Track 7. ソファのあるへや

(今年はホワイトクリスマスかな?)
窓越しに見えるふわふわと舞い降りる真っ白な雪が、そんな淡い期待を抱かせた。

不思議ね。
つい数日前までは、必死に手を伸ばさなければならなかったのに、今はこの大きな家中にいつだって新一を感じられる。一人で過ごすには広すぎて無機質に感じたリビングも今は優しく、主を失い冷たさに満ちていたソファは温かい。

今年の冬はいつにも増して寒い日が続いている。
連日、遅くまで捜査協力している新一に、せめて体の温まるものを食べてもらいたくて、気が付けば、部活帰りに新一の家に寄るのが日課になっていた。

本当は毎日新一の帰りを待っていたいのだけど、お父さんが絶対に許してくれるはずはない。
でも、お父さんから今夜は帰れそうにないって連絡があったの。だから、今夜は新一を想いながら帰りを待つわね。何も知らない新一は、きっと驚くでしょうけど。

いつに間にか、そのままソファで眠ってしまったらしい。
何かとても大きくて温かいものに包まれている感じがして、まどろみの中で目を覚ますと、ソファにもたれ掛るようにして座り、新聞を読み耽る新一の姿があった。

「え? あれ、新一?」
「やっと目を覚ましたみたいだな」
「ゴメン、いつの間にか眠っちゃったみたいで……。新一、いつからそこにいたの?」
「30分くらい前からかな」
「嘘? どうして起こしてくれなかったのよ!?」
「オメーは一度寝たら、なかなか起きないだろうが。それに、無防備な顔して寝てる蘭を見てるのもそれなりに楽しかったし」
「はぁー? 何よそれ!?」
「別に大した意味はないって。それより、いいのか? こんな時間まで帰らないでいても?」

新一の言葉に慌てて左腕の時計を見ると、時計の針は7時を少し回ったところだった。
(嫌だ、確か最後に時計を見た時は6時前だったから、1時間以上も眠ってたの、私……)

「あ、あのね、新一。今夜はお父さん、町内会の会合に行ってるんだけど、帰れそうにないってさっき連絡があったの。だから、少しくらい遅くなっても……」
「遅くなってもって?」
「え?」
「誰もいない家に帰っても、一人で平気なのかってこと」
「あ、うん、平気じゃないと思う……」

「――― なるほど、な」
「なるほどって、新一!?」
「いや、今日は推理してても何だか落ち着かなくってさ。だから、即効で事件を解決して帰ってきたんだけど、案外、たまにはゆっくり蘭と過ごせってことだったのかもって思ってさ」

そう言って、悪びれる様子もなく微笑む新一に、急に恥ずかしくなって私は目を合わすこともできなかった。

「あ、そう言えば、雪……」

何となく新一の側に居づらくなって、庭を望む窓の前に立つ。
薄っすらと辺り一面は白く変わっていたが、雪はすでに止んでいた。

「何でも、クリスマスの頃まではこの寒気は居座るって話だから、今年はホワイトクリスマスを期待しても良さそうだぞ?」
「ホント?」
「ああ。それと……」
「ん?」
「心配はいらねーからな。クリスマスくらいは一緒にいてやっからさ」

探偵の目は欺けないみたいね。
そう。昔流行ったあのクリスマスソングのように、私が願うのは、ホワイトクリスマスでもプレゼントでもなくて、ただ新一と一緒に過ごしたいだけ。

「うん」

コクリと大きく頷いて、差し出された手に従いソファに戻る。
ちょっと悔しいけど、一番居心地が良い場所はやっぱり新一のすぐ隣だから――――

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本当は小五郎さんに阻止されるってオチがあったんです、長くなってしまうので泣く泣くカット(笑)。
ちなみに、最後の方にちらっと匂わせた通り、イメージソングは「恋人たちのクリスマス」です。

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