晩期栽培

記録:平成16年 5月30日
掲載:平成16年 7月 5日
志波姫町の農家 菅原 
 
 平成15年、10年振りの冷害が東北地方を襲った。稲の出穂時期の8月初旬、この大事な時期にオテント様が顔を見せてくれない。気温が上がらず、稲に実が入らなくなる。これが冷害の基本的パターンである。
 東北地方で梅雨が明けるのは7月中旬〜下旬、ちょっとオテント様の機嫌が優れなければ8月まで梅雨が続き、8月初旬の出穂は微妙な時期となる。
 ゆえに冷害を回避するためには、8月中旬以降、できれば8月下旬以降に出穂するように田植え時期を設定した方がよい。これを目的に通常5月初旬に田植えしているとろこを、5月中旬〜下旬に田
平成16年4月11日
冬期湛水水田状況
植えする。このように田植えを遅らせることを晩期栽培という。
 晩期栽培は稲にとって都合が良い、これは多くの農家誰が感じていることであるが、これが出来ない大きな理由が一つある。それはゴールデンウィークの存在である。
 ゴールデンウィークは5月初旬に設定されているが、この時期が兼業農家にとっての田植え最適時期となる。なぜなら、まとまって休みが取れるし、田植えを手伝う家族も休みになるので人足が確保しやすいからだ。ちなみに、我が近隣の農家のみなさんも大部分が勤め人の兼業ゆえに、ゴールデンウィークが終わると、私の田んぼの周囲のほとんどは田植えを終えてしまう。
 こんな感じで、晩期栽培というのはあまり行われなくなってきた。もっとも俺の場合は、田植え季節に勤めに出ることはないし、人手いらずの無頼農法を確立しているので、田植えは基本的にゴールデンウィークに左右されない。が、それほど単純でないのが人の世である。
 
平成16年5月2日
冬期湛水水田状況
先にも記したが、ゴールデンウィークが終わると、私の近所の田んぼも、ほとんどで田植えが終わる。これが、私にプレッシャーを与えることになる。
 田植えが終わった広々とした水田地帯、そこにポツリと俺の田んぼだけ、田植をせずに取り残される。「俺は俺の道を行く、ゴーイングマイウエイ!」などと口笛を吹いていられるのも数日だけである。
 ゴールデンウィークを過ぎ、3日もすると近所の目が気になり始める、まだあそこの田んぼは田植えをしていないのかと。その視線を感じながら「気にするな」そう、自分に言い聞かせるが、やはり自分自身何か取り残されている気分に陥る。
 1週間を過ぎると、今度は家族の視線が気になり始める。夕飯時に親父がポツリと言う「田植えの準備は出来てるか?」、そう言う親父の視線はいつになく厳しい。家庭内には重苦しい空気が流れ、だんだんと悲壮な気分になる。「百万人行けども我行かん!」そうつぶやくが、すでに志しは挫折しかけている。ここまでで、やっと5月中旬。このあたりが毎年の限界で、昨年の田植えも5月中旬で妥協することになった。私のようにゴールデンウィークに左右されない農家に
平成16年5月22日
冬期湛水水田状況
とっても晩期栽培は過酷な試練を与えることになる。
 しかし、今年は状況が違っていた。昨年は冷害であり、盛んに晩期栽培の効果が宣伝された。そのため、今年は晩期栽培に取り組む農家も多かったようである。しかし、春の気温が高かったため、苗が育ち過ぎ、結果として晩期栽培を断念せざる得なかった農家も多い。人間の都合に合わせてくれないのがオテント様というものなのだろう。それでも今年はゴールデンウィークが過ぎても田植えをしない田んぼも多く、晩期栽培を目指す俺としては、やりやすい年ではあった。結局、田植えは5月25〜26日に行い、昨年よりも10日ほど遅く田植えをすることができた。ちなみに、色麻町の浦山さんは、6月2日に田植えしたとのことであり、俺もまだまだ修行が足りない、そう実感させられる。
 

 

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