覆面座談会

記録:平成18年11月26日
掲載:平成18年12月11日

栗原市志波姫の農家 菅原

 稲刈りも一段落し、来年の稲作方針についていろいろ考えている頃、高奥君から電話があった。

「農薬使わずの稲作農家の座談会をやってみたいんですが。」

 開口一番、高奥君はそんな提案をしてきた。
 「座談会ね〜、特に座談会しなくても、いろいろ農家連中とは情報交換してはいるんだが。」そうは思ったが、とりあえず「座談会してどうするの?」と返答してみた。そしたら「HPのネタにする。」と返ってきた。
 俺達農家のディスカッションをHPのネタにするのは良い。良いが、それぞれに企業秘密というものがある。そういった話題を情報交感できれば有意義だしおもしろいが、微妙な話題となる。それをHPに公開するとなれば、皆さん一歩引く。その結果として、有意義なディスカッションの期待は難しくなるはずだ。
 そう考え、それを高奥君に告げると、「覆面座談会にしてはどうでしょう。」、そんな提案をしてきた。
 覆面などと聞いて、俺はデストロイヤーの仮面でも被らせられるのかと思ったが、よくよく聞いてみると、そういうわけではなく、要は、発言者を匿名にしてHPに掲載するのだと言う。そうすれば、自由で闊達な意見も出てくるのではと言ってくるのであった。俺はデストロイヤーの仮面が被れずちょっとがっかりしたが、まあ発想としては悪くない。

 「いいんでね〜、んでいつやんの?」、
 「11月26日、日曜日ならどうですか?」
 「いいんでね、あとは参加候補者の都合だな。俺は○○さんに電話しとくから、高奥君は、△△さんに電話しといて。」

 「了解です。」

 話しはトントン拍子に決まった。何をするのに熟考したからといって良い結果が生まれるとは限らない、何事もその場で盛り上がったら旬なのである。


 11月26日夕方、色麻町のレストランライ
レストラン・ライスフィールド
スフィールドに「あわよくば無農薬栽培」を目論む4人の農家が集ることになった。これに評論家とオブザーバーが加わり、合計7人により覆面座談会が開会されるのである。
 16時を半ばを過ぎ、最後の参加者予定者が席についた。一瞬シーンとした静寂が男達の間を流れ、それに気まずさを感じた誰かが隣に座る男に目配せした。
「何から話すかな?」、目配せされた男は困惑したようにつぶやいたが、しかし沈黙はなおも続く。そしてついにあきらめたように男の一人が口を開き始めた。
 「雑草さね、雑草。」
 全員の視線は、その男に向けられた。まるで田んぼの隙間から雑草が発芽してくるように、いつのまにやら覆面座談会が開始されたのであった。

第一章 雑草について

(農家X)
 なにをさて置いてですね〜
 農薬を使わずの稲作は雑草対策が大きな課題でしょう。農薬無くした初年度はたいしたことはなかったけどね、雑草諸君は。
 二年目もそんなでなかった、しかし三年目が酷かった。反当たり(1000m2当たり)収量で2俵半(150kg)、通常の3〜4分の1程度の収量だ。そんな田んぼがあった。これだけ収量が減ったのは、ひとえに雑草諸君の活躍によるところが大きい。
 ほんで、今年は除草機をかけた。それまでは除草しなかったが今年は方針を改めた。そしたら2俵半の田んぼでも5俵の収穫があった。今年は宮城県も不作年だったようで、俺の周囲でもだいたいの農家は減収している。しかし俺のところは増収した。これは除草機の力による。
 
除草機研究会
つまり除草機の効果はかなり大きいわけだが、除草時期が課題となる。時期が遅れた田んぼは雑草の絨毯を掃除しているようで、除草機が走っても効果が無い。ゆえに、除草機は田植えしたらできるだけ早いうちに使うに限る。ただし、そうは思っても作付け面積が大きければ、除草作業が追いつかず、タイミングを合わせるのが難しいけどね。
 それで、もう一つ気が付いたことがある。除草機をかける場合、トロトロ層のあるなしで除草効果に差が出てくる。雑草の根が張る土がトロトロだと機械で簡単に除草できる理屈になるわけだ。逆に言えばトロトロ層ができてない田んぼは、除草機の効果も限られると言える。

