「え? 本当にやってこなかったの、数学のレポート?」
「あんなもん、10分も掛かんないで終わるっつーの!」
「どうせまた、夜遅くまで推理小説でも読んでいたんでしょ? ホント、留年しても知らないからね?」
「だからなあ……」
「なーに? 朝っぱらからいつもの夫婦喧嘩?」
玄関の下駄箱前での親友と親友の彼とのやり取りに、園子はわざとらしくため息を吐いた。
「そ、そんなんじゃないったら、園子!」
「はいはい」
顔を真っ赤にして、慌てて否定する蘭の姿に、園子はくすりと笑う。
「いつまでたっても、からかい甲斐があるって言うか」
同意を求めるように視線を向けると、新一はさも面白く無さそうな顔で目を逸らした。
園子は悪戯っぽく笑って。
けれど、直ぐにその表情を曇らせる。
「ホント、羨ましいんだから……」
どこか寂しげに呟いた園子に、蘭と新一は思わず顔を見合わせた。
教室に入る頃には、園子はいつもの彼女らしい明るさを取り戻していた。自分たちの席に着いて、いつものように談笑するものの、蘭はどうにも落ち着かない。堪り兼ねて、遠慮がちに園子に問い掛けた。
「ねえ、園子。もしかして、京極さんと何かあった?」
蘭の言葉に、園子は思わず苦笑する。
「ううん、その逆。ここんところ、また連絡をくれなくなって……」
園子はそれだけ吐き出すように言って、盛大にため息を零した。
「私のこと、ホント、どう思ってるんだろう……」
「気にし過ぎなんじゃねーの?」
二人の背後から割って入ったのは新一だった。
「え?」
「新一?」
困惑の表情を浮かべる二人を見ることなく、ペンを走らせながら新一は言葉を続けた。
「蘭の話を聞く限り、京極さんがいい加減な気持ちで園子と付き合ってるとは考えられない」
「でも……」
「あのさあ、興味の無い女の服装に注文付ける男なんて、下心があるとか、そういった理由が無い限り、まずいないから。ましてや、好きでもない女のために、わざわざ海外から駆け付ける男は皆無に近い。なあ、園子、オメー、何度も京極さんに助けてもらってんだろ? それも、いつもかなりヤバイ状況の時にさ」
「う、うん……」
「言わば、命懸けで園子を何度も助けてるってことは、それだけ大切に思ってるってことの裏付けになるんじゃねーの?」
「そうだよ、園子! 心配いらないって!!」
「――― うん、だよね」
新一と蘭の言葉で、園子はようやくホッとしたように微笑った。
「なあ、蘭。最近、大きな大会があるとか、聞いてないか?」
「大会って、空手の?」
「ああ」
蘭はしばらく考え込むようにして。
「そう言えば、先週、駅前のお花屋さんの前で数美先輩に偶然会ったんだけど、その時、インカレが近いから、合宿が大変だって……」
「そういうことだ、園子」
園子は思わず目を見張り、そして、苦笑した。
「新一君も、たまには良いことも言うのね?」
「たまにって、オメーなあ……」
新一はレポートに向かったまま苦笑して、呟くように言った。
「確かに、喧嘩するほど仲が良いとか言うけど、すべての人に当てはまるってもんじゃねーだろ? 愛情の形は人それぞれなんだから。さてと、終わった」
「嘘? もう終わったの?」
「だから言っただろ? 10分も掛からないって。まあ、とにかく園子、あんまりらしくない顔はするなよな? 蘭まで同じような顔になるんだからさ……」
新一の言葉に、園子は思わず声を上げて笑った。
「前言撤回。やっぱり、新一君は新一君だわ」
元々、この3人の関係はお気に入りなんですけど、先日のドラマでさらに触発されて書いてみました。って、もっと先に触発されるべきポイントが、他にあったような気が・・・・・・(苦笑)。