Track 1. ラブラドール

今夜の帰宅も午前様。
昼間は学校、夜は事件の捜査。
連日連夜の忙しさで、さすがに疲れ果てた体を引きずって、暗闇に包まれ、静まり返った我が家に足を踏み入れた。
そのままキッチンへと向かい、蘭が用意してくれた夕食に難なくありつけるはずだったのに、この夜に限っては、思いもよらぬ邪魔が入る。

「痛ってえーっ!!」

(玄関の電気を付けなかった俺が悪いと言えば悪いのかもしれないが、だからといって、こんなところに、こんなものを置いておくか、普通・・・)
俺は不意な来客者に足を取られ、見事に転んだわけで――――

どういうわけか、玄関を入ってすぐの所にラブラドールの置物が鎮座。それも、等身大でかなりの重さのやつが。やけにリアルで、瞳なんかは透明感があったり、その表情は薄っすら微笑んでいるようにさえ見える。その上、首には赤いスカーフを巻き、口から上手い具合にカゴなんかぶら下げたくらいにして。そのカゴの中には、手紙まで入ってるし。
それはまるで、どこぞの絵本の中から出てきたような姿。

犯人の心当たりは二人。隣りに住む、一風変わった自称発明家か、もしくは、キッチンに夕食を用意してくれた彼女。まあ、手紙があったってことは後者だろうけど。ただ、それだと20キロくらいの重さはあるだろうに、どうやって運んだのかが疑問ではあるが……

こんな大きな家に一人だと寂しいだろうと思って、今日、お父さんが町内会の人から貰ってきたラブラドールを置いていくね。
目なんかクリクリしてて、すごく可愛いでしょ?
本当は最初、私の部屋に置こうかと思ったんだけど、新一の家なら毎日見に行けるしね。
お願いだから、らぶちゃんを邪険に扱わないでよ?
それじゃあ、明日学校で……
おやすみなさい     X X X

手紙は案の定、蘭からのもので。
(ということは、おっちゃんがコイツを運んだってことか? あのおっちゃんが?)
等身大ラブラドールの置物を運ぶ毛利小五郎。
そんな姿を想像すると何だか拍子抜けして……
いつの間にか、疲れも忘れてしまっていた。

ちなみに、この「らぶちゃん」、翌日には、我が家を去っていった。
と言うのも、やっぱり惜しいと言うので、元の持ち主に返されることになったため。
俺は、内心ホッとするものの、蘭は既に愛着があり手放したくなかったらしい。
翌日には、冗談半分で「本物のラブラドールを買わない?」などと言ったくらいにして――――

最初なので、これくらいで勘弁を!
作中の太字部分は意味がちゃんとあります。アルバムが完成すればわかると思うんですが、とりあえずは、お楽しみってことで。

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