しばらく見ていると、乱れた画面の中の香梨須マキが突然笑いだした。
「ふふふ、あははは。くすくす。」
顔の表情を変えないで笑う香梨須マキはまるで心がない人形のようだった。
「うわっ、なんだよコイツ、なんか気持ち悪いぞ。何でこんな笑いかたしてんだよ。」
智津雄は香梨須マキの異様な様子に恐怖を感じ始めた。明らかに今、この状況は変だと思い始めた。ビデオの中の香梨須マキの様子といい、さっきからの嵐慈の様子といい、何か部屋の中全体に、重く冷たい空気が漂っている。しかし智津雄は香梨須マキから目を離すことができなかった。なぜだかわからなかったが、それは香梨須マキのカリスマ的雰囲気からくるもののようにも思えた。
次の瞬間、表情を変えずに笑っていた香梨須マキが、突然笑いをピタッと止めた。そしてさらに画面の乱れが激しくなった。
「あなたは…戒められた…ふふふ、おめでとう…。」
香梨須マキは微かに笑みを浮かべ、智津雄を見つめてそう言った。その言葉を言い終えると、満足したようにニヤリと笑い、後ろを向いて歩いて行ってしまった。そしてテレビはさらに激しく乱れ、ピンク色から白色に変わり、プツンと切れたように黒い画面になった。どうやらビデオが終わったらしい。
ビデオの機械音だけが部屋に響いていた。智津雄はうまく頭の中がまとまらず、ただ呆然としているだけだった。
「そろそろくるぞ。」
沈黙を破るように嵐慈が智津雄に言った。いったい何がくるのか、智津雄はわけがわからなかった。
すると、突然智津雄の携帯が鳴りだした。なぜだかいつもより大きく聞こえる着信音が、沈黙の代わりに辺りに響いた。智津雄は一応着信画面を見た。すると『非通知着信』と表示されている。智津雄は普段、非通知の着信は取らないのだが、なぜだか手が勝手に受話ボタンを押してしまった。
「もしもし?誰ですか?」
ありきたりの応答で智津雄は相手が誰だか分からない電話にでた。しかし返事はない。…と思った次の瞬間、電話の向こうから賑やかな効果音が聞こえた。よくテレビ番組などで使われる、何かに当選したときの効果音だ。
「おめでとうございます。あなたは見事当選致しました!」
智津雄はキョトンとした表情になった。電話の向こうからは元気の良い女性の声が聞こえてきたからだ。智津雄はてっきりホラー映画のような展開になるのかと思い、無言電話の類がかかってくるものだと思っていた反面、意外な展開に唖然とさせられた。
「え?はあ、え?何が当選したんすか?」
智津雄はあたふたしながら相手の女性に聞いた。これが勧誘系の電話だとしても、この部屋の嫌な空気を打ち破れれば今の智津雄にはどうでも良かった。
「あの、もしもし?何の当選っすか?」
「ふふふ、そんなに興奮なさらないでください。ゆっくり説明致しますから。」
別に興奮してるわけではないのだが、智津雄は黙って聞くことにした。だが、なんだか妙な違和感を覚えた。
「ふふふ、よろしいですか?では、ご説明させていただきます。」
まただ、やはり何か妙な違和感というか、変な感じがする。そんなことを思いながらも智津雄は静かに聞いた。
「まず、このような夜分遅くにお電話したことを深くお詫び致します。」
「いえ、別にいいっすけど。」
「ふふふ、そう言ってもらえるとありがたいです。」
さっきから感じるこの不快感、胸が嫌な感じでしめつけられるような気がするのは気のせいか、智津雄は無意識のうちに右手を強く握りしめた。そして、当選の説明が始まった。
「あなたは伝説のビデオを見てしまいました。したがって、香梨須マキの呪いが本日からかけられることになりました。おめでとうございます。」
その言葉を聞いたとき、智津雄はサーッという血が引く音を聞いた気がした。
「え!ち、ちょっと待ってくださいよ!どういうことですか!?からかってるんすか!?」
智津雄は嘘であって欲しいと思いながら怒鳴った。しかし、その思いは届かないことを知る。
「いいえ、からかっているわけではありません。私は事実を伝えたまでです。もう一度言います。あなたには香梨須マキの呪いがかけられました。おめでとうございます。」
「ば、バカな!こんなバカなことがあってたまるか!人をだますのもいいかげんにしろ!電話切るぞ!」
「よろしいですよ。お好きにしてください。ただし、困るのはあなたですからね。ふふふ…。」
その声を聞いた瞬間、智津雄の中で先ほどからの嫌な不快感の謎が解けた音がした。
「その声…、…まさか香梨須マキか!?」
智津雄は部屋の外まで聞こえるようなでかい声を出した。まるでマンガのワンシーンのようなその光景に、横にいる嵐慈は少し笑いたくなった。
「そうなんだろ!あんたは香梨須マキなんだろ!?おい!」
