包み込むように

梅雨時のとある日曜日。
全国高等学校空手道選手権、都大会の決戦の場となったここ杯戸町総合体育館では、朝から降りしきる雨をよそに、異様なまでの盛り上がりを見せていた。単に母校を応援したり、空手ファンが大勢押し寄せたからという盛り上がりではない。この大会に参加しているある選手への応援で、午後の決勝リーグが始まる頃には、人気アイドルのコンサート会場のような様相を見せていたのである。

「やっぱり、まだ来てないか……」

準々決勝を圧倒的な強さで勝ち、控え室へと向かう彼女の視線の先には、精一杯自分のことを応援してくれる親友の姿があった。けれども、その親友の隣に座っているはずの、一番応援して欲しい人物の姿は見つけられずにいた。

「やったね、蘭。次は、いよいよ準決勝だね。2連覇まではあと2勝。みんな、期待してるんだからね」
「うん。期待に応えられるかどうかはわからないけど、出来る限りのことはするつもり」
「コラ! そんな弱気なことでどうする! 絶対に勝ってくる、でしょ?」
「そうだね」
「それじゃあ、私は先に体育館に戻るからね」
「うん」

今、控え室で部員と話をしていた彼女こそが、会場の声援を一身に集めている、帝丹高校3年の毛利蘭である。昨年の大会で2年生ながら優勝した彼女は、選手としての強さはもちろん、その強さには似つかわしくない美貌で、一気の各方面からの注目を浴びる存在となっていたのだ。

帝丹高校は元より文武両道の学校として有名である。全国大会の常連となっている部活動も多い。ただし、その中でも全国大会で上位の成績を修めることが出来るものとなると、その数は激減してしまう。毛利蘭という生徒は、その数少ない全国レベルの選手なのである。その為、学校としても彼女への期待は大きなものとなっていた。あえて意地の悪い表現をすれば、帝丹高校の広告塔として、多大な期待を寄せていたのである。

蘭は、今までに感じたことの無いほどのプレッシャーを感じていた。
昨年の大会は、ただ精一杯、目の前の相手を倒すことだけに意識を集中すれば良かった。ただ一人の人物に認めて欲しいが為に。
けれども今年は状況がまるで違う。前回大会の優勝者として、学校中の期待を受けていた。いや、学校だけではない。言葉や態度にこそしないが家族であったり、町内会や他校からも応援に駆けつけてくれる人々、そして、マスコミ等。高校生活最後の大会、負ければ次が無い。人一倍責任感の強い彼女は、それら全ての期待に応えなくてはと思っていたのである。

『決勝戦までには必ず行くから、それまで、ちゃんと勝ち残っていろよ!』

一人きりになった控え室で、蘭は今朝の電話での会話を思い出していた。少し弱気になっているのを察して、あえて発破をかけるような言い方をした、今、一番応援に来るのを待ち望んでいる、工藤新一との会話を。

工藤新一。
彼もまた帝丹高校が誇る、数少ない全国レベルの生徒である。ただし、彼の場合は部活や成績によるものではない。高校生の域をも軽く超えるというその実力とは、探偵としてのものである。この日、未だ応援に駆けつけることが出来ない理由も、この探偵としての実力を必要とされた為であった。金曜日の午後、警視庁から捜査協力を依頼されていたのである。しかも、依頼された事件は相当難しいもののようで、2日経った今も彼は事件から解放されずにいた。

(そうよね、とにかく、決勝までは勝ち続けないと)

蘭は未だ震えが止まらない手で両頬をパンパンと叩き、気合を入れ直す。

(練習だってあんなにしたんだし、大丈夫だって。きっと勝てるから。いざ試合が始まってしまえば、それまでの緊張なんて、嘘のように消えちゃうでしょ? お願いだから、もう少しだけ頑張って)

