「おい! さっきのイングリット・ブレックファーストって何だ?」
男の怒鳴り声が部屋を満たした。
「あ、あの、紅茶の種類です。すみません、私も混乱していて、何を言おうとしたのか、自分でもよくわからなくて……」
答える蘭はコナンを抱え、全身を小刻みに震わせている。迷い子のようなその瞳には涙が湛えられていた。
まだ4歳にも満たないコナンが、必死に恐怖と戦い、冷静を装い続けている。母である自分がここで失敗するわけにはいかなかった。
(どうか、演技だと気付かないで……)
蘭の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「アヤ、そんな名前の紅茶、知ってるか?」
男の声から怒気が薄らぐ。
「うん。確か、そんな紅茶が家にもあったような気がする……」
女の声は微かに震えていた。
* * *
「発信地点の確認は取れませんでした」
部屋に戻るなり、高木は力ない声で報告した。
「そうか……」
と答えたのは目暮で、その声も力の無いものだった。
無言の毛利夫妻の表情にも落胆の色が広がる。
「ただ……」
と、高木が躊躇いがちに言葉を発する。
「もしかして、スカイプですか?」
落ち着いた口調で尋ねたの新一だった。
「え? あ、うん。確かに、通信会社の人によると、その可能性が高いじゃないかという話だったよ」
「やはり、そうですか……」
「スカイプとは何だね?」
目暮の質問には、新一が答えた。
「簡単に言えば、パソコンなどを使ってインターネット経由で通話が出来るソフトのことで、スカイプ利用者同士なら世界中どこでも通話料無料というものなんですが、このスカイプでの通話だと、アクセス毎に認証キーが変わるという性質上、逆探知はまず不可能なんです」
「そんなソフトがあったとは……」
目暮はそのまま押し黙ってしまった。
「すみません、高木刑事。戻ってきて早々を悪いんですが、今すぐ確認して欲しいことがあるんです」
「何だい、工藤君?」
「今日発生したという2件の強盗事件の、逃走中の犯人が捕まったかどうかなんですが」
「まさか!?」
疑問をぶつけるかのような英理の視線に、新一はただ黙って頷く。
高木は慌てて入り口付近の電話の受話器に手を伸ばし、内線通話のボタンを押した。
「……ありがとうございます」
頭を下げながら高木が受話器を戻した。
「どうでしたか?」
「奥穂町の宝石強盗犯はさっき捕まったそうだが、杯戸駅近くの消費者金融に押し入った犯人の方はまだ捕まっていないらしい」
「杯戸駅の消費者金融の近くにコンビニがありましたよね? もしかして、そこの防犯ビデオの解析が、今、鑑識でされてたりしませんか?」
「あ、ちょっと待って、すぐに確認してみるから」
高木は再び受話器を取った。
数十秒後。高木は受話器を手にしたまま新一に頷いた。
「今すぐそちらに向かいますので、僕にも映像を見せて貰えるよう頼んで下さい」
「新一、どういうことだ?」
痺れを切らせて、小五郎が問い質したのだが、
「すみません、僕の推理を当たっているかどうか確認するまで、もう少しだけ待って貰えますか?」
とだけ言い残し、高木の頷きを待って、新一は部屋を飛び出した。
* * *
蘭の説明に納得したのか、男はそれからずっと黙ったままパソコン向かっている。一方の女は顔の色を失い、じっとコナンの脇に座り続けていた。 蘭がさりげなく時計を見ると、夕方の6時になろうとしていた。
沈黙に耐えかねたのか、それとも、気持ちを紛らわせたいのか、突然、女がコナンに声を掛けた。
「ボウヤ、いくつなの?」
コナンは蘭の方を見て、その表情を確認してから答える。
「もうすぐ、4歳」
「へぇー、しっかりしてるね」
女はぎこちなくコナンに微笑みかけた。
「できちゃった結婚ですか?」
躊躇いがちに女に問われ、蘭は「ええ」とだけ答えた。
