ホタルイ君

記録:平成15年6月12日
掲載:平成15年6月24日
志波姫町の農家 菅原 

 先日、俺は「忍び寄る雑草の影」の項で、雑草のホタルイを悪者のイメージで紹介した。考えてみれば「忍び寄る」なん
て表現はあんまりよくない。なんだかホタルイが貧乏神みたいだ。これではホタルイに対して少々失礼である。そう思い今回は「ホタルイ君」と君づけで呼ぶことにした。やっばり世の中フレンドリーにいったほうがいい場合もある。人類皆兄弟、それを通り越して生き物皆兄弟、
6月15日水稲生育状況
そういう理想を追求することもたまにはいい。あくまで「たまには」だが。
 それで、私がこのように心を改めた動機であるが、これは数週間前、俺が河南町で冬期淡水水田をやっている遠藤氏の田植えを手伝ったことに端を発する。遠藤氏とは冬期湛水水田つながりなんだが、稲の生育状況を情報交換するため、先日遠藤氏の職場である田尻高校に行った。
 遠藤氏の本職は教師で、バレー部の顧問をしている。俺が高校に遠藤氏を訪問した時はちょうど高校総体の頃で、遠藤氏はバレー部合宿の監督をしている時だった。俺の訪問目的は稲の生育状況の情報交換
河南町遠藤氏水田田植え状況
だったんだが、なぜか気が付いたらバレー部員達を激励していた。彼らは明日、強豪の石巻西高との試合を控えているという。
 それで、これも人の縁、俺は次の日、彼らバレー部の試合を観戦しに行った。相手の石巻西高はさすが強豪だけあって、皆さん身長が高く、技も切れる。その一方、田尻高校バレー部は体格バラバラで、セッターなんかはバレーというより柔道部って感じだ。もちろん俺は田尻高校の応援をしているわけだが、精鋭、石巻西高に比べ、我が田尻高校はどうしてもデコボコチームとの感が拭えない。人の縁ではなく、金の縁だったら、間違いなく俺は石巻西高に賭けているところだ。
 しかしである・・・やるね、デコボコ軍団は。試合はストレートで負けたとはいえ、デコボコ軍団のデコボコ攻撃に、明らかに精鋭軍団は動揺していた。場の流れは間違いなくデコボコ軍団が握っていたと思う。試合に負けたとは言え、決してスマートではないが、デコボコチームがそれぞれの持ち味を生かし、精鋭チームに勝るとも劣らない試合をしたわけである。
 ・・・と、バレーボールの話しが続いたが、我が冬期湛水水田である。俺の冬期湛水水田に目を向けると、稲と雑草のピッピとホタルイがいる。俺は考えてみた、稲と雑草達も同じフィールドの一つのチームと考えられないかと。
 雑草の存在を否定するのは簡単だ、だが、やつらのい
6月15日水稲生育状況
い部分を引き出すことができれば、我が冬期湛水水田の未来は万全である。
 考えてみれば稲しかない田んぼというのは、同じ性格の人間だけが集まった世界みたいなもんだ。俺のような人間ばかりが集まった世の中ってのはゾッとする。いや、どっちかと言うと、俺は雑草のほうだから、優秀な人間ばっかりが集まった世の中と言うべきか。これだったら間違いなくゾッとする。
 やっぱり世の中っつうのは、優秀なやつがいて、優秀でないやつがいて、勉強家がいて、酔っぱらいがいて、スケベーもいて、それが世の中というものだ。そう考えて、俺はホタルイ君の存在を認めることとした。
 今回はなんだか、物分かりのいい、金八先生みたいな話が続いているが、俺がこんな気前のいい話をするのには、実は裏がある。   と言うのは、毎日俺の田んぼを見ていて気が付いたことなんだが、どうもホタルイ君の様子がおかしい。なんというか、今年のホタルイ君は元気がないのである。
 例年であればこの時期、ズウズウしくも、ドバッと広がるホタルイ君であるが、無農薬栽培継続中により除草剤を散布していない田んぼにあって、なぜか、その増殖に勢いがない。もしかして、ついにホタルイ君も環境ホルモンで生殖能力が衰えたか?とも思ったが、そんなはずがあるわけもなし・・・  と、思いついたのが、無肥料である。俺の田んぼでは、冬期湛水水田の効果により無農薬
6月15日水稲生育状況(慣行水田)
と併せて無肥料で水稲栽培している。通常の慣行農法であれば、今の時期、化成肥料という、稲の生育増強肥料を与えるのだが、今年はこの肥料をまいていない。
 そうか、無肥料の効果か・・・、そう思った。この化成肥料は稲の生育を促進させる効果があるのはもちろんだが、それ以上にホタルイ君の増殖効果も大きいはずである。化学肥料を使うと、それ以上に除草剤が必要な結果となる。こういう悪循環を冬期湛水水田は断ち切ったのではないかと、その時、気が付かされた。
 そういうことで、いままでうっとおしかったホタルイ君の存在が、今ではか弱き愛すべき存在に見えてきた。それで、ホタルイ君を克服できたと思った瞬間から、バレーボールの話にかこつけて「生き物皆兄弟」とか「ホタルイ君にも何かいいところがあるはすだ」とか、ホラを吹いているわけである。だからいまのところ、この「世界は善意で満ちている」みたいな太っ腹な気持がいつまで続くかは保証の限りではない。  

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