警視庁の捜査一課と言えば、日々、殺人事件やら強盗事件やらの捜査で、常に緊迫した空気の元にあると思われがちだが、必ずしもそういうわけでもない。関係者から事情聴取をしたり、報告書を作成したり等々で、一日が終わることもたまにはある。
今日は、珍しくそんな日になるはずだったのだが―――
昼休みが終わった直後のこと。
「「きゃーーー!!!」」
突然の悲鳴に辺りの空気が一瞬にして張り詰めた。
その直後、なぜか殺気に満ちた視線が一斉にオレに向けられたかと思うと、
「高木、お前、一体に何をした?」
「は?」
あっという間に、屈強な男たちに囲まれてしまう。
「とぼけんなよ、高木?」
「あ、いや、僕は本当に何も……、それに、悲鳴は給湯室の方から聞こえたと思うんですが。僕がずっとここにいたことは、皆さんだってご存知のはずでは……」
と、オレが言い終わるのを待たずに取巻きは解散していた。
こんなことは日常茶飯事なので、いちいち気にしてはいられない。
捜査一課に配属されて以来、ずっと憧れてきた佐藤さんと付き合うようになったのは半年前のこと。
警視庁のみならず、埼玉県警にも熱烈なファンが大勢いるほどのアイドル的存在の彼女の相手が自分だなんて、他の人たちが納得いかないのも無理はない。仕事上でも彼女の方がずっと有能だし、オレ自身も釣り合いが取れてないと未だに思うくらいだし。だから、彼らが何かにつけてオレを監視しようとするのもわかなくないのだが。
悲鳴はやはり給湯室からだったらしい。少し遅れて駆けつけると、給湯室前に出来た廊下の人だかりの中心には、寄り添いあう佐藤さんと由美さんの姿があった。
突然、姿を見せたゴキブリに、思わず悲鳴を上げてしまったというのが真相とのこと。
普段、付け入る隙を見せることのない凛とした女性が、こうして無防備な姿を見せれば、ドキッとするのは当然のことで。一体、どこから用意したというのだろう? まるで最初から示し合わせていたかのように、装備を手にした屈強な男たちによるゴキブリ退治大会が、いつの間にか始まっていた。ちなにみ、その大会が終了までには、それから30分ほどの時間を要したのだが。
その後、夕方まではどうにか平穏に過ごす。
だが、油断は禁物。
それは、就業時間も終わり、この日の仕事が全て終わった時のこと。
「ねえ、高木君、由美とこれからカラオケに行こうってことになったんだけど、あなたもどう?」
「あ、はい、もちろん行きます」
「そうだわ、こういうことは人数が多い方が楽しいから、千葉君もあなたから誘ってみてくれるかしら?」
「わかりました」
って… あー、そんな無防備な笑顔を見せちゃダメですって!
ほら、周りからの視線が凄いことになってるじゃないですか!!
相変わらず、本人はそんなこと、全然気付いていないし。
佐藤さんが捜査一課を後にした直後、案の定、オレは取調室に呼ばれることとなった。執拗な尋問は30分以上にも及んで……。
結局、その後のカラオケは正に大会と呼べるほどのものになった。
夏真っ盛りの日曜日、かくも、平凡な日々・・・なのか?
ヘルプミーといえば高木刑事だろうということで書いてみたんですけど、失敗です。これじゃあ、完全に別人格ですもん。
高木君って一人称は間違いなく「オレ」なんだけど、「僕」と言ってることの方がはるかに多くて、しかも、丁寧な口調なんですよね……。一から出直してきます。