ハイスクールレクチャー

記録:平成15年10月 2日
掲載:平成15年10月15
志波姫町の農家 菅原 
 
 10月2日、俺と高奥君とで田尻高校の門をくぐった。この日、田尻高校では「田んぼから見る環境と人間」という題目の講演会が開催される。俺達はこの講演会を「聴講」するために田尻高校を訪れた・・・のではなかった。俺達はこの講演会の「講師」として招かれ、田尻高校を訪れたのである。
 思い起こせば今年の2月のことである。一人水路の除雪をし、
岩渕先生
自分の田んぼに水をかけた。たった一人で始めた冬期湛水水田だったが、白鳥達が俺の田んぼに飛んできてくれた。始めは白鳥に励まされながらの冬期湛水水田だった。
 3月になると白鳥は北の空に帰っていた。また一人になったかと思ったが、今度は白鳥の代わりに人間達が俺の田んぼにやってくるようになった。
 岩渕先生に出会ったのはそんな頃だ。俺は自分に優しい稲作経営向上のため、冬期湛水水田を始めた。岩渕先生は自然に優しい生き物のすみかとして、冬期湛水水田に興味を持った。それぞれ違う視点だが、冬期湛水水田にかける情熱は同じである。
 岩渕先生は田尻高校の教諭である。この岩渕先生に依頼されて、俺と高奥君とで、田尻高校に講演に行ったわけである。岩渕先生からは一言、「菅原さんの冬期湛水水田の試みを高校生達に聞かせてほしい。」そうお願いされた。
 
演台のスクリーンに浮かび上がる冬期湛水
水田の田植え状況写真
最初、何を話せばいいのか思案した。相手は高校生諸君である。まだ多感な時代の彼らに、あまり変なことも言えない。無理をしてでも、少しくらいは人生の模範となるべきことを言うべきか、そうは思ったが、決して聖人君主とは言えない俺である。「人間とはかくあるべし。」と言うのも少しばかり気が引ける。だいいちそんなことを言ったら、俺のことを良く知っている人の中には、吹き出す人も出てくるだろう、それも癪である。
 俺を知らない高校生諸君に講演するとは言え、やはり背伸びしてはいけない、そう思い自然体で講演会に臨むことにした。「何も足さない、何も引かない。」冬期湛水水田の哲学は講演会にも通ずる。ゆえに「何も準備せず。」で講演の準備は何もしないことにした。その場々を自然の摂理に従い、臨機応変に対応していくだけである。
俺達の講演スタイル、少し緊張した。

 当日は田尻高校の体育館に全校生徒、総勢三百余名の生徒が集合した。俺達二人はホタルイやイボクサなんかの田の草を観察し続けたが、今度は俺達が高校生諸君に観察される番である。なんだかホタルイやイボクサの気持ちが少しわかった気になる。
 講演は小一時間に及んだ。冬期湛水水田を始めたきっかけ、水路の除雪や白鳥が飛んできたこと、人間達が集まってきたこと、クズダイズの散布を挫折したこと、草のこと、クモのこと・・・。二人で今までの経過をトーキングした。
 高校生諸君の反応はどうだったか?講演に夢中であったので、なかなか反応は伺い知れなかったが、下記に高校生達が書いてくれた感想文の代表的部分を引用する。

「白鳥が自分の家の近くに来たら嬉しいと思った。」

「身近にある田んぼの話しを聞いてためになった。」
「試してみる気持ちが出たら、土、草まで食べる、その真剣さが伝わった。」
「自分が良いと思ったら、やってみること、体験してみることが大事だと思った。」 
「田んぼが変わると人も変わる。」・・・

 結構、皆さんポイントを押さえてくれている。俺達は冬期湛水水田
高校生諸君の今後のご活躍に期待する。
のおもしろさを講演してわけだが、冬期湛水水田に限らず、物事に取り組むことのおもしろさが伝わってくれたら何よりだと思う。
 今回の講演会は全校生徒3学年が参加したが、3年生はあと数ヶ月で高校を卒業することになる。彼らには卒業しても自信を持って田尻高校卒業です、と言えるようになってほしい。ちなみに俺もこのまま順調にいけば、あと数週間で30代を卒業する。特に順調でなくても卒業はするのだが、そのときはサバを読まずに、自信を持って30代を卒業しましたと言うようにしたい。
 

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