田植え前

記録:平成15年5月12日
掲載:平成15年6月10日
冬期湛水水田に集まる人間 高奥 

 5月12日、業務の仕事帰りの途中、菅原さんの田んぼをのぞいてみることにした。 当日は曇り空で、ゴールデンウィークに大部分が田植えを終えた平日の水田地帯は、寝静まったように静である。
 菅原さんの田んぼにいくと、そこだけがまだ田植えが終わらず、水面から稲株が顔を出した状態となっている。 田んぼには水が張ってあるのだが、稲株がそのまま残っている。つまり不耕起状態にある。聞くところによると、この田んぼは今年の1月から湛水状態にしているとのことだから、3月頃までは白鳥やガンといった渡り鳥達がこの田んぼで羽を休めていたのかもしれない。水田の畦にしゃがみ込み、水面に目を向けると稲株にまとわりつくように青い藻のようなものが水中に漂っている。もう少し別のところに目を向けると細いミミズみたいなのが、水底でうごめいていた。
 冬期間には、この水田で渡り鳥が餌をついばみ、糞をし、そして水底を彼らの水掻きでかき回していたはずである。それら渡り鳥の生態活動がこういった藻や、ミミズみたいなものを水田に呼び込む。こういった渡り鳥の生態活動が作物の生産基盤であり、極度に単純化された水田の生態形をにわかに活気づかせる。
 また渡り鳥達は水田にある雑草の種子を食べ、それが水田の雑草を減らす効果を生む。そして田植は不耕起により行う。これは地中にあり渡り鳥達の嘴のとどかない地中にある雑草の種を水田表面に出さないようにするためであり、そのことで雑草防除の効果を大きくするためだ。もちろん、長期間湛水状態にすることで雑草防除効果も期待できる。
 ただし、こういった冬期湛水水田の効果は、一般的にそうなるであろうと言われている話であって、これを実践し、そして実際の効果を検証した事例は限られている。実際の営農では様々な諸要素が複雑に絡み合い、人間の予想が及ばない結果をもたらすことは珍しくない。 目の前に広がる菅原さんの冬期湛水水田、この水田に育つ稲は、どういった過程を経て生育していくのであろうか?

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