「そんなわけで、皆さん、月曜日までに進路志望カードを提出して下さいね」
『はぁ〜〜〜い!!』
いつもと変わらない、とても高校3年生の教室とは思えない喧騒ぶりで。
(無理もないか。明日から3連休だもね)
大好きだったこの騒々しい教室とも、気が付けば、あと1年もしないうちにお別れ。そんな風に考えたら、急にに切なくなってきて……
「卒業後の進路か―――」
放課後。
「よー、青子! 何、ちんたら歩いてるんだ? どうせ、『まだまだお子様のままでいたいのに』とか考えてたんだろ?」
「な、なによ! 快斗みたいに全然悩みの無い人に、そんな風に言われたくないわよ!!」
(そうよ。子供の頃からマジシャンになることしか考えていない快斗になんか、青子の気持ちがわかるはずがないんだから……)
いつもなら直ぐに反論してくるはずなのに、今日に限って、快斗は黙ったままで。
「しゃーねーなぁ。青子お前、今日これから暇か?」
「う、うん。でも何よ、唐突に?」
「まあいいから、俺にちょっと付き合え」
「え?」
何もわからないままに、快斗に連れられてきたのは、街外れの児童養護施設。
「快斗、ここって?」
「約束の時間まであまりないから、詳しいことは後で。青子はただ見てるだけでいいからさ」
「あ、うん……」
職員の人たちと簡単な挨拶を済ませ奥へと進む。さほど広くない体育館には、既に施設の子供たちが集められていた。
子供たちが注目する中、快斗がマジックを始めた。
初歩的なカードマジックから始まって、徐々に高度なマジックの数々へと進む。食い入るように見つめる子供たちの目は輝いて、時には歓声を上げたりして。何だか、ちょっと懐かしい感じがした。
「青子、悪いけど、右手の掌を上にして、前に差し出してくれないか?」
快斗のこの一言で、子供たちの視線が一気に私に集中する。
「ちょ、ちょっと快斗ぉ?」
「いいから、いいから!」
軽くウィンクをしてそう言うと、快斗はさも白々しくカウントを始める。
「ワン、ツー、スリー!!」
一瞬、薄く煙幕が広がったかと思うと、次の瞬間、まるで花びらが舞うかのような紙吹雪と共に、私の掌から何羽もの鳩が飛び立った。
『わぁー、凄い!!』
『お姉ちゃん、どうやったの?』
「え?」
視線を快斗の方に向けると、ニッと得意満面な顔を浮かべていた。
「ゴメンね、タネはあのお姉ちゃんに聞いてくれるかな?」
『はーい!!』
(私に答えられるはずがないもん! だって、私が一番驚いてるんだから!!)
辺りが暗くなる頃、私たちは沢山の子供たちの笑顔に見送られ、児童養護施設を後にした。
「ねえ、いつから、今日みたいなボランティアを始めたの?」
「つい最近」
「へぇー、青子、快斗がそんな殊勝なことしてただなんて全然知らなかったぁ」
「悪かったな。いつもは殊勝じゃなくて」
(いつからだったかな? 時々、快斗が無理をしていると感じるようになったのは……)
なぜだか、らしくない快斗のせいで、ふと、そんなことを考えてしまって。
「そう言えば、快斗のおじさんも、昔、同じようなことをしていたもんね。……ねえ、やっぱり快斗はマジシャンになるの?」
「ていうか、既にマジシャンなんですけど?」
「はいはい、そうでしたね」
「何だよ、その言い方は?」
「別にぃ」
「昔、親父がよく言ってたんだよ。『他の誰よりも、青子ちゃんに喜んでもらえると、凄く励みになる』みたいなことをな。ガキの頃は青子だろうが、他の客だろうが変わんないだろうにって思ってたけど、最近、親父が言ってたことが何となくわかるんだよなぁ」
「え?」
「ほら、お前って単純だからさ。リアクションとか、ホント、わかりやすいし」
「し、失礼ねえ」
「まあその、何て言うか……、青子は青子のままでいいじゃねえの? その方が、俺も都合がいいっていうかさ、その……」
「え?」
(そうだよね。快斗は快斗のままでいようと頑張ってるんだもん。青子も青子のままでいいんだよね?)
「ありがとう、快斗!」
週明けの月曜日、私は進路志望カードを提出した。
〜 世界一の観客になりたいです 中森青子 〜
誰でもいいので、快青の書き方を教えて下さい!!(苦笑)
青子ちゃんがホント難しい……