何とか気持ちを落ち着け、体育館に向かおうとドアに手をかけたその時だった。

 〜 lu lu lu ・・・ 〜

聞きなれたその音は、紛れもなく蘭の携帯電話のメール着信の音だった。メールの送信者欄には、工藤新一の名前。

“よお、蘭、そろそろ準決勝か? 案外、このメールを見る頃には試合が終わっていたりしてな。まあ、今更遅いかもしれないが、もし、この後に試合があるようだったら、一言だけアドバイスしておく。あんまり無理はすんじゃねーぞ! 蘭の今までの努力は誰もが知っていることなんだし、自分の為に、悔いの無い試合をすることだけを考えろよ。結果なんて、後から自ずと付いてくるもんさ。仮に、もし負けたとしても、それは単に相手が強かっただけのことだよ。 悪い、すっかりと遅くなっちまったな。事件は解決した。今からそっちに向かうから。決勝戦には間に合うはずだぜ!”

(新一が来るとわかってて、負ける訳にいかなくなったじゃない)

蘭が控え室を出る頃には、先ほどまでの手足の震えは不思議と止まっていた。

準決勝の相手は杯戸高校2年の岩田有香。昨年の大会で、1年生ながらベスト8まで進出した強豪である。ちなみに、その大会で彼女を破って決勝まで進出したのは毛利蘭。もちろん、彼女は昨年の雪辱に燃えていた。
空手の組手競技のルールは、2分間の試合時間で先に8ポイント取るか、試合終了時にポイント数が多かった者が勝者となる。 蘭と有香の試合は、お互いにポイントを取り合う展開で、残り30秒を切った時点で、ポイントは6対6の同点だった。その後も一進一退の攻防が続いていたのだが、残り10秒、焦りからか、相手が一瞬の隙を見せたところに蘭が蹴りを振り出した。

『技あり、それまで!』

相手の中段に見事に蹴りが決まり、2ポイントを奪った蘭が決勝進出を決めたのである。この時、場内に広がった歓声は、地響きを引き起こしそうな勢いにまでなっていた。

『キャー、ウソ!』
『ねえねえ、アレって本物?』
『でしょ? だって、帝丹の応援席に向かってるじゃない』

準決勝の2試合目が終わった直後、場内には先ほどまでとは全く違う、黄色い歓声が響き渡る。

「相変わらず、ド派手な登場ですこと」
「悪かったな」

そう、工藤新一の登場である。

『ねえ、ちょっと。あの隣に座っているのって、彼女かな?』
『まさか! だって、何かさあ、イメージが違わない?』

「あーあ、私なんかが相手じゃ不満ですって表情だわね?」
「勝手に言わせておけって。それより、蘭は?」
「ご心配なく。もうすぐ、決勝戦に登場よ」
「そっか。で、調子の方は?」
「準決勝はさすがに接戦だったけど、それまでの試合は圧勝。今までの大会に比べたらかなり緊張してるようだけど、試合になったらそんなことは微塵も感じさせないし、調子は悪くないんじゃないかな……」
「なあ、園子。俺には、オメーのその言い方、何か含みがあるように聞こえるんだけど?」
「うーん……、単に私の気のせいかもしれないんだけどね。何て言えばいいのかなぁ、何となくなんだけどね、蘭の動きが準々決勝の途中から、ちょっとおかしいような気がして……」
「おかしいとは?」
「私は空手のことは詳しくないから戦術的なこととかは全然わからないけど、やけに動きが慎重になっているような気がするのよね。蘭ってさ、どんなにポイントをリードしていても、最後まで攻め続けるじゃない? でも、今日は違う。らしくない感じなのよねぇ……」
「それが本当なら、確かに妙だな」
「でしょ? あ、でも、単に緊張しすぎなだけかもしれない。何と言っても高校生活最後の大会だしさ、見ての通り、これだけの応援団でしょ?」
「緊張、ねえ……」
「それより、ほら、決勝戦が始まるみたいよ」

(勝っても負けてもこれで最後)

この日最後の精神統一を終え、蘭は決戦の場に足を踏み入れた。祈るような気持で観客席に目を向ける。視線の先の親友の隣の席には、待ち望んでいた人物の姿があった。蘭はこの日初めて、試合で自分が勝てるような気がした。

