- ロサンゼルス -
俺は工藤優作……
世界屈指の推理小説家、そして、探偵である。
俺の頭脳をもってすれば、解けない謎など無い。
ただ一つの謎を除いては―――
今日もまた、妻の有希子が忽然と消えた。
いつものパターンなら、浮気だ、何だと謂れ無き難癖を付けた後に行方不明になるのだが、今回に限っては、そういった前兆がまるで無かった。
行き先が日本であることは間違いないはずなのだが。
- 米花町 -
<ピンポーン>
玄関先にいても聞こえてくる、ドタバタと家中を走り回る音。
案外、俺の登場を待っていたということなのだろうか?
しかし、ドアを開け出迎えてくれたのは、俺の予想とは別の人物だった。
「何だよ、父さんか……」
息子の小言など無視し、とりあえず、リビングへと向かう。
この家はまだ俺のもののはずなのだが、なぜか最近は、すんなり家の中に入れたことがないのだ。
父親である俺がこんなことを言うのも何だが、一人息子の新一は基本的には冷静沈着な男である。それは、子供の時から探偵を目指し続けてきた新一にとっては、必須条件の一つでもあったからだ。その新一が今は、これほどまでに冷静さを失っている。考えられる理由はただ一つ。蘭君に関わることに違いない。
「で、相変わらずの予告無しの帰国の目的は?」
「いや、有希子が来ているはずなのだが、この様子だと……」
「ああ、来てないよ、今のところは。ったく、また夫婦ゲンカかよ?」
「それが、少なくとも俺はこの数日、ケンカをした記憶などはないんだが、気が付いたら有希子がスーツケースと共に消えていた。帰国したのは間違いないはずだが……。それより、お前こそ、さっきの慌て振りはどうしたのかね? さては、蘭君とケンカでも」
「バ、バーロ、父さんたちじゃあるまいし、そんなわけないだろ? ただ、今朝から蘭とまったく連絡が取れないんだ。事務所にも自宅にもいないし、部活や園子、おばさんのところでもない。その上、おっちゃんとも、夕べから麻雀に行っているからか連絡が付かないし。心当たりのあるところには全部当たってみたんだけど……。ただ、今の父さんの話で、理由はわかった気がする。おそらく犯人は……」
<ピンポーン>
「たっだいまー、新ちゃん♥」
「やっぱり、母さんが犯人だったわけね……」
「?」
実にタイミングが良いとでも言うか。おそらく、新一と俺が思い描いていた人物の登場である。
その右手にはスーツケース、左手には有名ブランドのロゴ入りの袋を抱えた状態で。
「あら、優作までどうしたの?」
「それはこっちのセリフだよ、有希子。さっそく、今回の帰国の理由を聞かせてもらおうかね?」
「その前に母さん、蘭はどうした?」
「何よもう、二人ともイライラしちゃって。私はただ、『フサエ・ブランド』が日本限定で新作のバッグを発売するって聞いたから、蘭ちゃんと二人で買いに行ってきただけよ。前に蘭ちゃんも『フサエ・ブランド』に興味を持っていたみたいだったから」
「じゃあ、蘭は今……」
「ええ。自宅までちゃんと送り届けたわよ」
「ったく、いつもいつも人騒がせなんだよ、母さんは……。俺、ちょっと出掛けてくるからさ、後は二人でご自由に!」
先ほどまでの顔面蒼白ぶりはどこへやら。我が息子ながら、実にわかりやすい性格である。
「さてと、有希子。理由はわかったが、そういうことなら、どうして俺に一言の断りも無しに帰国したんだい?」
「だってー、優ちゃんはまだしばらくホテルに缶詰だと思ったから。どうせ、私が何を言ったって、何も耳に入らなかったでしょ?」
「……」
悪びれる様子も無く、こうして屈託の無い笑顔を向けられると、返す言葉が見つかるはずもなかった。
おそらく、コナン作品中で「不可能」という言葉に一番縁遠そうな優作さんで書いてみました。捻くれ者の留意らしい選択です(笑)。
それにしても、優作さんを登場させると一気に難易度が上がるような気が……、まだまだ、修行不足ですね。