「お父さん、そろそろ起きたら?」
気だるい春の温もりが、まるで俺の目覚めを邪魔するかのような日曜の朝だ。
昨夜の酒が残っているのだろう、頭がガンガンする。
それにしても、毎年この時期になると、どうしてこうも日本人は桜に熱狂的になるのだろう? だいたい、花見などというものは、本当に桜を見るために開かれてるのか? 俺にはどうも酒を呑んでドンチャン騒ぎをするためのような気がする。少なくとも、毎年参加している町内会の花見では、桜を見ているのは最初の5分くらいのもんだろう。
そういう俺も、完全に花より団子派ではあるが……
「早く朝ごはんを食べちゃってね。いつまでも片付かないんだから!」
「ああ……」
正直、こんな二日酔いの状態で朝ごはんなど食べたくはないのだが、ここでもし食べずにいたら、蘭から
「調子に乗って、いつまでもお酒なんか呑んでるからよ!」
などと文句を言われることは必至だ。それに、怒った時の蘭の顔は、英理にそっくりだから余計に性質が悪い。
「あれ、ボウズは?」
「コナン君なら、とっくに博士ん家へ出かけたわよ」
「そうか……」
とりあえず、新聞を読んで目を覚ますことにする。
蘭は家事が一通り終わってからでないと新聞は読まないので、おそらく、ボウズが先に読んだのだろう。新聞と折込チラシとが分けられ、俺の分の朝ごはんの横にきちんと折られた状態で置かれてあった。
普通、小学1年生のガキが隅々まで新聞を読むもんか?とは思うのだが、なぜか我が家では、余程のことが無い限り、一番先に読むのはコナンなのだ。まあ、あいつの場合は、新聞に関わらず、普段の行動からいっても、本当に小学1年生なのかは疑問ではあるのだが。
(英理の奴、また連勝記録を伸ばしやがったな)
新聞の社会面にはデカデカと、大手外資系企業のセクハラ裁判で被害者全面勝訴の判決の文字が。
(女王様はまだまだ健在ってわけね……)
「お父さん、そろそろ私、部活に行きたいんだけど?」
「茶碗なら自分で片付けておくから、俺に構わず出かけていいぞ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。私が見てないからって、朝ごはんを抜いたらダメだからね?」
「へいへい」
数分後、再度、俺に注意を促し、蘭は出掛けていった。
新聞を一通り読み終えると、いつものように1面の左下部分に小さな折り目付けておく。後から読み返すときの目印とするために。
いつの間にやら目も完全に覚めたことだし、俺はようやく箸を手にした。
一口、二口――――
さっきまで朝ごはんなんて食べたくなかったはずなのに、いざ口にしてみると、心なしかいつもより美味しく感じるのだから不思議だ。
たぶん、折り目の付いた新聞のせいなのだろう。
「水平線上の陰謀」の公開に合わせて、小五郎さんのお話にしてみました。
お話のヒントはもちろん27巻です。
新聞の折り目については、蘭ちゃんもコナンも当然気付いているんですが、小五郎さんの性格を考えて、あえて気付かない振りをしているってことで。