「元太君、光彦君。二人とも、おはよう」
「おう、おはよう」
「歩美ちゃん、おはようございます」
「今年も、二人と同じクラスだね。良かった」
「そうですね。そういえば、灰原さんの名前が無いみたいですけど……。それに、姿も見えませんねえ。今日は、一緒に来なかったんですか?」
「うん。何か、哀ちゃん用事があるらしくって、先に学校に行くからって電話で話したんだけど……。おかしいなあ」
「なあ、この名前って、もしかしたら、灰原の事なんじゃねえのか?」
「どれですか? 元太君」
「あっ、本当だ。これって、どう考えたって哀ちゃんの事だよね」
「あら、みんな揃っているようね」
「哀ちゃん!」「灰原!」「灰原さん!」
見事なまでに3人の声が重なる。
ただ、それぞれが同一人物を呼んでいるのに、その呼び方が違うところが、何とも、らしかったりするのだけど。
「あのー、灰原さん。ここにある“阿笠哀”って…」
「そう、私の事よ。この春休み中に私、博士の養子になったの。だから、これからは、阿笠哀。みんな、宜しくね」
「けどよ、灰原。俺や光彦はどうやって呼べばいいんだよ?」
「そうですよね。まさか、今までみたいに『灰原さん』っていう訳にはいきませんよね……」
「仕方がないから、二人とも、名前で呼んでもいいわよ」
「本当かよ?」「本当ですか?」
「ええ」
「それじゃあ…… せーのっ」
「「哀ーいちゃん!!」」
「用事もないのに、呼ばないで欲しいわね」
「そうは言っても、ねっ、元太君」
「おう」
「二人とも、良かったね。それに、哀ちゃんも。苗字が変わっても、仲良くしてね」
「もちろんよ」
そう。結局、私は元の体には戻らず、今のままで、人生をやり直す事にした。
私にはかけがえのない友人がいて、今では家族となった博士がいる。それに、工藤君や蘭さんも。きっと、私の両親やお姉ちゃんだって、この決断を認めてくれていると思う。
私の犯した罪の償いは、この時、すでに始めていた。医療分野への協力という形で。
これだけでは済まされないかもしれないけど、私は精一杯に生きてみるつもり。これからは、少しでも人の役に立つように―――
「良かった、新一がいてくれて」
「何だよ、蘭。急に…」
「あのね、さっき、うちに帰ったら届いてたのよ手紙が」
「手紙?」
「そう。ほら、志保さんからのエアメール」
「宮野からだって?」
「うん。ざっと中身は呼んだんだけど、新一にも見せてあげようと思ってね」
「でも、それって、蘭宛てだったんだろ? 俺が見ても大丈夫なのか?」
「もちろん。いいから、読んでみてよ、新一」
お久しぶりね、蘭さん。元気にしているかしら。
工藤君とはどう? ケンカなんかしてないわよね。
まあ、あなた達なら心配するだけ無駄でしょうけど。
連絡するのが遅くなってゴメンなさい。
半年前、私はここアメリカに渡って来ました。
こちらに着いてすぐに、APTX4869の解毒剤を飲んでこの宮野志保の体に戻り、
今はFBIの依頼でもあった国立のガン研究所の職員として働いています。
最近になって、やっとこちらでの生活にも慣れ、こうして、あなたに連絡出来るようになりました。
これからは、メールでも連絡できる思います。
私のアドレスを書いておきますので、良かったらメール下さいね。
暫くは日本に戻る事はないと思います。
けど、もし、戻るような事がある時はすぐに連絡しますね。
だから、蘭さん。工藤君と二人でアメリカに来る事があったら、ぜひ、こちらにも寄って下さいね。
それでは、また…
工藤君と末永くお幸せにね!
灰原哀こと、宮野志保より
P.S. わたしの近況を知らせる為に写真を同封しました。一緒に写っているのは研究所の同僚です。
「ね、新一が読んでも大丈夫だったでしょ?」
「ああ、そうだな。あいつも向こうで、何とか上手くやってるみてーだな」
「そうね。そういえば、私、この写真で初めて志保さんの姿をみたんだけど。新一は?」
「俺もだけど」
「綺麗な人だったんだね、志保さん。まあ、哀ちゃんもあれだけ可愛いかったんだから、当然といえは当然なんだろうけど。それにしても、この写真の二人。何かいい感じに見えない?」
「ああ、そうかもな。あいつもやっと普通の人間らしくなってきたって事だろうな」
「志保さんには、幸せになってもらいたいわね。亡くなった家族の分も…」
「それが、あいつの家族の願いでもあっただろうし」
第2弾は哀ちゃん編です。
留意の中では哀ちゃんと「るろ剣」の高荷恵のキャラがどうしても被ってしまいます。そんな理由もあって、「るろ剣」のテーマでもあった贖罪を意識して書きました。
ちなみに、最後の2つの“答え”ですが、このサイトでは1の方を基本設定にしています。