立って倒れて、また立って

記録:平成15年9月06日
掲載:平成15年9月13日
志波姫町の農家 菅原 
 
 
既に皆さんもご存じのとおり、今年は冷夏である。冷夏であるゆえ、稲の作況が芳しくない。我が宮城県の稲不稔率は30%との発表があったが、平年であれば不稔率5%程度であるので、今年の作況は平年に比較して25%減という計算になる。
 この不稔は、冷夏による出穂後の受粉が不調であったことも一因だが、それ以上にイモチによる不稔も深刻である。冷夏のため、稲に潜伏したイモチが今の時期になって不気味に勢力を拡大している。
色が変色している部分が、イモチに罹っ
た稲、9月4日撮影(慣行水田)

 俺の冬期湛水水田にもイモチにかかった稲が若干ある。ただ、個性豊かに育てた稲だけあって、現在流行中のイモチには鈍感だ。俺の田んぼの稲は、俺の性格に似て、それぞれマイペースに育っている。しかし、これも今後の天候しだいではある。
 ここで、少しだけイモチの解説をしておく。イモチとは稲のかかる病気のことだが、葉イモチ、穂首イモチ、枝梗イモチ、モミイモチとそれ
穂イモチに罹り、穂全体が変色
8月31日撮影(菅原冬期湛水水田)
ぞれある。深刻さの度合からいくと穂首イモチが一番怖い。これは稲一本の穂全部が不稔となる。次に枝梗イモチ、これは穂の一部が不稔になるやつ。そしてモミイモチ、これは、穂に稔った籾の一部が所々不稔となる。
葉イモチは葉に茶色い斑点ができるだけで、それだけでは不稔の原因とはならないが、その他のイモチを誘発する原因ともなるので、要注意である。
 イモチの対策にはいくつかの方法がある。
モミイモチに罹り、モミが茶色く変色
8月31日撮影(菅原冬期湛水水田)

 一つは田植え前の苗や、成長した稲にイモチ防除剤を散布する方法。これらは一般的な慣行栽培で行われる方法である。効果的なのはあらかじめ苗にイモチ防除剤を散布しておく方法で、イモチに対する稲の免疫力を高めことができる。成長した稲にイモチ防除剤を散布する方法は対処療法的で、天候不順が続く限り、定期的に防除剤を散布しないと効果を発揮できない。もちろん、俺の田んぼでは、無農薬をイデオロギーとしているため、イモチ防除剤は使っていない。
 
9月6日撮影、菅原冬期湛水水田状況
イモチの対策としては、有機農法も有効である。通常の慣行農法では硝酸系の化成肥料を用いるが、これが土中で分解する時、亜硝酸を発生させる。亜硝酸は稲の根を弱らせ、稲をイモチにかかりやすい状態にさせる。有機農法では通常、堆肥などのアンモニア系肥料を用いるため、稲の根を弱らせることがない。俺の田んぼの場合は、無肥料かクズダイズ、コメヌカなどの有機肥料で栽培を行っているため、これに関してはイモチ対策は十分である。
 イモチ対策に効果的なものとして、中干しを行わないこともある。これは栽培方法にもよるのだが、田んぼを中干しすると稲の根を弱らせてしまうことがあり、これが原因でイ
9月4日撮影、菅原冬期湛水水田状況
モチを呼び込むことがある。幸いにして俺の田んぼでは、トロトロ層保全のため中干しは行っていなかったので、これについてもいイモチ対策には好都合な結果となっている。しかも不耕起栽培を行っているので、その意味でも根が強くなり、イモチに対する抵抗力がついている。
 このような理由で、今年勢力を拡大しているイモチも、俺の田んぼではブームになっていない。だから俺は今日まで無農薬栽培を継続してきてよかったと思っている。ただし、俺の冬期湛水水田が決していいことばかりではないことをあえて公表したい。
 昔から歯に衣をきせず物を言い、情報公開の最先端を突っ走ってきた俺である。嘘をつけぬ性格ゆえ、今までいろいろ損したこともあったと思うが、自分の守愚の一念を貫徹するため、あえて俺は自分の冬期湛水水田の欠点を公表することにする。
 それは稲の倒伏である。
先に、俺は中干しを行わなかったと述べたが、そもそも中干しとは穂の登熟で頭の重くなってくる稲を田んぼがしっかり支えることができるように、6月下旬から7月初旬にかけて田を乾かし、田の土を引き締めることを目的に行う。
 
8月23日撮影、稲の倒伏状況
ところが、俺は中干しを行わなかったので、8月下旬より稲が倒れやすい状況になってきた。「稔るほど、頭を垂れる稲穂かな」と言うことわざがあるが、俺の田んぼの稲の場合は、頭どころか体全体でぶっ倒れかけているのが現状だ。雨が降ったり、風が吹いたりすると、隣りの慣行水田の稲が涼しそうにそよいでいるなか、俺の冬期湛水水田の稲だけが、倒れまいと必死に風や雨と挌闘している。幸いなのは、倒れかか
8月31日撮影、稲の倒伏状況
っている稲も、天候が穏やかになると再びもとの姿勢に戻っていることだ。それでも風が吹き、倒れそうになる稲を見るたびに、俺は「たつんだ!たつんだ稲達!」と明日のジョーの丹下段平みたいな気持ちになってしまうので、気が休まる日がない。
 稲の穂は一日々とその重みを増している。これは嬉しいことだが、その分、刻一刻と稲は倒れやすい状態となっている。稲刈りまで残すところ2ラウンドといった時期であり、ゴールまであとわずかである。
 どうかそれまでKOされずに立っていてくれ、稲達よ。


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