Pandora's Box

プロローグ

「なあ、蘭。オメー、この春休み中も部活あるんだろ?」
「うん。都大会の予選までそんなに時間もないから、ほぼ毎日の予定だけど」
「それ、何とか一週間くらい、休めないか?」
「一週間も? どうして?」
「一緒にニューヨークに行って欲しいんだ。2年前に行ったあの場所に……。まあ、オメーにとってはあまり行きたくない場所だろうけど」
「うーん、確かに……。でも、どうして私も一緒なの?」
「オメーも覚えているだろ? 日本人通り魔の事件。あれは実は、俺が追っていた組織と関係があったんだ。だから、この春休みを利用して、ラディッシュ警部に詳しい事情を説明しに行くつもりなんだけど、この際にオメーにもきちんと話しておいた方が良いだろうと思って。嫌な事を思い出させてしまうようで、心苦しい思いもあるんだが……」
「私もその事件の事は、前に横浜で倒れた後、新一と電話で話してから、ずっと気になってはいたけど……。わかった、何とか都合を付けてみるね。ところで、おじさま達もニューヨークに行くの?」
「いや、親父達はロスに居てもらうつもりだ。その代わり、帰りに2、3日寄ってくるつもりだけど」
「そうなんだ。じゃあ、二人に挨拶はできるのね。そういえば、新一。休学中の補習を春休みにするんじゃなかったっけ?」
「その事なら、補習の代替案を提示すれば何とかなるだろう。大丈夫だよ」
「それならいいけど……。頼むから新一、留年なんかしないでね?」
「わかってるって」

3ヶ月前、俺はやっとの思いで組織を壊滅させる事ができた。そう、俺の体を子供の姿にしたあの黒ずくめの男達の組織をである。
それ以来、警察など関係各所への事情聴取や何やらで忙しい日々を送っていたのだが、最近になってやっと落ち着きを見せていた。

そこで俺は、ここ数日考えていたニューヨーク行きの事を蘭に提案したのである。
組織については、工藤新一に戻った直後、蘭におおよその説明はしておいたが、ベルモットと呼ばれていた人物についてはあえて触れずにいた。ベルモットの正体が女優クリス・ヴィンヤードで、なおかつ、彼女の母親であるシャロンと同一人物,、更に2年前の日本人通り魔だったという事実は、シャロンのファンでもある蘭には相当なショックを与えてしまうだろうと思ったからだ。
だが、今回のニューヨーク行きを機に、全てを話してしまった方が蘭のためにも良いと、俺は思い始めていた。知らず知らずとはいえ、蘭もまたベルモットと深く関わってしまっていたのだから……

その後、学校側には大量のレポートを提出することで補習の免除を了承させた。また、前回の渡米で勝手に蘭を旅行に連れ出したとして、 “駆け落ちごっこ”と散々嫌味を言われた蘭の父、小五郎からも、観光目的でないのであればと、渋々であったがこの旅行の許可が下りていたのである。

そして、この日、俺と蘭はニューヨークの地に下り立った。
そう、蘭にベルモットについてすべてを打ち明けるため、そして、自分の気持ちに決着をつけるためという思いを胸に秘めて――――

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