渡り鳥来襲

記録:平成15年10月20日
掲載:平成16年 1月 5日
 志波姫町の農家 菅原 
 
 全国、渡り鳥ファンの皆様方、やってきました渡り鳥。で、今回のタイトルは「渡り鳥来襲」とした。特に渡り鳥が俺を「襲いに来る」わけではないが、今回はあえて「来襲」の文字を使わせていただく。やはり、あの渡り鳥が田んぼにドバッと飛来する雰囲気、あれは「来襲」の二文字が似つかわしい。
 10月下旬、既に渡り鳥達は伊豆沼周辺に飛来していた。奴らは
田んぼに降り立つ雁の群、カラスではない
俺の田んぼの上空を次々と通過していく。まるで田んぼの品定めをしているようだ。通過する渡り鳥の大部分は、雁である。奴らは早朝に伊豆沼や内沼を飛び立ち、沼周辺の田んぼに飯を食いに出かける。周辺といっても、シベリアから飛んでくる連中ゆえ行動半径も広い。聞いた話によると、雁は半径10kmを生活範囲としているとのことだから、奴らも、奴らなりのこだわりの目で、田んぼを選び来襲してくる。いずれ来春までには、再びシベリアに旅立つ渡り鳥たちだ。みちのく宮城で存分に羽を伸ばしていってほしい。

 俺の田んぼの最初の来鳥者は、鴨たちだった。稲刈りを終え、神無月湛水を始めたばかりの平穏な日の夜、奴らはやってきた。

ゲ− ゲ− ゲ− ゲ− 」←これは鴨の鳴き声

グァッ! グァッ! グァッ! 」←これも鴨の鳴き声

バシャ バシャ バシャ 」←これは鴨の羽音

?$〜☆×& ○?×& ##!☆☆!!!
           ↑
    これは鴨の鳴き声と羽音のハーモニー

夜の夜中、漆黒の闇の中から、奴らの喧噪が響いてくる。まるで、鴨達の宴会である。人口密が度低いながらも、高齢化過著しい俺の集落で夜の騒音は御法度である。にもかかわらず、鴨たちには人間に対する遠慮はない。
 俺は何となく気まずい思いにかられた。なんと言うか、俺が小学校の時、修学旅行の宿泊先でバカ騒ぎしていたときのことを思い出したからだ。その時、担任の先生から「ほかのお客さんに迷惑になるから静かにして」そう言われたが、その時の先生の気持ちが良くわかる。
 次の日の朝、鴨たちの姿は田んぼになかった。湛水し始めの田んぼの水が濁っていた。これが奴らの宴の跡(「後」でなく「跡」)である。
 雁は白鳥や鴨とは違って、田んぼが湛水していようが、していまいが、田んぼの落ち穂をついばみに来る。鴨とは違い、あまり鳴き声は立てないが、夕方、自分達のねぐらに飛び立つ時、「クゥァークゥァー」と少し切ない鳴き声を響かせながら、夕暮れの空を飛んでいく。
    田んぼに群れる雁の群
鴨に比べれば詩的に思える雁であるが、鴨にしても雁にしても、自分達が生きていくために、一つ一つが意味のある行動をしているはずだ(あの鴨の喧噪だって意味がある・・・と思う・・・)。
 この雁と鴨はそれほど遠くない過去まで、「害鳥」扱いされてきた歴史がある。秋、稲刈りが終わり、刈り取った稲を田んぼに棒がけし、天日干していると、雁がそれをついばみに来る。これが、害鳥扱いされた理由である。
 現在はそれほどでもないが、そんな古い時代でなく、つい数十年前まで、金でなく米を貸し借りしていた時代があった。今年、食う米が底をついた。だから親戚に頭を下げ、米を借りに行く。一粒々の米に神様が宿る。それを実生活にリアルに感じていた時代が間違いなくあったのである。その大切な米を渡り鳥たちはついばんでいく。ゆえに渡り鳥は害鳥とされたのである。人間は生きるために米を作る。そして渡り鳥もまた生きるために稲穂をついばむ。
 一方が生きていくためには、一方を否定しなければならない。人間と渡り鳥には、そんな不幸な関係があった。だから「渡り鳥保護」と、人間と渡り鳥の確執を知らない都会人が声を上げても、地元の人間の向ける視線は複雑なのである。
鴨についばまれた稲穂、畦畔側で多く見
られる。

 もっとも、現在はその状況もいくらか変わってきている。それはコンバインが普及してきたからだ。コンバインは刈り取った稲をその場で脱穀し、田んぼから搬出していく。だから、収穫した米を渡り鳥に食べられる心配がない。それにコンバインは藁を田んぼに捨てていく。この藁にわずかに稲穂が残っている。これが渡り鳥の餌になる。その意味で、コンバインは人間にも渡り鳥に優しい機械である。
 最近は、自然食ブームで米も天日干しを求める消費者も多い。確かに天日干しは、おいしいとの評判を聞かないでもない。が、天日干しが普及すると、再び子鹿物語みたいな人間と渡り鳥の確執が生じかねない。ゆえに、全国の天日干し米ファンの皆様方には申し訳ないが、俺は当面の間コンバインによる稲刈りを続けていく予定である。(渡り鳥にかこつけて、手間のかからないコンバインの稲刈りに固執しているわけではないんで、そこんとこよろしく。)

 

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