(農家 Y)
 私も今年は雑草に悩まされた。田植え後、深水にするとヒエの抑草に効果がある。ところが深水の効果が稲にも及んでしまって、稲が弱り分けつが進まなかった。それを考えると田植え後しばらくは水温を上げ、苗を活着させて根っこをはらせてから深水にしたほうがよいようですね。

(農家X)
 深水でも稲が負けないようにするには、苗をできるだけ大きく育てるのが良い。そして田植え後の稲の成長を早め、田面に日陰ができるようにすれば草が生えにくくなる。

(評論家 A)
 確かにね、苗の間隔を広げる疎植についてですが、これは疎植ゆえに田面に日光が届く面積が増えるので、雑草の繁殖を助けているような印象も受ける。

(兼業農家 Z)
 だけど間隔を密にする密植もイモチ病がつくから難しい。逆に言えば、疎植は病気に強い。

(評論家 A)
 それに疎植は倒伏し難いというメリットあもるから、疎植、密植、それぞれ一長一短ある。そういえばZさんの田んぼは不思議と雑草が少ないですよね。

(兼業農家 Z)
 なぜ、草が生えてこないか? 私の考えるところ、もともと沼地だった場所を干拓で田んぼにしたので、酸性土壌が強く草が出にくいようです。

(農家 Y)
 確かに雑草にも適した生育環境がある。

(農家 X) 
 なんにしても除草機を使ったら収量が上がった。今年はいろんなメーカーで除草をしてみた。

(兼業農家 W)
 隣町に有機米研究会があって除草機を2台を揃えている。来年は3台になる予定で、これのリース料はそれほど高くない。そんな感じで、だんだん除草機も身近になってきましたね。

(農家 Y)

 デジカモという機械も出てきた。センサーでアイガモロボットが田んぼの土をかきまぜ、雑草を浮かせる。

(兼業農家 W)
 ちなみに除草機を使う時期は、田植えからの日数を基準とするのではなく、代掻きからの日数を基準として、それをできるだけ縮めると効果があるみたいです。

(農家 X) 
 代掻きしたらすぐ田植えをして、一週間から10日で除草機を押す。そうすると抑草できる。最初が肝心。


(農家 Y) 
 私のところは雑草のオモダカが増えたので、対策として大豆の転作も考えている。オモダカはジメジメしたところに好んで繁殖するけど、乾いた場所は苦手みたいなので一度田んぼを乾かし、そして大豆転作すればオモダカを退治できると考えた。
雑草のコナギが覆った田んぼ


(農家 X)
 農薬を使用しない栽培は、消費者にとって「安心安全」なんだが、生産者の農家にとってみれば「キツイ危険」な作業なわけで、つまり安全安心でない。
 俺は昨年、2俵半/10aしか収穫できない田んぼを90a作った。減収の理由は無肥料でなく、草の「性能」を高め過ぎたためだ。農薬を使わないと根っこから広がる草も多くなってくる。これには除草機もお手上げです。

第二章 窒素と収量について

(兼業農家 Z)
 あれっすよね、窒素過剰もイモチ病の原因になりますよね。化学肥料を用いた場合は、年毎の気候に関係なく肥料が稲に吸収されるから、稲の新陳代謝が鈍くなる冷害年でも、稲は化学肥料からどんどん窒素を吸収する。その結果、肥満体みたになりイモチ病にも罹りやすくなる。
 一方、有機肥料の場合は、気候が冷涼であれば、有機物の分解も進まなくなるので、窒素の供給量も気候に合わせて限られてくる。そのため適度な窒素しか供給されず肥満体にはならない。そして病気にも強くなる。
 そんな理屈もありそうですよね。