「若いですものね」
と、女は誰に同意を求める風でもなく言った。
僅かに間が空いた。
「ねえ、パパとママは好き?」
「うん!」
コナンは迷わず答える。女に目に薄っすらと涙が浮かんだ。
「そっか、ずっと好きでいられるといいね」
女の言葉の意味がわからず、コナンはただ首を傾げた。
「おい、アヤ!」
男が突然、立ち上がった。
「その子を抱いて、こっちに座ってくれるか?」
「え?」
男は理由を言わぬまま部屋を横切り、蘭の手錠から伸びた3メートルほどのロープをトイレの内側のドアノブにその端を括りつけた。これで蘭はコナンに触ることが出来なくなった。
「ちょっと、10分くらい出てくるから。その間、決して油断をするなよ?」
とだけ言い残し、女の返事を待たず、男は部屋を後にした。
十数分後、男はコンビニの袋などいくつかの荷物を手にし戻ってきた。その中には、車に押し込まれるまでコナンが大事に抱えていたシフォンケーキの箱2つと、車の助手席に置かれていたテディベアもあった。
それらの荷物をソファー前のテーブルに置くと、男は先ほどと反対にトイレへと向かい、ロープの端を手にアヤの元を戻る。アヤはコナンを抱いて、再び蘭の隣に座った。男は女にテディベアを手渡した。
「これで少しは気持ちも落ち着くだろ?」
女は大事そうにテディベアを抱えた。
「ケーキだよな、これ? 悪かったな、こんなにしちゃって……」
2つの箱はどちらも角が潰れるなど、原型を留めていなかった。
「そろそろ腹も空くだろうと思って、買ってきてんだが……」
とコンビニの袋を開ける。テーブルの上に、サンドイッチやおにぎり、お茶やジュースなどを並んだ。男はその中からおにぎりを一つ手にし、おもむろに食べ始めた。
「アヤも食べとけよ!」
女はただ首を横に振った。
「ボウズは?」
コナンも首を振る。男の視線が蘭に移ったが、蘭もまた、同じように首を振った。
「そりゃ、俺の用意したものなんて、食いたくはないよな……」
男は苦笑する。
「だったら、こいつはどうだ?」
と、男がシフォンケーキの箱の一つを手にしようとした時、コナンが慌ててその箱を手にし、もう一つの箱を男に差し出す。コナンの手にはアールグレイのシールが貼られた箱が残っていた。
コナンの思いを察し、蘭は穏やかな口調で言った。
「嫌いでなければ、どうぞ! 甘いものは気持ちを落ち着かせるとも言いますし。コナンは?」
蘭の問いかけに、コナンは先ほどと同じように首を振った。
「では、私たちは飲み物だけ頂きます」
と、蘭はコナンにオレンジジュースを渡し、自身はミネラルウォーターを手にした。
「アヤ、せっかくだから頂いたらどうだ?」
「じゃあ、少しだけ……」
男は潰れかけた箱からシフォンケーキを取り出し、手にしていたナイフで切り分け、女にその一片を渡した。女は一口、ケーキを口にする。
「美味しい。優しい味だね……」
女は誰に見せるでもなく痛々しく笑って、それだけ呟いた。
* * *
「コイツだ……」
鑑識課の机の一つでビデオに見入っていた新一が、ビデオの停止ボタンを押して言った。画面には、コンビニの駐車場に停まった黒い外国産の大きな車の運転席から降りてきた、若い女の姿が映っていた。
「もしかして、この女が消費者金融に押し入った犯人?」
「いえ」
と新一は、車の後部座席の窓の向こうに微かに映る人影を指差した。
「彼が犯人です!」
「すみません。今すぐにこの車の車番を杯戸駅北側のNシステムのデータ、そうですね、その内、午後3時前後のものと照会してもらえますか?」
「わかった」
と、新一に座席を提供した若い刑事が答える。
間もなくして、杯戸町外れのNシステムのデータと一致したと報告された。
「車の所有者はわかりますか?」
「そう言われるだろうと思って、ついでに調べておいたよ。所有者は賢橋町の櫻井章三……」
