Track 3. こぶねに、

「なあ、平次、あたしら道に迷ったとちゃう?」
「変やなあ、依頼書に同封されていた地図の通りに来たはずやけど……」
「もしかして、さっきの分かれ道は大きい道の方が正しかったとか?」
「けど、この地図にはそんな道、どこにも書いてへんぞ? それに、あの道は確か、今流行の温泉地に向かう道のはずや……」

平次の元にその手紙が届いたには3日前のことだった。
手紙には北村和夫という名前と、『暗号を解いて欲しい』とだけ書かれていて、依頼人の家までの地図と共に現金5万円が同封されていた。もちろん、暗号そのものにも興味があったのだが、元来、依頼料を受け取らない主義の平次は、その現金を返すべく、和葉を連れて自慢のバイクで依頼人の元へと向かうことにしたのだった。
同封されていた地図は、国道からほぼ一本道で目的地に着けるというというシンプルなもので、間違えようもなかったのだが、二人を乗せたバイクはなぜか2時間近くも鬱蒼とした森の中を走り続けて、未だに目的地に辿り着けずにいたのだ。

「なあ、平次、この地図に書いてある川って、この下の小川のこととちゃう? ここまで、川なんて一つも無かったし」
「そやな。だとすると、目的地までまだ半分しか来てへんってことになるけど……」
「なら、あと2時間は走らなあかんってこと?」
「ああそうや」
「最悪や……」
「だから言ったやろ? 付いて来んでもえーて!」
「そやけど……」
「ほな、ゴールも見えてきたことやし、そろそろ行くで、和葉」
「あ、少しだけ待っといて?」
「はあ?」

和葉は一人、道から3メートルほど下を流れる小川へと向かう。
和葉が小川にいたのはほんの数分のこと。平次の位置からは背中しか見えず何をしているのかわからなかった。

「はい、タオル! 冷たい水に浸してきたから、気持ちいいはずやで! それと、笹舟も流しておいたから」
「笹船?」
「うん。小学校の1年生の時やったかな、親戚の家に遊びに行った時に教えてもろてん! 笹舟を流して、どこにも引っ掛からずに見えなくなるまで流れていったら願い事が叶うってな。平次、来週の週末は試合やろ? だから、優勝祈願しておいたんや。それと……」
「それと?」
「ううん、何でもあらへん……」
「?」

とその時、一台の車が二人の前に停まる。森に入ってから2時間、これが初めてに車だった。
「良かったあ……」
「「え?」」
「高校生探偵の服部平次君ですよね? 私がご依頼しとった北村です。あのぉ、すみません……、実はお送りした地図が20年くらい前の古いものだったようでして……、途中の分かれ道で広い方の道を選んで頂ければ我が家に30分ほどで着いたのですが……」
「なんやとォ!? なら、俺らは無駄に2時間もこんな山道を走らされたってことやんけ!!」
「ホンマに申し訳ありません……」

ただただ平謝りする北村を前に、大きな溜め息と共に平次と和葉は肩を落とすことしか出来ずにいた。
ちなみに、北村のいう暗号というのは、遺言書の在り処が書かれているというものなのだが、小学生でも簡単に説けるレベルのなぞなぞのようなものだった。おそらく、金に目が眩んだがために解けなかったのだろう。平次と和葉がその暗号を目の当たりにし、再び大きなため息をこぼしたのは言うまでもない――――

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こぶねと言えば笹舟かなってことで書いてみたんですが、うーん、微妙ですね……
留意はやっぱり大阪弁が大の苦手のようです。そのせいか、平次も和葉ちゃんも人格が違ってるし……、本当はもっと平和も書きたいんですけど、まだまだ修行が必要のようです。

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