中干し

記録:平成16年 9月 4日
掲載:平成16年12月 9日
志波姫町農家 菅原 
 
 中干し、つまり稲の生育期に田んぼから水を抜き、土を乾かすことを言う。宮城県北地方であれば通常6月初旬〜7月上旬頃に中干しを行う。7月上旬を過ぎると稲が出穂体勢になり、再び田んぼに水を入れる必要が出てくる。そのため、一度田んぼから水を抜き再び水を入れるので、これを「中」干
9月4日、冬期湛水水田土壌の断面
しと呼んでいる。
 中干しを行う目的はいくつかある。一つ目は土中に溜まった有害ガスを空気にさらし取り除くこと。二つ目は土中の余分な窒素を取り除き、稲の無駄な分げつを抑えること。そして三つ目は軟弱化した土壌を引き締め、稲の倒伏を防ぐことである。
 昨年、俺は中干しをしなかった。俺が中干しなかったのには理由がある。それは昨年は10年振りの冷害であり、中干し時期の気温が低く深水管理を継続する必要があったためである。水は空気よりも暖まりにくく冷めにくい、ゆえに水を田んぼに張ったままにすると夜間の冷気から稲を保護することができる。これを深水管理と言い、昨年は多くの田んぼで実施していた。
 もう一つの理由は稲の根を空気にさらさないこと。中干しは根を酸素にさらし活力を与えるが、出穂時には再び田んぼに水を入れなければならない。そうすると中干しで酸素にさらされた根は再び酸素から遮断され、それが原因で稲が病気になると考えた。特に俺の田んぼは不耕起であり、耕起・代掻きしている田んぼに比べて稲の根は地中にしっかりと張っている。そのため病気に罹りにくく、改めて中干しによる根の活性化は必要ないと考えたのである。
 
9月4日、台風による稲の倒伏(慣行水田)
しかしである。昨年、中干しをしなかったことで、俺の田んぼでは危機的な状況が生じた。それは「稲の倒伏」である。中干しが土壌を引き締め「稲の倒伏」を防ぐことは既に述べた。しかし土壌の引き締めは、すべての田んぼに必要なわけではない。その場所毎に土壌の締まり度合は異なる。そして俺の田んぼは、もともと稲が倒伏し難い条件にあった。そのため深水管理を優先し、中干しを行わなかったのである。
 しかし平成15年から始めた冬期湛水水田は、田んぼの表面に軟弱なトロトロ層を堆積させていた。これが倒伏の危機を招いた。
 籾の登熟が進むと、だんだんと稲の頭が重くなってくる。冬期湛水水田では稲を支える地盤の上部に、文字通りとろとろの「トロトロ層」が堆積している。そのため登熟が進むと、だんだんと稲が傾いてくる。ここで風が吹くと、ゆ〜ら、ゆ〜らと、まことに頼りない稲の姿が目に入り心が痛む。
 幸いにして昨年は冷害ではあっても台風の年ではなかった。これが幸いし、なんとか最終ラウンドまで稲は持ちこたえることが出来た。ここで台風の直撃を受けていたら間違いなく稲は「玉砕」の危機を向かえていたに違いない。
 昨年は冷害であったが、今年は猛暑であった。猛暑
8月6日、田面のクラック状況
の年には台風が来る。このことは平成5年の冷害、そして平成6年の猛暑と台風を経験している俺には直感できた。そしてその徴候は6月頃からあったから、今年は7月末から十分に中干しを行うことにした。ちなみに田植えもできるだけ深植し、根がトロトロ層より下に張るように工夫もしている。
 というわけで、今年は中干しすることにしたわけだが、倒伏にはまことにやっかいなトロトロ層であっても、中干しすると、これまたおもしろい現象が観察される。トロトロ層があると水を落水しても、なかなか田んぼが乾かない。しかし十分に乾燥すれば、今度は大胆なクラックが田んぼに現れてくる。大きなクラックが田んぼに出来るので、稲の根のは十分に空気にさらされ、それだけ効果的に活性化されるであろう。
 このように冬期湛水水田はトロトロ層とどうつきあうかで、その効果も異なってくる。「土を知り、水を知れば百作危うからず」の稲作りが、冬期湛水水田の醍醐味なのである。

 

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