「櫻井章三って、桜は難しい方で、文章の章に数字の三の章三ですか?」
「ご名答!」
「そういうことか……」
新一の表情が変わった。
「もう一つだけお願いします。杯戸駅から北側の検問をしている警察官たちに、この車を見ていないか、その車内に若い母親と男の子が乗っていなかったかを確認して欲しいんです」
「了解!」
「もしかして、犯人がわかったのかい?」
二人のやり取りを黙っていた高木が、ここで口を開いた。
「いえ。ただ、容疑者は数名に絞り込めたと思います。そこで、その容疑者から犯人を割り出すために、高木刑事に調べて欲しいんです」
「わかった。で、僕は何を?」
「はい。ここ数年、急激に業績を伸ばしているという、賢橋町の櫻井不動産社長、櫻井章三の家族構成。それと、彼の所有する不動産のうち、地下室のある物件で比較的小規模なもの、もしくは、入居者等が少なく、昼間の人の出入りが少ないものを」
「君は、そこに蘭さんとコナン君がいると考えているんだね」
「はい。理由は報告を待って、会議室で後ほど説明しますので」
* * *
会議室に新一が戻るなり、小五郎が開口一番、新一に説明を求めたのだが、新一は「もう少しだけ」と言ったきり、口を噤んでしまった。
どれほどの時間が流れたのだろうか?
高木が会議室に戻ってきた時、会議室はこの日一番の重苦しい空気に満ちていた。
高木から数枚のプリントを受け取ると、新一はうやうやしく一礼し、ざっとプリントに目を通す。ややあって、新一は穏やかに微笑った。
「ありがとうございます。これで、残りはあと一つ」
新一の言葉に、その場の誰もが色めき立った。
「工藤君!」
目暮が思わず声を掛ける。
新一は頷き、言った。
「大変お待たせしました。今から僕の推理を説明します」
新一は一呼吸を置いて、説明を始めた。
「最初に、先ほどの犯人からの電話で蘭とコナンが言ったキーワードについて。まず、コナンのキーワードですが、『パパ』と『ママ』の二つ。ここにいる皆さんなら既に違和感を感じていると思いますが、コナンは僕や蘭のことをいつも「お父さん」「お母さん」と呼んでいます」
「それだったのか……」
と、声を上げたのは小五郎。
「咄嗟の時に、あえていつもは使わない『パパ』『ママ』と言ったとなると、この言葉自体が暗号だと考えても差し支えないでしょう。では、暗号だとすると何を意味しているのか? おそらく、犯人は男女二人組だと言いたかったのでしょう」
「十分考えられるわね」
と英理は頷く。
「はい。次に、蘭のキーワードですが、『反対に』と『イングリッシュ・ブレックファースト』。これは少し強引なのですが……。」
新一がホワイトボードに書き始めた。
上段に『ENGLISH』と、その横に『英語の』と日本語を、下段に『BREAK・FAST』と書き、『B』『F』はまるで囲まれ、互いを交換するように矢印が書き加えられた。
「何を反対にするかが疑問だったのですが、『ブレックファースト』を2つの単語に分け、それぞれの単語の頭文字を入れ替えてみてわかりました。英語で『FB』とは『FIRST BASEMENT』の略で、地下1階のことなんです。すなわち、蘭たちは地下一階にいると」
「なるほど!」
と、感嘆の声を上げたのは目暮だった。
「さて、肝心の犯人と、蘭たちの閉じ込められている場所についてですが、まず犯人ついて説明します。先ほどの説明の通り、犯人は男女二人組です。男の方はまだ不明ですが、女の方は櫻井彩子(サイコ)、都内の専門学校に通う19歳。賢橋町の櫻井不動産社長、櫻井章三氏の娘に間違いないと思います。僕がなぜ結論付けたと言いますと……」
新一はホワイトボードを裏返す。先ほど高木が書いた事件のポイントが現れた。
