絶滅危惧種アゲイン

記録:平成16年 9月 4日
掲載:平成16年12月 9日
冬期湛水水田に集まる人間 高奥 
 
 9月4日、イトミミズ調査のため菅原さんと一緒に田んぼの中を歩いてみた。稲の倒伏対策のため今年は十分に田んぼを中干ししている。そのため、田んぼの表面には見事なクラックが生じており、しかし、それだけ田んぼに生き物も少なくなったためか、田んぼにはいつもより静寂な雰囲気が漂っている。
 今年は、冬期湛水二年目のためか、昨年よりもずいぶん雑草が少なくなった。畦側にこそコナギが目立つ場所も多かったが、田んぼの中心に行けば行くほど雑草の姿はまばらになる。また雑草が少
9月4日、紅葉したイボクサ、昨年は
みられなかった現象である。
なくなっただけでなく、昨年にはなかった変化を見せた草もあった。
 今年はイボクサが少なかった。これはイボクサが発芽に酸素を必要とする湿性雑草であるためと考えられる。昨年よりもトロトロ層が厚くなった菅原水田はイボクサにとって繁殖し難い環境になってきている。しかしイボクサが少なくなった原因をトロトロ層にだけ求めるのは早計であろう。というのは、自然の営みは人間が簡単に理解できるほど単純ではないはずだからだ。ゆえに、自然の観察においては、人間が頭の中で予想する「こうなるだろう、ああなるはずだ。」といった既成概念を一度捨て去り、そして謙虚な気持ちで向き合うことが大切であると考えている。
 菅原水田は、農薬を使わないだけあって、他の水田には見られない絶滅危惧種の雑草がいくつかみられる。その代表的な雑草にシャジクモがある。絶命危惧種と言うくらいだから、その種を保存しなけ
7月3日、田面を覆うシャジクモ
ればならないという気持ちにさせられる。しかし、それは自然の力を見くびった人間の思い上がりではないかと思うこともある。
 昨年は菅原水田の象徴のように感じられたシャジクモであったが、これが今年一部の田んぼ(シャジクモ水田)で大繁殖した。保護すべき絶滅危惧種が大繁殖する、それは結果的に人間の生活に対して被害を与える結果ともなる。
 繁殖したシャジクモは過剰に養分を吸い上げた。そして真っ黒になるほど田面を覆い、田面水下への日光を遮ることで地温を低下させた。結果、稲の分けつは抑えられ、その水田は猛暑の今年にあっても5.5俵/10aと、昨年の冷害の年の収量とほとんど変わらない収量となった。
 イトミミズ調査の土壌サンプルを採取し終え、田面を眺めながら田んぼの中を歩いていると、紫色のコナギの花がポツポツと観察された。もう少し観察していると、妙に背丈の長いコナギがあった。
 「絶滅危惧種のミズアオイ?」そう思ったが、確信はなかった。ミズアオイは何度か見たことがある。しかし、その背丈の高いコナギはミズアオイにしては小振りであった。それに昨年、雑草調査のため、さんざん菅原水田を歩いていたが、一度たりともミズアオイを見つけることはできなかった。そのため、その背丈の高いコナギがミズアオイであるとは俄に信じられなかったのである。
 とりあえず、そのミズアオイらしきものをデジカメで撮影し、後日、その写真をHPに掲載しみた。そしてそれがコナギな
9月4日、小柄なミズアオイ
のかミズアオイなのか植物に詳しい知人に聞いてみた。そしたら丁寧に写真の解説をしていただき、それが間違いなくミズアオイであることを確認できた。
 冬期湛水2年目にして復活した絶滅危惧種のミズアオイ。眠っていた種子が発芽してきたのか、渡り鳥が種子を運んできたのか、あるいは水路から種子が運ばれてきたのか。どのようにしてミズアオイが菅原水田で花を開かせたのかは不明である。
 しかし、少しずつ日本の水田は変わっている、それも自然とともに歩める方向に、そう感じさせるミズアオイの花びらであった。

 

[HOME]
 

[目次] [戻る] [次へ]