(評論家 A)
 なるほど、有機栽培は自然の摂理に合致していると納得できますね。

(農家X)
 そうは言っても、いろいろある。稲を急速に成長させるか、やんわりさせるか、稲作りによってもそれぞれ考え方はあると思うね。

(兼業農家 Z)
 今年の夏に、秋田の田んぼに行く機会があったのですが、そこに大きいイネゾウムシがいた。そのイネゾウムシが今年はたくさん発生したそうです。それが原因してか稲の分けつが進まなかっ
覆面座談会の状況
たと、そこの農家の方がおっしゃってました。
 それで、なんで大きいイネゾウムシが増えたかと言うと、有機肥料のくず米、米ぬかを投入し続けたことが関係しているとおっしゃってましたね。

(評論家 A)
 私もどっかで聞いたことがあるんですが、有機栽培では土壌中の有機物が十分に分解されないため、それを次の年に繰り越しししている可能性がある。それが蓄積されると、イネゾウムシの出番になるのかもしれないですね。なんとなくそんな印象も受けます。

(農家 Y)
 そうそう、私の田んぼも有機肥料を使ってて、土壌分析してもらったら窒素分が多かった。それも極端に値が高い。米ぬか、くず大豆を6年も投入し続けただけのことはある。それでも収量が伸びないのは田んぼの土が稲に効率良く栄養吸収できる状態になっていないからなのでしょう。

(評論家 A) 
 米ぬかやくず大豆なんかの有機肥料は肥料効果もあるのですが、雑草を抑草する効果もあり、そっちの効果を期待して使われることが多いようです。トロトロ層さえ形成されれば有機肥料を使わないでも効果的に除草できる田んぼになる。

(農家 Y)
 ところで収量が上がる稲の根は何色ですかね。

(評論家 A)
 「赤」ですか?

(農家 Y)
 そこんところがね、評価が分かれる。「赤」か「白」かどっちか?

(農家 X)
 ちなみに、収量とは別だが耕さないと「白」くなりやすいね。

(農家 Y)
 硫化水素が多いと赤くなる。鉄分が稲の根っこに吸着するからです。ところが私を悩ました田んぼの雑草、例えばヒエにしてもセリにしても雑草の根っこは白い。それから考えると、どうも白い根の植物のほうが、田んぼの中では元気が良いように見える。

(評論家 A)
 なんだか、白のほうが良いような気がしてきました。

(農家 Y)
 来年は早期湛水で、早めに藁を分解させ、健康な苗作りをしたいと考えているが、酸性値で言うとPh6.5程度が良い土作りの目標となる。
 そのため田んぼにマグネシウムを入れ、蛎殻を焼いた物を田んぼに入れ、そして良い状態の土に改善していきたい。

(農家 X)
 なんで、蛎殻を焼くの?

(評論家 A)
 たぶん、焼くとアルカリが強くなるのでは?

(農家 Y)
 いろいろあると思うけど、ちなみに蛎殻は低温で焼くとダイオキシンが発生するので高温で焼くそうだ。投入量はだいたい160kg/10aの予定。

(農家 X)
 なるほどね、蛎殻は良しとして、窒素はどれくらい入れる?

(農家 Y)
 現状の土の窒素分を勘案しながら目標反収を計算し、1俵に必要な窒素量1.2kgを補えるだけの施肥ができればベスト。ボカシにはバイオノ有機を使う。

(農家 X)
 俺は、窒素についても一言ある。稲は人間が田んぼに投入する窒素の全てを利用しているわけでもないようだが、田んぼには人間が投入しない自然由来の窒素なんかも結構入ってくる。
 ほんで俺は、人間でない自然由来の窒素がどっから入ってくるのか解明したい気持ちがある。これが解明できれば、背中に数十キロの肥料を背負って、腰に負担をかけながらする施肥作業も行わずにすむから、農作業が「安全安心」になる。

