〜 あのね、私もお母さんたちみたいに、20さいまでにけっこんするのがユメなんだ 〜
ここは、米花センタービルの展望レストラン『アルセーヌ』。
クリスマスイブのこの日、この店に、まだ若い1組のカップルが訪れました。彼の方は、この店で伝説になっているカップルの一人息子です。彼もまた、自分の両親の思い出のこの場所で、同じようにゲンを担ごうと考えているようです。
ちなみに、このカップルがこの店を訪れるのは2度目。
2年前の前回は、彼はプロポーズどころか告白すら出来なかったのですが――――
さて、仕切り直しなのでしょうか? 二人は前回と同じ席に座ります。
そうです。
これから、彼の一世一代のプロポーズが始まるんです。
「ねえ、新一。前にもこのお店で、確か、同じ席で食事をしたことがあったわよね? 何か、意味があってのことなの?」
「ああ。前回とは、ちょっと目的が違うんだけどな。今日、オメーをこの店に誘ったのは、コイツを受け取って欲しかったからで……」
顔を赤らめながら、そう言って彼の手から差し出されたのは、綺麗にラッピングされた小さな箱。
「これって、もしかして、指輪?」
「そう。あのさ、指輪っていうのはその昔、奴隷に付けられていた足枷と同じ意味を示すものなんだ。つまり、ある人の所有物だということを示すものなんだけど……」
「えっ?」
「もちろん、蘭に俺の奴隷になってくれって言ってる訳じゃない。けれど、俺の、生涯の唯一の女性になって欲しいとは思ってる。……蘭! 俺と結婚して欲しいんだ!!」
彼は前回とはまるで別人のようです。ただ、少し変わったセリフではありましたが。
そうそう、遅くなりましたが、彼の名前は工藤新一。
帝丹大学で犯罪心理学を学ぶ1年生で、今や日本一有名と言っても過言でないほど優秀な探偵でもあります。
そして、彼女の名前は毛利蘭。
彼と同じ大学の文学部に通う1年生で、彼女もまた全国レベルの空手の腕前を持つ実力者です。
幼なじみだった二人が、恋人と呼べるようになったのが2年前。
さて、彼女の答えは?
「その言葉、とっても嬉しいけど、私たちまだ学生だし、それに……」
「大丈夫だよ。おじさんとおばさんのことなら、ちゃんと説得できる自信はあるから。それに、うちの方はおそらく反対はしないだろうしな。それよりも蘭、オメーの夢だったんじゃねーのか? 20歳までに結婚するのが」
「え? だってそんな!? 子供の頃に私の言ったことを今まで覚えていてくれたの?」
「まあな。それに、俺には蘭以外の女性との人生なんて考えられないから、それなら、少しでも早い方がいいと思ってさ。俺、蘭と一緒になれたら、世界一幸せな男になれる自信があるんだけど?」
「ありがとう、新一。本当に嬉しいよ、子供の頃の私の夢をずっと覚えていてくれたなんて……。叶うはずがないと思っていた夢だったしね。不束者ではありますが、よろしくお願いします」
どうやら、ゲンを担いだ甲斐があったようですね。
さて、結婚と言えば、超えなければならないハードルが沢山ありますが、この二人の場合はどうだったのでしょうか?
やはり、ラブラブなお話は苦手なようで、これが留意の限界です。
元々は、結婚話は書くつもりは全然無かったのですが、とっておきの結婚式が思い浮かんでしまったものですから、思い切って書いてみました。ただ、いざ書いてみると、とても長い話になってしまいまして……