七、川獺
午後3時。朝から香梨須マキについて調べていた智津雄と嵐慈は連絡を取り合い、集めた情報を元に、これからどうするか決めるため、喫茶店『カワウソ』に入った。
喫茶店『カワウソ』は学校から歩いて10分のところにあり、学生達が集まる店として有名な喫茶店だ。店の名前の由来は、ここの店長が学生時代にカワウソと呼ばれていたことから来てるらしい。
「こんちは…」
智津雄と嵐慈が疲れた感じまんまんで喫茶店に入る。
「おう、どうしたー?元気ないなー。」
店長は二人の様子を瞬時に見抜き、声をかけた。
「え?そうっすか…?まあ確かに色々ありましたしね…。」
そう言うと嵐慈はゆっくりとカウンターに座った。続けて智津雄も座る。
「うん?なんかあったのかい?まぁまずは注文してくれよ。」
「んじゃ、カワ茶ちょーだい。」
「あ、俺も。」
「あいよ、カワ茶二つね!」
カワ茶というのは、この店で人気の飲物のことで、正式名はカワウソ特製16ビート茶という。長くて変な名前なので誰もそう呼ばず、略して呼んでいる。変なネーミングのわりに人気があるのは、100円という安さで量が多く、しかもなんだか懐かしい味がするという理由があるらしい。夏はアイス、冬はホットになる。作り方などは一切明かされていないミステリアスな所も魅力の一つなのかもしれない。
注文した後、智津雄と嵐慈はグテーっとテーブルにへばりついた。
「嵐慈…何か情報は入手できたんか?」
「お前はどうなんだよ…雑誌とか見たりしてよぉ、なんか分かったこととかあんのか?」
しかし二人とも顔を見合わせて、ため息を吐いて黙ってしまった。
「なんだよ、何も分からなかったのかよ…。」
先に口を開いたのは嵐慈だった。
「ああ、そうだよ、まったく分からなかったよ。どの雑誌を見ても駄目、会社とかに問い合わせても、香梨須マキについての情報がほとんど残ってなくて…読者から情報も送られてこないし、香梨須マキ本人もAV界を引退した後どうなったか分からないんだとよ…。お前は何か分からなかったのかよ?」
「…駄目駄目、みんな香梨須マキのビデオなんか見たことないし、知ってることといえば俺達と同じようなことばっかでさ。お手上げ状態だよ。」
二人が肩を落とした時に、目の前に飲物が置かれた。
「あいよー!カワウソ特製16ビート茶お待たせ!」
店長の威勢のいい声に二人は顔を上げた。
「ん、ありがとうっす。」
「おいおい、どうしたんだ?本当に元気がないなぁ。俺でよければ相談に乗るぜ。」
「んー、そーだなー、店長さ、香梨須マキって知ってる?AV女優の。」
智津雄は相談に乗るという言葉に甘え、尋ねてみることにした。駄目で元々、聞いてみるにこしたことはない。
「ははは、なんだよ、AVのことで悩んでたんか?いいオナニーができなくて困ってるとか?若いなあ。」
「別にそんなんじゃないって。店長何か知らない?」
嵐慈は投げやりに言った。
「ああ、知ってるぞ。香梨須マキだろ?有名じゃねーか、伝説のAV女優って。最近はあんまし聞かなくなったけどな。」
「うん、そうなんだよね。皆そのことは知ってるんだけど、それ以上のことは知らないんだよ…。俺達はそれ以上のことについて知りたいんだけど。はぁ…。」
そう言うと嵐慈はまた暗くなってしまった。
「それ以上のこと?そんなこと知ってどうするんだ?」
店長は不思議そうに二人に聞く。
「なんていうか、理由は言えないんだけどさ…とにかく俺らにとっては大事なことなんだよ…。」
智津雄は一口だけカワ茶を口に含み、ふさぎ込んでしまった。その様子を見て、店長はなにかを察したのか、何かを決心したように静かに口を開いた。
「なんか理由があるみたいだな。分かった、俺が香梨須マキについて知っていることを話してやろう。これは多分お前達の知らないことだ…。」
その言葉に智津雄と嵐慈は頭を上げた。
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