(評論家 A)
 せっかく人間が肥料を播いても、分解した窒素の少なからずは空気中に逃げているようだし、雨が降れば水に流れしまうのも多いと思います。
 自然由来の窒素としてしは、灌漑水に溶け込んでいる窒素が無視できない。また雨にも窒素は含まれるし、空気中にある細菌類などが土壌に還元させる窒素もある。ただし、それぞれの明細については、よくわからないようです。

(農家 X)
 俺は田んぼは肥料を撒かない無肥料栽培を4年間継続し、そのため収量も減ってきたが、それでもそんな収量に変化の無い田んぼもある。田んぼ毎にそれぞれ状況が異なっている。

(農家 Y)
 そう言えばアメリカでは田んぼに何も入れないと聞いたことがあるな。

(評論家 A)
 東南アジアなんかの氾濫源では、川が運んできた土砂がそのまま肥料になって恵みをもたらすそうです。
 
(農家 X)
 肥料分も下流に流れていくから、海に近いほうの田んぼは川の水の窒素分が高く、収量も上がりやすい条件になっているのかもしれない。Zさんの田んぼの水はどっから流れてきてんでしたっけ?

(兼業農家 Z)
 E川から汲み上げた水を使用してます。

(農家 X)

 あれだな、今日の会に参加しなかった「農家S」は有機肥料を撒くのに余念がない。しかし、その割に増収しないようで、せっかく播いた肥料が、E川を伝ってZさんのところに流れているのかもしれないな。ほんでZさんの田んぼは収量が多いのかもね。

(兼業農家 Z)

 それでも今年の収量は平均で6.8俵。去年は7.5俵で毎年減収している。やっぱり無肥料のままでは減収するのでしょうね。
(評論家 A)
 
なんだか減収自慢になってきた。

(兼業農家 W)

 Yさんのこところは?

(農家 Y)

 4俵半取れましたね、去年は6表くらいでしたけど。今年は雑草が繁茂して減収した。無農薬は一長一短ある。

(評論農家 A)
 今年は気温が低く、またYさんのところは沢水だから余計に分けつが遅れ、ついでにクズダイズも効果を発揮しすぎて分けつが遅れたようですね。

(農家 Y)
 それでも沢水にも良い面があって、周囲の環境から冬期湛水水田を取り組みやすい条件にある。これがメリット。私の経験では一度、田んぼを乾かしてから水を張ると草が出にくくなるので、これを効果的に行えるようにしたい。

(兼業農家 Z)

  沢田はジトジトしませんか?

(農家 Y)

 そんなでもない。ただし降雨で泥水が流出し、水路が埋まるのがデメリットかな。

第三章 育苗について

(農家 Y)
 ところでね、Xさん、来年の育苗なんですげね、プール育苗なんですけど、水を循環させる方法でやってみようと思っている。

(評論家 A)

 水が土に浸透する減水深があったほうが、余分な養分を排除しまかすらね。水が動かないと、養分が腐って苗にも良くない。

(農家 X)

 通常のプール育苗はビニールを敷くからね、水が溜まったままだから循環しない。プール育苗は化学肥料で育てるのがベターで、有機肥料を入れると水が肥えて、注意しないと苗が病気になってしまう。
 
(兼業農家 Z)
 直接田んぼの上で育てる苗代だと病気にも強いし、稲の姿も良いですね。私は苗代の床をミミズに作ってもらい、それを苗の養分にする。これを今年やってみたのですが、有孔ポリを使用した箱の芽揃いがよかったですね。

(農家 X)
 俺も育苗はスランプが続いていたが、2年前からビニールの上ではなく、田んぼの土の上で育てる苗代にした。苗代をやってみると育苗の後半から苗の姿が良くなってくる。
 また苗代は密閉するのは良くない。ガスが出てだめになる。

(兼業農家 Z)

