Call my name

「ほら、終わったぞ。さてと、そろそろ寝てもらいましょうかね、コナン君?」
「えー、まだ寝たくないよぉ!」
「お前さぁ、今何時だと思ってんだ?」
「10時半でしょ?」
「わかってるんだったら、さっさと寝ろっつーの! お前くらいの子供は、普通、こんな時間まで起きてないだろうが!」
「人は人、僕は僕だから。それに、僕もお母さんも明日はお休みだもん! お父さんはどうだか知らないけど?」
「ったく、お前って奴は。ホント、誰に似たのやら……」
「みんな僕のこと、お父さんにそっくりだって言うけど?」
「我が息子ながら、ホント、感心するよ。お前のその、人を凹ませる才能には……」

新一はすっかり困り果てていた。4歳になる一人息子のコナンがいつまで経っても寝ようとしないのだ。

探偵などという不規則な仕事をしているせいか、普段からコナンのことは蘭に任せっきりになりがちだった。そのため、コナンが自分の言うことをなかなか聞こうとしないのも、わからないでもない。だからこそ、早く帰宅した時には、なるべくコナンの相手をするようにしてきた。それで、蘭の負担が少しでも軽くなればとの思いもあったのだが。

この日の帰宅は夕方。家族3人で夕食を共にするのは2週間振りのことだった。
夕食後、いつものように新一に本を読んで、とねだったのはコナン。蛙の子は蛙とでも言うのだろうか、その小さな手から渡されたのは、シャーロック・ホームズ全集で、しかも、原文版だったりする。

物心付いたときから子供向けのホームズ全集を読み聞かせていたこともあり、その内容のほとんどをコナンは覚えている。とは言え、さすがに英文までは4歳では正しく理解できるはずもない。それなのに、なぜ、コナンが原文版を選ぶのかというと、本の内容そのものより、単に新一の読む姿を楽しんでいるからなのである。

自他共に認めるシャーロキアンの新一が、無意識の内に感情を込めて本を読み聞かせるのは当然のこと。しかも、元女優の母親譲りの天才的な演技力を伴ってのことだから、たとえ話している内容がわからなくても、充分、コナンは楽しかったのである。
時より夢中になり過ぎて、自分に読み聞かせていることを忘れる新一に、絶妙なタイミングで声を掛けながら、コナンはいつまでも飽きずに新一の姿を眺めていたのだ。

蘭からの指摘で、新一の読み聞かせが終わったのは9時を大きく過ぎた頃だった。その後、慌ててコナンをお風呂に入れ、コナンの髪も乾かし終わり、いよいよ寝かし付けようという時のコナンの抵抗なのである。

「あら、まだ寝てなかったの?」
「ああ。全然、寝ようとしなくってさ。コイツ、普段からこんな遅くまで起きてるのか?」
「ううん、いつもは遅くても9時までには寝るわよ。久しぶりに新一に遊んで貰えるから、嬉しくって寝たくないんじゃないの?」
「そうか? 俺には確信犯のように思えるけどな」
「確信犯って?」
「僕、お母さんと一緒なら、今すぐに寝てもいいけど?」
「ほらな」
「?」

いつの間にか蘭の足にピタッと張り付いているコナンを横目に、新一は何となしにテレビの電源を入れる。映し出されたのはニュース番組で、ちょうど、特集コーナーが始まろうとしていた。

『今日の特集は、子供の体内記憶と出産時の記憶についてのお話です』

「なぁ、コナン。お前も蘭のお腹の中にいた時のこと、覚えてるとかって言わないよな?」
「覚えてるよ。お父さんもお母さんも色々と僕に話しかけてくれたでしょ? 確か、お父さんは『あんまり蘭を蹴飛ばすなよ』とか、お母さんは『無事に産まれてきてね』とかってね」

新一と蘭は思わず顔を見合わせる。コナンの言うことに、二人とも覚えがあったのだ。
とりあえず、蘭はコナンを新一の隣りに座らせ、コナンを挟むように自分も座る。そして、思ったことを口にしてみた。

「ねえ、コナン。産まれてくる時の記憶もあったりする?」
「もちろん! 僕、呼ばれたんだ、『コナン、早く出て来いよ』ってね」
「呼ばれたって誰に?」
「えーとね、僕をもうちょっと大きくして眼鏡を掛けた人」
「まさか、青い服を着て、赤い蝶ネクタイをしていたとかって言わないよな?」
「え、何でお父さんがわかるの?」
「いや、ほら、俺は探偵だからさ……」
「ふーん……」
「それで、コナン。その子、他にも何か言ってたの?」
「うん。『早くしないと、お前のお母さんが苦しいんだぞ』とか、『みんな、お前のことを待ってるからな』とか……」
「そっか……」

30分後、どうにかコナンを寝かしつけた新一と蘭はリビングに戻り、先ほどのコナンの言葉について考えていた。コナンの言葉を裏付けるかのように、初産にしては時間が掛からず、安産だったのだ。

「あの時、産まれてきた子供の顔を見てから、名前は決めるってことだったよな?」
「うん。だから、二人とも事前に名前の候補も挙げなかったのよね?」
「ああ。でも、俺も蘭も早くから、男の子が産まれてきたら名前はコナンにしようと決めていた」
「ええ」
「アイツは俺たちの思いをお腹の中から感じ取ってたんだろうな」
「でも、なんでコナン君の姿なの?」
「それは、ほら、俺も蘭もコナンと言えば、あの姿だから」
「そっか……」

二人は蘭の手に握られていた1枚の写真に目をやった。それは、眼鏡を掛けたコナンが写っているもので、息子のコナンには今まで一度たりとも見せたことのない写真だった。

「いつか、あの子にもコナン君のことを話さないとね」
「そうだな。どちらにしても、アイツには隠し通せることでもないだろうし」
「たとえこの写真が無くても、いつかは真実を求めようとするのよね、探偵の血を受け継いでいるんだから」
「ああ。アイツの場合は、俺からも蘭の方からもだからな」
「そうね」
「まだ当分先になるだろうけど、アイツがきちんと物事を判断できるようになったら、全てを話すつもりだよ。アイツの名前に込められた本当の意味と共に……」

コナンの名前は、自分でもベタだな、とは思うんです。
でも、元江戸川コナンvs工藤コナンの戦いぶりを書きたい!という衝動から、どうしても逃れられなかったものですから(笑)
ちなみに、こちらのコナン君は、将来、探偵にはなりません。とは言え、文句無しの血筋ですから、生まれながらの探偵の能力を生かせる仕事に就く予定です。その辺りまで書くのは当分先になるというか、そこまで辿り着ける自信は無いかも……

ちなみに、この話には、対となる裏設定の話があったりします。
興味があるという方は、裏小説へ。

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