「無」の心にて、苗を育てる |
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記録:平成17年5月20日 | ||||||
掲載:平成17年6月28日 | ||||||
栗原市志波姫の農家 菅原 |
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平成4年、水田の耕起及び代掻きを止め、耕さない水稲栽培にチャレンジ。 →結果、平成5年の冷害にあっても平年作を記録。 平成15年、冬の田んぼに水をかけ、冬期湛水水稲栽培にチャレンジ。 →結果、田んぼに草と白鳥と人間が集まった。 平成16年、田んぼの力頼みの無施肥栽培にチャレンジ。 →結果、収量は減ったが、話題も増えた。 そして平成17年・・・もちろん、今年も俺のチャレンジは止まらない。今年のチャレンジ、それは屈辱の平成16年の苗作りリベンジである。 「苗半作」、つまり稲作成功の半分は苗作りにある。しかしながら、ここ数年、俺はこの苗作りに関してスランプ状態にある。「俺の苗作りには何かが欠けている。」、そのような漠然とした思いは頭の中にある。しかし、それが何であるのか、今ひとつ確信を持てていない。いや、正直に言うと確信はあるにはある。が、しかし、ここ数年の苗作りスランプが、その確信
その確信とは「無」耕起、「無」使用農薬、「無」肥料と「無」、この延長線上にある苗づくりである。 俺は、冬の田んぼで、稲株をついばむ白鳥に語りかけながら、「無」にこだわる苗作りについて考えてみた。 「白鳥よ、俺は本当に「無」の苗作りができるのだろうか?」 しかし、白鳥は稲株をついばむのに忙しく、何も答えてくれない。「そうだよな、シベリアから飛んでくるおまえ達白鳥にとって、人間の悩みなど、しょせん取るに足らない些事にすぎないのだからな。白鳥たちよ、ぞんぶんに俺の田んぼで羽根を休めていってくれ。」、美しい白鳥達を見ていると、だんだん太っ腹な気分になってくるから不思議である。そんな白鳥を眺め、救われた気持ちになっていると白鳥は不審そうに俺を一瞥して糞をし始めた。 「太え野郎(白鳥)だぜ〜」、せっかく「美しい白鳥」を見つめ、俺は心を癒されているのにこのザマであるから、自然というのは人の心を裏切るが常のようである。もっともこの光景から、「これこそが自然の姿である。」との確信も得ることができた。 つまり、人は既成概念から「こうなるだろう、ああなるべきだ
俺の苗作りがスランプに陥っていたのも、自分の感性に忠実になれなかったからとも思えるのである。 そのように考えていると再び、俺の頭の中で「無」の苗作りに対する確信がよみがえってきた。 ここで、とりあえず俺の考える「無」の苗作りについて解説する。まずは、「無」にこだわるその理由である。 そもそも稲とは元来が雑草の一種であって、特に人が何かしなくても、自分の力だけで育つだけの力を有しているはずである。それを人間がいろいろ干渉するので、稲が過保護になり、イモチ病になったり、雑草軍団に怖じ気づいてしまう。ゆえに、稲の成長にできるだけ干渉せず、そして稲が本来有している潜在力を高めるのが「無」にこだわる理由である。 次に「無」にこだわる苗作りについてであるが、とりあえず俺が既存の苗作りで最も不自然に感じているのは「籾の消毒」である。 通常、農薬を使わない稲作では、籾を熱湯に漬けることで病害菌を排除し、バカ苗などの発生を予防している。しかしその一方で自然の雑草達は消毒無しでも堂々と、しかも図々しく田んぼに繁茂している現実がある。 この時点で稲の生命力は雑草達に負けており、そして過保護に消毒された稲は、人間の威を借りなければ、雑草達のプレッシャーに圧倒されてしまうであろう。 そしてもう一つ考えることがある。例えば世 間に溢れる抗菌グッズ、果たしてそれらが真に人間の健康に貢献してきただろうか?そもそも菌であろうと、一つの命であり、人の生活に影響を与えない限り、過剰に排除されるべきではないのである。 というわけで「無」の苗作りとして、俺は種籾の「無」消毒を思いついたのである。
平成17年、俺は、消毒無しの苗を初挑戦の苗代にてチャレンジすることにした。 俺に加えて平成15年から冬期湛水水稲栽培を始めた遠藤先生、浦山さんも「消毒無し」苗作りに挑戦している。それを下記に紹介する。 ★浦山さんの苗作り 苗 代:ベタがけ(ワリフ、シルバー使用) 塩水洗:きつく 種 籾:消毒せず 播種量: 85g/箱 ★遠藤先生 苗 代:トンネル 塩水洗:比重1.15 種 籾:消毒せず 播種量:50g/箱 ★不肖、菅原であります。 苗 代:べたがけ(ワリフ、シルバー使用) 塩水洗: 1.17 種 籾:消毒せず 播種量:60g/箱 以上、三名の共通は苗代と種籾消毒していないこと、薄播きであったことである。ちなみにバカ苗も発生しなかった。 このように俺の「無い々づくし」の水稲農法は毎年進歩している。しかし、我が農家経営については「無い々づくし」が発展しないようにと願うのである。 |
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