「先ほどの電話で犯人が僕の職業を弁護士だと思い込んでいたことからも、今回の誘拐は突発的なものだったと考えられます。では、素性も知らないのに、蘭とコナンがなぜ誘拐されることになったのか? 犯人は身代金を要求していることこから、金に困ったいたのでしょう。ところで、蘭たちが誘拐された同じ頃、すぐ近くの場所で、同じく金に困った人間が消費者金融に押し入っています」
新一がホワイトボードに強盗未遂犯と書き加える。
「もし、この犯人が逃走途中で、そう、例えば、仲間の車に乗り込もうという時に、目撃者が現れたらどうなるでしょうか?」
「思わず、車に押し込んでしまった……」
高木が遠慮がちに言った。
「はい。しかも、犯人は消費者金融からは金を手にすることはなかった。この際、身代金に狙いを変えようと考えたとしても不思議では無いと思います」
「では、消費者金融の押し入った犯人は……」
「彩子の恋人、もしくは、悪友の一人といったところでしょう」
「なるほど……」
「そこまではわかった。で、蘭とコナンはどこにいるんだ?」
「彩子の父は不動産会社を経営しています。彼の所有する物件の内で……」
ここで、新一の言葉が途切れる。
先ほどの鑑識課の刑事がやってきたのだ。
「Nシステムのデータと、検問所での警官の証言を時系列で表にしてみたんだけど……」
「ありがとうございます。大変助かります」
刑事は満足そうな微笑を浮かべ、会議室を後にした。
新一は高木から受け取った資料と、今手渡されたメモを見比べる。ややあって、いつもの自身に満ちた笑みを浮かべた。
「チェックメイト!」
新一はホワイトボードの余白に、とあるビルの名前とその住所を書き込んだ。
「このビルの地下に蘭たちはいます。念のため、近くの交番にでもこのビルの駐車場にこの黒色の車が無いか、確認してください」
ホワイトボードに、車種と車番が書き加えられた。
* * *
辺りはすっかり暗闇に包まれていた。
閑静な住宅街の外れの、小さなマンションの前に、赤色灯だけが静かに光る警察車両が数台並んだ。マンションの駐車場には、捜し求めた車があった。
10人余りの警官がマンションを取り囲むように配置される。新一は目暮や高木と共に彼らの先頭に立ち、地下室にただ一つある部屋へと向かった。小五郎と英理はパトカー内で待機させれられていた。
地下室のドアの前、7人の男が立ち止まった。
先頭を行こうとする新一を目暮は止めたが、新一は「大丈夫ですから」とだけ言って、そのドアを開けた。
「お、お前は、工藤新一!? このアマ、やっぱり騙しやがったな!!」
男は混乱の内に、新一と蘭の顔を交互に見比べた。
女は震えるその手からテディベアを離し、コナンにナイフを向けようとしたが、蘭が咄嗟に自らの体でコナンを隠す。女は混乱しながらも、ナイフを蘭に向け続けた。
男が拳銃らしきものを手にする。銃口を向けられた新一の表情に焦りの色は無い。慌しくなった背後に控える刑事の動きを、新一は後ろ手に制した。
「そんなおもちゃで、俺の目を誤魔化せると思ってるのか?」
新一の声が冷たいものへと変わる。
男は慌ててナイフを手にし、新一と蘭の交互にナイフを向けた。
ここで不意に、女が手放したテディベアをコナンが拾い、新一の足元へと投げつけた。何が起きているのか理解できず、犯人たちはキョトンとしていた。
「ナイスアシスト、コナン!」
と余裕の笑みを返し、新一はその左足を思いっきり振り切る。次の瞬間、女の腹部にテディベアは命中し、女はその場で蹲っていた。
「この野郎!」と男が新一に向かって飛び掛かったのだが、ナイフが新一に触れる直前、その手からナイフが消えた。蘭の右足が蹴り払ったのだ。
「悪りーな」
「うん」と蘭は小さく頷き、足元まで寄ってきたコナンを抱き上げた。
新一は空を彷徨う男の右手を持って捻りあげる。そして、
「とりあえず、傷害未遂の現行犯ということで、手錠をお願いできますか?」
と、背後の刑事に促し、男の身柄を渡した。