 確かに穴が開いているほうが良いようです。

(兼業農家 W)
 私のところは苗床にカラフルなカビが生えたけれど苗は大丈夫だった。

(農家 X)
 ああ、あれね、見ました。桜の花が散っているようだった。あれは驚愕しましたね。それでも苗も稲も問題なく育っている、驚いた。俺も農薬を使わずとか、肥料を使わずとか、かなり思い切った稲作をしてきたが、それでも既成概念にとらわれているのか、あれにはびっくりさせられた。
 やっぱりよその農家の苗作りを見て歩くと学ぶことが多い。そして何かにこだわってるとうまくいかないときもある。

(農家 Y)
 とにかく、今年の苗は雑草に勝てなかった
田んぼに降り立った鷺
から、元気な苗を植えることが大事だと改めて気が付かされた。

(兼業農家 Z)
 育苗して移植する田植えが一般的ですが、私は直接、田んぼに種を播いて、そのまま稲を育てる直播きを忘れることができません。一度試したことがあったのですが、あの稲の姿が良かった。すごく逞しくて、もう一度やってみたいと思っています。

(評論家 A)
 そういえばXさんも直播きやったことありますよね。

(農家 X)
 やったけど全然ダメ、俺の田んぼのトロトロ層は雑草の発芽を抑制する効果はそんなでもないが、直播きの種籾には良く効いて一つも発芽してこなかった。雑草はどんどん発芽してくるんだけどね。

第四章 販売

(農家 X)
 そういうわけで、農薬を使わない稲作もいろいろ試行錯誤してきたが、米販売もいろいろあった。

(評論家 A)
 いろいろやって、失敗も多かったけど、今ではいい思いですね。バレンタインデーライスとか。

(農家 X)
  あれは全部で6kg売れた。たった6kgと言えばそれまでだが、誰もやろうとはしなかった俺達なりの発想で挑戦したわけで、そして6kgの評価を得ることができた。俺にとっては大切な6kgだ。

(評論家 A)
それでホームページの「○力本願」始めて。

(農家 X)
 数週間、問い合わせ0件の日が続いて、ようやく1kgの注文が来た。あんときは妙に嬉しくてA君と一緒に喜んだね、ほんと1kg入魂、たった1俵の1/60の量ですが、1kgのお客様に感謝したもんです。

(評論家 A)
 たぶんお客さんは、私たちが取り組んだイトミミズ調査とか雑草調査とか、カエル調査なんかをHPで見て、そして信頼してくれたんだと思います。私も嬉しかったですね、風邪ひきながら氷り割って、冬の田んぼのイトミミズ調査した甲斐がありました。

(農家 X)
 大部分の農家は農協に米を卸しているので直に消費者と向き合う機会も限られるが、直に消費者に米を販売するためには自己責任が伴う。いかにして消費者の需要に応えることができるか、ここが難しい。もしかしたら農薬を使わない稲作よりも、こっちのほうが難しかったりする。

(評論家 A)
 好みは人それぞれなので。

(農家 X)

 それで平成17年産はホームページ「○力本願」を米販売の主軸に置いた。おかげさまで消費者の皆様から支持をいただき売れ行きも良かったが、米を完売できるかどうか、正直ドキマギもした。今年もまずは平成18年産の完売を目標にしている。

(評論家 A)
 平成17年産では翌年の10月までかかって完売できたものを、平成18年産は9月までに完売できるよう。

(農家 X)
 そうなれば順当だが、在庫が無いと、注文が来ても米を発送できない。これは消費者の需要にも応えていないということで、このあたりに難しさがある。なんと言っても、商品はあったもん勝ちで、米が発送できなければ、消費者はそれを食べることができなくなる。そして食べることができなければ、俺の米を評価しよもなく、後につながらなくなってしまう。
 ちなみに、今年の10月は結構な注文があったが、11月になって売り上げが下ってきた。
 
(農家 Y)
 11月頃は、田舎の親戚から米が送られる「縁故米」の季節だからね。

(農家 X)
 平成17年産の販売では、11〜12月に注文が落ち込んだが、正月明けに突然注文が相次ぎ、4月にも注文が増えた。ホームページ販売に取り組んで、こういった消費者の需要時期を知ることができたのは大きい。Zさんのことろはどんな感じ?