決勝戦の相手は、杯戸高校3年の川野陽子、空手部の主将である。杯戸高校空手部とは男女共に強豪で、女子に関して言えば、2年前まで5年連続で優勝者を出していたくらいであった。
奇しくも昨年と同一カードとなった決勝戦は、両校の意地のぶつかり合いとなり、応援する側の尋常なものではない。その上、蘭目当てのミーハーなファンの分もあるのだから、場内のボルテージは上がる一方だった。

運命の2分間が始まる。
実力伯仲の2人なだけに、双方ともなかなかポイントが奪えない状態が続いていく。

「あのバカ……」
「え?」
「園子もだてに蘭と親友でいる訳じゃなかったみたいだな」
「ちょっと、それ、どういう意味よ、新一君。って、まさか、蘭?」
「ああ。ったく、どこまでお人好しなんだか……。あいつのことだから、どうせ、周りに心配を掛けたくなかったんだろうけどさ。とりあえず、俺、行ってくるわ!」
「あ、でも、まだ試合中だって……」

試合中にも関わらず、有名人である新一が観客席を走り抜ける姿に、場内の一部ではかなりのざわつきを見せていた。そんな中でも、試合は何ら影響を受けることなく続いているのだが。

試合時間は残り30秒。
相手に技ありで2ポイントを奪われ、蘭は絶体絶命のピンチになっていた。その後、蘭は何度となく攻撃を仕掛けるのだが、守りに入った相手の牙城を崩すことは出来ず、時計は残り5秒を示す。誰もが蘭の2連覇を諦めかけたその時だった。

『一本!』

審判の右腕が上がるのと同時に、試合終了のブザーがなる。

『ポイント、3対2で帝丹高校毛利蘭、勝者!』

それは演舞のように美しい上段蹴りだった。劇的な逆転での勝利、そして、2連覇。祝福の為に集まった部員たちやマスコミやらで、蘭は身動きが取れなくなる。まもなくして、そんな彼女の前に現れたのは、観客席から姿を消していた新一だった。

「来てくれたんだ。良かったぁ、ちゃんと間に合ったんだね?」

2人に向けて、一斉にカメラのフラッシュが浴びせられる。

「ったく…」

顔をしかめながらそれだけつぶやくと、新一は、いきなりいわゆるお姫様抱っこの要領で、蘭をひょいっと持ち上げてしまったのである。

「すみませんが先生、蘭をこのまま医務室まで連れて行きますので」
「工藤、どういうことだ」
「そうよ、いきなりそんなことを言ったって、新一」

周りにいた部員やマスコミの面々も、そんな2人の光景をただ呆然と見つめることしか出来ずにいた。彼らが我に返ったのは、観客席に悲鳴のような歓声が響いてからのことだった。もちろん、その頃には、2人の姿はその場から消えていたのだが。

ちなみに、ここで断っておくが、先ほどからの蘭や新一に対する場内の歓声や悲鳴には、帝丹高校の生徒の分は決して含まれることはない。なぜなら、帝丹高校に在籍するものなら、それらの行為がどれだけ無意味なことで、更には、時として、自らの身に危険を近づけるだけだと、誰もが知っているからである。

医務室は体育館から少し離れたところにあった。

「メール、見なかったのか?」
「ちゃんと見たよ」
「だったら、何でそんな無茶をしたんだよ?」
「だって、みんなが期待してくれたし、それに……」
「それに?」
「新一にも見てもらいたかったんだもん、試合。もしかしたら、今日が高校生活最後の試合になったかもしれなかったから」
「ったく、ホント、バカだよな、オメーは。こんなに足首が腫れるまで無理しやがって……」 「ゴメンなさい…」