蹲っていた女は高木によって引き起こされ、連行されていった。
「遅くなって悪い。二人とも怪我はないか?」
蘭の手錠を外しながら新一は聞いた。
「うん。新一が助けに来てくれるって信じてたから……」
蘭は自由になった手で、そっと新一の頬に触れる。
「私とコナンの暗号、わかってくれたんだね?」
「当たりめーだろ?」
と言って、新一はコナンを抱き上げた。
「よく頑張ったな、コナン。怖かったよな? もう、いいぞ?」
その言葉が合図であったかのように、新一の腕の中で泣き声を上げた。
* * *
後日、警視庁の一室に関係者が集められ、事件の報告がなされた。
蘭は最初、コナンに事件の説明を聞かせるかどうか躊躇ったのだが、新一の
「大丈夫さ。あいつなら幼いながらもちゃんと受け止められる。いや、あいつ自身が説明を望んでいるはずだ。自分だけ仲間外れにされるのは望んじゃいない」
との言葉に納得し、コナンも同席させることにした。
一同が席に着くと目暮に促され、高木が説明を始めた。
犯人は松野友也(ともや)と櫻井彩子の二人で、それぞれ、21歳と19歳。
蘭とコナンが軟禁されていた地下室があったビルは、不動産業を営む彩子の父のもので、奔放な娘のために用意されたものだった。
表向きには社長令嬢という恵まれた環境で、兄二人の三人兄弟の末娘として育った彩子だったが、彼女にとっては必ずしも恵まれていたとは言えなかった。容姿端麗ではあるが、優秀な兄二人とは違い、勉強もスポーツも人並み以下で、家族の中では異分子のように扱われてきたのだという。
一方の友也は幼い頃に実の父親を亡くし、その後、自立しきれなかった母は結婚と離婚を繰り返したため、友也は常に家に自分の居場所を見出せず、家庭の中で孤立して育った。そんな風に家族に対して深い絶望を抱いていた二人が出会い、強く惹かれあうようなったのは当然の成り行きだったのかもしれない。
犯行の動機は、数日前、彩子が車を運転中に―――この車も父親から与えられたものだが―――自転車相手に事故を起こし、その場で話し合いで解決がなされたのだが、事故の相手が一枚も二枚も上手だったようで、彩子が自由に出来るお金では済まなくなってしまい、追い詰められて凶行に及んだということだった。
家族に絶望してい二人には、櫻井家に頼るなどという選択肢は存在しなかったのだという。
一通り説明が終わり、僅かな沈黙が訪れる。
その沈黙を破るかのように、蘭はポツリと呟いた。
「そっか……、それで彼女、あんなことを言ったんだ……」
「あんなことって?」
新一が問いかけに、彩子の言葉を掻い摘んで説明した。
「どんな事情があろうと、やったことは決して赦されるもんじゃねえ」
小五郎は冷たく言い放つ。
英理は黙って小さく頷いた。
「でも、お母さん……」
「ええ、あなたの気持ちはわかっているわ。私が直接は無理でも、信頼の置ける知り合いの弁護士にお願いしようかと、私も今、考えていたの。ただ、その前に……」
と、それまで大人しく新一と蘭の間に座っていたコナンに向かって、英理は穏やかな口調で問いかけた。
「ねえ、コナン君。あなたやお母さんにとっても怖いを思いをさせたあの男の人と女の人と、少しだけ助けてあげても良いかしら?」
「うん」
コナンは迷いことなく言った。
そんなコナンの様子を見ながら、新一はふと思う。
新一の職業を問われ、「弁護士」と答えたのはコナンの意志だったという。もしかすると、この子は自分でも無意識の内に、犯人の二人へ救いの手を差し伸べていたのかもしれない、と――――
家族の絆、お互いを強く思う気持ちといったものをテーマに書いてみました。上手く雰囲気だけでも伝わっていると良いのですが……。
1ヶ月と掛からない予定だったのに、半年もの連載期間になってしまい、本当にすみません。
作品の出来共々、深く反省します。