激闘、育苗記

記録:平成16年 5月15日
掲載:平成16年 5月24日
志波姫町の農家 菅原 
 
 4月1日、ついに我が冬期湛水二世の「種籾」を種蒔きする時がきた。
 昨年の冷夏にあって、我が冬期湛水水田米は雑草にうち勝ち、減肥料にもめげず、秋の倒伏も耐え抜いた。その歴戦の記憶をDNAに受け継ぐ種籾をさらに厳しい塩水で選別し、冷水で一層の錬成を施して、俺は心を鬼にしながら鍛えあげた。その「冬水魂」の種籾が、今まさに出陣せんとしている。

 「我ガ農業経営ノ興廃コノ一作ニ在リ、各籾一層奮起セヨ!」
      (平成16年4月1日、晴れ、エイプリルフール)


 俺はそう念じながら、種籾を苗床に送り出した。薄撒きであり、床土も無殺菌であったが、「冬水魂」を受け継いだ種籾にはこれで十分である。必ずや見事な発芽を終え、豊潤なる秋の稔りをもたらしてくれるであろう。事後に憂いはない、ただ「冬水魂」を信じるのみである。
 4月5日、そろそろ発芽する頃である。俺はハウス
4月11日、苗床状況
の中に置かれた苗箱の状況を見に行った。が、案に相違し、わずかにポツリ々と芽があるだけであった。一抹の不安が胸をよぎった。
 同月10日、ようやくあちこちから芽が出てきたが、発芽は不均一である。今後の生育が心配される。
 同月12日、一部の苗にカビが発生した。事態はいよいよ深刻であるが、今となってはただ苗を信じるしかない。
 同月16日、カビが勢いを増す。もはや事態は回復できない、無念であるが、決断の時が来たようだ。
 
4月11日の苗状況、この一週間後、反骨
精神旺盛な苗達は壮烈な玉砕を遂げる
同月18日、「苗玉砕セリ」、カラスが「カーカー」鳴いていた。
 というわけで無念にも、苗作りに失敗してしまった。発芽も不調であったが、直接の原因は苗にカビが発生したことである。
 ちなみに今年は4月の気温が高く、そのため苗を焼いてしまった(枯れた)農家も多い。苗作りはハウス育苗が主流であるが、年ごとの気温に大きく影響されることもある。
 もっとも、俺の周囲に関して言えば、カビが原因で苗作りに失敗したのは俺くらいのものである。カビがついた原因はいろいろあると思うが、苗床の覆土に原因があると考えている。覆土は山を切り崩して掘る表土より下の砂質系の土を用いた。このような土は雑菌が少なく、カビが発生し難い。市販されている覆土では、この山土をさらに滅菌し販売しているものもある。滅菌した土は、よりカビが
冬の日の陽光を浴びる覆土
発生し難いように思えるが、雑菌は自然界に普通にあるので、俺は覆土について、特に滅菌の必要性を感じていない
 実際、滅菌しないでも立派な育苗をしている農家はいくらでもいる。肝心なのは、覆土ではなく、もっと別の要因にある。だが、その要因については、現段階では結論を得ていない。ただ、今年の春は乾燥していたのでカビが出難い状況であった。にもかかわらず、なぜかカビで玉砕してしまう、その苗達の反骨精神に対し、俺は敬意を表したい。

(追伸)
 というわけで、「冬水魂」の苗作りは志半ばで挫折したわけであるが、このままジ・エンドでは私の生活がままならない。なので、「なまずの学校」に頼んで、温湯消毒の種籾をもらってきた。現在のところ「なまずの学校」苗はなんとか順調に育っている。
「なまずの学校」産の籾で育てた苗
(5月15日撮影)「冬水魂」ならぬ
「なまず魂」を受け継いでるのだろうか?
 今年は昨年の冷害を教訓にして晩期栽培を目指している農家も多いようだ。しかし春の気温が高すぎたため、苗が成長しすぎ、結果として晩期栽培を断念せざる得ない農家も多い。
 俺の場合は、前記ハプニングで種蒔きが遅くなり、結果として晩期栽培には好都合になっていると言えなくもない。
 もしかしたら、「冬水魂」種苗達は、「玉砕」により、種蒔きのタイミングを俺に教えてくれたのではないかと思っている。


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