 〜 トントン 〜

「失礼します。あのー、急いで彼女の治療をしてもらいたいんですが……、って、え? 何で?」
「工藤君に蘭さんじゃないですか」

時として、思いがけない時に、思いがけない人物と会うものである。
医務室にいたのは帝丹高校の学校医、2人もよく知る新出医師であった。

「僕はただ、大会の手伝いに来ただけですよ。ほら、こういった大会では、一人の医師だけでは何かと大変ですからね。それより、蘭さんがケガですか?」
「ええ。どうやら、準々決勝あたりで左足首を捻ったかなんかしたみたいでして。すぐに応急処置をすれば良かったものの、どうせ周りに余計な心配を掛けたくないとでも思ったんでしょう。決勝までみんなに隠して試合をしていたんです」
「そうでしたか。確かに、見事なまでに腫れ上がってますね。どうして今まで誰も、こんなになるまで気が付かなかったのか不思議なくらいです。工藤君のことだから、見て見ぬフリをしていた訳ではないんでしょ?」
「ええまあ。僕が会場に着いたのは、決勝戦の直前だったものですから……」
「では、決勝での蘭さんの戦いぶりで、ケガに気付いたんですね?」
「はい」
「蘭さん、相当無理をしたようですね」
「すみません……」
「とりあえず今はテーピングで足首を固定しておきます。おそらく捻挫で間違いないと思いますが、今日は日曜日ですし、明日にでも念の為に、詳しい検査をしてもらって下さい」
「はい……」

蘭の足首は素早く、そして的確にテーピングで固定されていく。テーピングによって、それまでの痛みはかなり軽減されたものの、まだ普通に歩けるまでには至っていない。それくらい蘭のケガは重症だったのだ。

「工藤君、すまないけど、この上から更に包帯で固定しておいてもらいたいのですが。その間に僕は、顧問の先生や大会関係者に蘭さんの足の状態を説明してきますので。君のことだから、理由もそこそこに、蘭さんをここに連れてきたのでしょう。おそらく、みなさんが思っているよりも、蘭さんのケガは重症ですしね。それと、君の心配する気持はわかるけれど、あまり蘭さんのことを怒らないようにね。では」

いつもなら犯人の行動や心理状態を読んでいるのは自分なのに、新出医師にすっかり自分の行動パターンを見透かされているようで、新一は複雑な思いで、苦笑せずにはいられなかった。

新出医師が出て行った医務室には、新一と蘭の2人だけとなる。少しでも蘭の痛みが和らぐようにと、新一は適度に力を入れながらゆっくりと包帯を巻いていく。慎重に慎重にと自分の足に包帯を巻いていく新一の姿は、蘭にとっては不思議な光景に見えて、思わず笑ってしまっていた。

「笑うような場面じゃねーだろ?」
「ゴメンゴメン。だって、昔はケガをするのは新一で、私の方が包帯を巻く役目だったのに、すっかり立場逆転だなって思ったら、何だかおかしくって……」
「言われてみれば確かに」
「でしょ?」
「ああ。ところで、蘭。オメーは準決勝、決勝と上手く周囲の目を誤魔化せたと思ってるかもしれないが、オメーの異変に気付いたのは、何も俺だけじゃねーからな」
「え?」
「園子だよ。じゃなきゃ、決勝にどうにか間に合った俺が、蘭がケガをしたのは準々決勝だったなんて言えないだろ?」
「そっか、園子も気付いてたんだ……」
「蘭は元々、何かを誤魔化すなんて出来ないタチなんだからさ」
「……」
「これからは、ケガをした時点ですぐに治療してもらうこと」
「うん。……反省しています」

新一の目を誤魔化せないことくらいは、蘭にだって最初からわかっていた。試合後に怒られるであろうことも。彼がどれだけ自分のことを大切に思ってくれているのか、知っているのだから。