「…ふふふ、鋭いわね。というか当然かしら?さっきまで私のビデオを見て、アソコを勃起させてたんですものね。」
香梨須マキはバレたらしかたないといった感じで、急に口調を変えた。
「い、いったいどうなってやがるんだよ!?おい、嵐慈どうなってんだよ!」
錯乱状態の智津雄は横にいた嵐慈に怒鳴りつけた。だが嵐慈は何も言わない。
「こらこら、あなたは今、私と話しているんでしょう?お友達にかまっている暇は無いわよ。」
「く、くそっ、何がなんだかわかんねーよ!」
「だから言っているじゃない。今から私が説明してあげるって。考えている暇なんてないのよ。もうあなたには呪いがかけられたの。時間は過ぎていくばかりよ。どう?私の話を聞く気になった?」
「く…!わかったよ、聞いてやんよ。」
さすがにこのままではラチがあかないと思ったのか、智津雄は香梨須マキの話を聞くことにした。
「…静かになったわね。どうやらやっと私の話を聞いてくれるみたいね。賢明な判断だわ。じゃあさっそく話してあげるわ。」
香梨須マキは息を整えると静かに話し始めた。
「まず、あなたが見たビデオはね、呪われたビデオなのよ。リングっていう映画はご存知かしら?まぁあれに似たようなものね。この呪いのビデオを見てしまった人にはもれなく呪いがかかる特典付きなの。知っていると思うけど、私…香梨須マキが主演のビデオは数少ないの。しかも無修正はレア中のレアなのよ。なんか巷では伝説のAVとか言われてるみたいだけどね。まぁそんなわけで、せっかくこのAVを手にした人に何かご褒美をあげなくちゃと思ってね。そこで考えついたのが、私の呪いをプレゼントしようってことなわけ。本当は他にも理由があるんだけど、今は内緒…。」
智津雄はあえてつっこんでみようとしたが、一応最後まで聞くことにした。
「私があなたにかけた呪いとは…、ふふふ、喜んでね。それは…ビデオを見た者は、三日以内にあることを実行しないと、最高の快感と共に精巣と性器が粉微塵に破裂する…というものよ。あ、ちなみに女性の場合は卵巣が破裂するわ。どう?たまらないでしょ?最高の快感を味わってみたくない?ふふふ。」
香梨須マキはそう言うとまるで子供のように無邪気に笑った。
「ふざけんなよ!いくら最高の快感を得ても、精巣が破裂しちまったら死んじまうじゃねーか!」
智津雄はたまらず香梨須マキに言い放った。
「あら、何を言っているのかしら?そんなの当たり前じゃない。それが呪いってものでしょう?本来なら感謝してほしいところよ。だってそうじゃない、『リング』で言えば、呪いは一週間後に発動して、被害者はただ苦しみながら死ぬだけなのよ?それでは酷だと思ったから死ぬ代わりに、最高の快楽を与えてあげるのよ。ふふふ、しかもこんなにも色々と話してあげちゃうなんて、私ったら気前の良い貞子ってところね。ははは!」
大声で笑う香梨須マキの声が携帯ごしに聞こえる。どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。
「お前ってやつは…!なんて女だ…!」
智津雄はムカついてそう言い放つと、香梨須マキは笑いを止め、冷たい口調で話してきた。
「…あなたみたいな男に言われたくないわね。人のHシーンを見て射精しているような欲望の塊に…。」
香梨須マキの予想外な反応に、智津雄は黙ってしまった。
「あら、ごめんなさい。私としたことが、少し取り乱しちゃったみたいね。気にしないでいいわよ。あなたが気にすることはただ一つ、私の呪いをどうやって解くか…でしょ?」
「そうだ…、いったいどうすれば呪いが解けるんだ!?」
智津雄は思わず食いついた。呪いを解きたい、それは誰もが思う当然のことだ。
「ははは、あなたバカ?なんでそんなこと教えなくちゃいけないのよ。そんなの教えちゃったら、呪いをかけた意味がなくなるじゃない。そうねー、あなたの近くにいるお友達にでも聞いてみたら?」
お友達…?嵐慈のことか。智津雄は嵐慈の方を見た。すると嵐慈はただうなずくだけだった。
「ふふふ、それじゃあ私はこのへんで電話を切らせてもらうわね。死にたくなかったら考えなさい。死にものぐるいでね。ふふふ…。」
「ま、待て!まだ話は終わっていない、切るな!」
プツッ、ツーツーツー…。智津雄の声がむなしく響きわたり、電話は切られた。智津雄はため息をついて携帯を置き、自分の手を見た。
「本当に呪いがかけられたのかな…どうも信じられない…。けど、あのビデオといい、今の電話といい…信じるしかないか。」
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