夏の冬期湛水水田

記録:平成15年7月12日
掲載:平成15年7月18日
志波姫町の農家 菅原 
 
 7月12日土曜日、晴天。久しぶりのオテント様が梅雨真っ盛りのみちのく宮城に顔を出す。麦藁帽子を被り、自然に優しい乗り物、ママチャリをコギながら、俺は田んぼの様子を見に行った。
7月12日、慣行水田の状況
 稲は順調に生長している。田植えの遅かった俺の田んぼだが、慣行水田の稲に少しづつ追いついている。田植えから既に二ヶ月が経過したので、今回は少し詳しく稲達の生育状況を報告しておこうと思う。
 冬期湛水水田ということで、今年は不
7月12日、冬期湛水水田の状況
耕起、無農薬を基本とした水稲栽培を行っている。
 肥料も基本的には施肥していない。渡り鳥達がもたらす糞が水田に窒素をもたらすからだ。
 それでも俺は一部の水田には肥料としてクズ大豆を施肥した。どの田んぼに施肥したかは資料編の菅原ほ場概要を参照してほしい。
 渡り鳥の糞による施肥効果を期待しながらもクズ大豆を施肥したのは、冬期湛水水田における施肥の有無がどのように水稲の生育に影響を与えるかを比較するためだ。渡り鳥の糞による施肥効果が期待できるとはいえ、さらに言えば無肥料で良好な結果が得られることが確実であったとしても、全部の田んぼをいきなり無肥料にするのは素人のやることである。
 プロの農家は必ず条件の異なった状態で稲を育て、その結果を比較し、次の年の参考とする。これが賢い営農計画と言うものだ・・・などと偉そうなことを言っているが、実際のところはクズ大豆を田んぼに蒔いているとき、腰が痛くなりママよとばかりに無肥料にしたのが真相だ。クズ大豆はいい肥料だが、腰にくるのが難点だ。
 それで、結果として施肥の有無による水稲生育を比較することができるようになったのだが、現時点での水稲生育状況は以下のとおりである。
 まず、右の写真を見て欲しい。水稲が生えそ
7月12日、冬期湛水水田
クズ大豆散布ほ場
ろっている列と列の間に緑の濃い部分があるのが確認できるでろうか。この緑の濃い部分には水性雑草のホタルイが繁殖している。
 この水田にはクズ大豆を施肥している。
 次に、左の写真を見てもらおう。こちらは無肥料栽培であり
7月12日、冬期湛水水田
無肥料ほ場
、列と列の間に灰色の枯れ草のようなのが確認できる。この枯れ草みたいなのは陸生雑草のピッピで、すでに虫の息である。この水田にもホタルイは生えているのだが、先程の水田のように盛大に繁殖している部分はない。小さいのが数本づつ点在しているだけである。
 今度は右の写真を見てもらいたい。道路の両脇に水田が広がっているが、奥の水田に比較して手前の水田のほうが緑が濃い。
奥の薄い緑の水田は慣行栽培、手前の濃い
緑の水田は無肥料の冬期湛水水田
手前は冬期湛水水田の無肥料水田で、奥は慣行栽培の水田だ。稲の色が濃いほど、ほ場の肥料分が豊富であることを意味しているが、写真のとおり無肥料のほうが色が濃い。これは冬期湛水水田の施肥効果が大きいことを意味している。
 で、これらクズ大豆を施肥した水田、無肥料の水田、現段階でのそれぞれの比較だが、総じて言うと、水稲の生育状況にはそれほど大きな違いはない。場所にもよるが、むしろ無肥料栽培のほうが稲が大きくしっかりしている印象も受ける。
 雑草については少し複雑で、クズ大豆を撒いた水田でも雑草が著しいのと、そうでないのがある。雑草が著しい田んぼは春先に田んぼを乾かそうとした時期があり、もしかしたらこれが雑草を勢いづかせる原因になったのかもしれない。ゆえに雑草繁殖の原因が施肥によるものなのか、春先に田んぼを乾かしたことによるものなのかがはっきりしない。
 ただ無肥料の田んぼは、いずれも雑草の繁殖はさほどではなく、今のところ水稲の生育には支障がないものと判断している。これは無肥料ゆえに雑草の繁殖も抑えられているのではないかと現段階では判断している。

 最近、俺の田んぼにいろんな人が来る。冬になれば渡り鳥の集まる
夏の冬期湛水水田を訪れたNPOの方々
冬期湛水水田だが、夏の間は人を集める効果があるらしい。
 で、集まる人々は俺の田んぼの稲を眺めながら口々に言う、「肥料は撒いてないの?」と。もちろん、クズ大豆を撒いた肥料もあれば、無肥料の田んぼもあるのでそれを説明する。すると今度はこう訊かれる「一部にしか肥料を撒いていないのですか?」。俺は答える「撒いていない・・・です。」

 唐突だが、政治家に金銭疑惑が持ち上がると、たいていは「やってない、やってない」そう答える。真意のほどは別として、とりあえず「やっていな」と答えるのがその場をしのぐためのセオリーなのだろう。夫婦の間にも同じ事が言えるかもしれない。心当たりのある方も多いのではないだろうか?
 他人の事とは言え、願わくば本当にやっていなことを祈らないでもないのだが、ちなみに最近、俺が良く使うフレーズも「撒いてない、撒いていない。」だ・・・。
 俺の場合、セオリーとかそういうのではなくて、本当に「撒いていない!」のだが、なにか物忘れしていそうな気持ちもあり、なぜだか「撒いていない」の一声もあやしげである。
 俺の田んぼの稲を見る度に、無肥料の割にはずいぶんと稲の調子が良く、俺自身からして「本当に撒いてないよな〜」などと思ってしまうから世話はない。やっぱり、まだ俺は冬期湛水水田の無肥料水稲栽培の効果を信じきれていないのだろうか?そう思う今日この頃であり、俺を悩ます夏の冬期湛水水田である。



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