「今日はありがとう、決勝戦に間に合ってくれて」
「礼には及ばねーよ。約束を守っただけのことなんだしさ」
「うん。でも、やっぱりありがとう。決勝戦の前に新一の姿を見つけた時、何だかホッとしたの。ようやく自分らしい試合ができるような気がして。今回の大会は、私自身、どうしても勝ちたいって思いもあったけど、それ以上に、今までに無いくらいのプレッシャーを感じていたから。あの時、そのプレッシャーが少し和らいだ気がしたのよね」
「蘭はいつだって、周りの期待に応えなきゃって意識しすぎなんだよ。だから、いつも言っているだろ? たまには手を抜けってさ」
「うん……。あ、そうだ。私、もう一つ、新一にお礼をしておきたいことがあるの」
「何だよ、その礼っていうのは?」
「今だから言えるんだけど、私、ここのところ1週間くらい、緊張してなかなか寝付けなかったんだ。木曜日までは、それでも何とか眠れたんだけど、金曜日の夜は一睡も出来なくってね。このまま昨日の夜まで眠れなかったら、試合で実力を出せないで終わっちゃうと思ったら、更に不安になっちゃって……。だから、昨日の夜、新一の家から勝手にある物を借りてきちゃった」
「家からって何を?」
「新一のベッドのシーツなんだけど」
「シーツ? 何でまた、そんな物を?」
「何でって……。新一の匂いに包まれてたら、安心して眠れるかなって思ったから」
「ふーん。で、その効果はいかに?」
「お陰様で、あんなに不安だったのが嘘のように、昨日は安心して熟睡できました」
「ったく……、それなら、シーツなんかじゃなくって、俺の腕を貸してやったっていうのによ。とは言っても、夕べはちょっと無理だったかもしれねーけど」 「もしかして、昨日は警視庁に泊まったとか?」
「ああ、しっかり2連泊。今回は、思いの外、厄介な事件だったからな」
「そんなに大変な事件だったんだ」
「……悪かったな、蘭。肝心な時に側にいてやれなくって」
「ううん。新一だって早く事件を解決させるために一生懸命頑張ったんでしょ? だから、決勝戦に間に合ったんだし」
「まあな……。なあ、蘭。もし何だったら、都大会2連覇のご褒美も兼ねて、今夜、俺の腕を貸してやってもいいんだぜ?」
「え?」
「まあ、おじさんが許すかどうかっていう問題はあるんだけど……」
「お父さん、か……。ちょっと、無理っぽいかも」
「だな。でも、どうしてもって言うなら、何とかしてやってもいいけど。っと、どうやら邪魔者が来たみたいだ」
「新出先生が戻ってきたの?」
「いや、あれは、園子だな」

「2人のお邪魔だってことくらい、私もよくわかってるんだけど、もうすぐ表彰式が始まるっていうから、あえて蘭を迎えに来てあげたんだからね」
「そりゃどうも」
「蘭、ついさっき新出先生が話していたのを聞いたんだけど、足は大丈夫なの? 私も何か今日の蘭はらしくないとは思ってたけど、まさかケガをしていたとはねえ。一瞬にしてそれを見抜くんだから、あんたの旦那は本当に大したもんだわ」
「だから、旦那じゃないって!」
「何を今更! それより、2人とも、表彰式が終わったら、さっさとここから脱出した方が良さそうよ。決勝戦の勝ち方が劇的だった上に、さっきの新一君の行動でしょ? 今でさえもう、マスコミが騒いじゃって凄いんだから。一応、そう思って、ほら、蘭の荷物は部員の人に頼んで用意してもらったから。あと、裏口にタクシーを呼んでおくから、蘭は表彰式が終わり次第、新一君にお持ち帰りされちゃいなさいね!」
「な、なんて言い方をするのよ、園子!」
「何から何まで、どうもご親切に」
「蘭の足が治ったら、ちゃんと借りは返してよね」
「はいはい」

その後行われた表彰式に、新一の姿はなかった。更に、表彰式後に本来ならば行われるはずの優勝者へのインタビューまでもが、ケガを理由に急遽中止となる。追いすがるマスコミを振り払い、この日の優勝者は足早に体育館を後にしてしまった。これには、マスコミのも肩透かしを食らった模様。
ちなみに、体育館を去るときに彼女が小さく呟いたその言葉を誰も聞くことはなかった。仮に聞いたとしても、その意味まではわからなかっただろうが……

『やっぱり、さっきのご褒美、お願いしちゃおうかな』

もはや言い訳はしません。
「タッチ」の再放送に影響を受け、勢いだけで書きました。書きたかったのはシーツ云々の場面だったのに、やけに長くなりましたね。最近、文章の構成力が低下しているような気がします。
一応、念の為に断っておきますが、作中の空手ルールは、高体連のサイトをいくつか回ってその中で説明されていたものを使いました。大会名などは出鱈目ですが。

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