(兼業農家 Z)

 私のところのホームページは地元からの注文が多いです。

(農家 X)
 俺のところは、関東、関西方面のお客さんが多いけどね、Zさんと俺のところの稲作方法は似通っているが、それでもそれぞれに個性が異なっている。それを消費者の人達が見ていてくれているのだと思う。それが顧客層の違いになっているのかと。

第五章 人と人

(評論家 A)
 ホームページ販売も軌道に乗ってきましたが、それほど注文の来ない農家もある。せっかく環境に良い米を作っても、それが売れなければ環境への取り組みが持続しない。
 もっと生産者の考えや気持ちを消費者に伝えることができ、そして注文を通じながら、今度は消費者の考えや気持ちが生産者に還ってくるような、そんな関係を築いていけたらと思う。

(兼業農家 W)

 今年からホームページ販売を始めることに決めたので、米の手続きも自分なりできるようになった。何というか自由がある。これが売れればもっと自由になるし、もっと消費者のニーズに応えていけそうな気がする。ホームページからは3件の注文があった。全て天日干しの米で、手間のかかる天日干しが評価されたようで嬉しい。そしてもっと天日干しの米を増やしたい気になった。

(兼業農家 Z)
 私のところにも1kg小分け×30個の注文が来ました。それで気が付いたのですが1kgの袋って高いんですね、58円もする。

(農家 X)
 俺は2kgの袋に1kg入れているけど。

(兼業農家 Z)

 先日、仙台の消費者の方から精米作業を見せてくれとお願いされ、家に招待しました。そして精米作業を終えたら「精米の余りはどうするのですか?」と聞かれたので、「飯米にしている。」と答えたら、消費者の方が驚いて端数も買いますと言ってくれた。
 また、犬の敷き藁にも農薬を使わない藁を使いたいと言われ、藁も提供しました。消費者の人達と交流していると、新しい価値観にも気が付かされます。

(農家 Y)

 正直、そこがおもしろいね!そういえばWさんは朝市夕市でも米を売ってますか?

(兼業農家 W)
 なかなか行く時間がない。一度、朝市で米を販売していたら、健康食品の景品として米がほしいと言われたことがある。やっぱり直接消費者と触れると、いろいろヒントを得ることができます。

(農家 Y)
 直売所での販売は、表示問題で役所から指導が入ることがある。個人対個人なら問題にならないけど。

(評論家 A)

 表示法は消費者保護を目的とし、作物の生産過程に誤解を与える表示になってないかが重要となる。しかし生産過程を保証するトレ−サービィリティー制度は書類審査で行われているが実態でしょうし、いろいろ専門用語の羅列されているので、どこまで消費者の信頼を獲得できているのか良くわからない。
 たぶん、トレ−サービィリティー制度をクリアーしただけでは、十分に消費者の信頼は得られないと思う。

(農家 Y)
 私は米を送るときに、季節の田んぼの写真を一緒に送ることにしました。米の生産過程を専門的な言葉でお客様に伝えるのはなかなか難しいけど、そういった田んぼの風景で自分なりのトレ−サービィリティーを伝えていけたらと思う。米袋にも一筆入れてみたりしています。

(農家 X)
 俺はカレンダーの裏にメッセージを書いて米に貼る。ただ一言、「○力本願」。昔は米袋もいろいろデザインしたことがあったが、大切なのは中身だからね。

(評論家 A)
 みなさん、いろいろやってますね。田んぼの生き物も多様なほうが良いし、稲作の方法だっていろいろあるはず、だったら販売方法も多様なほうが良いですよね。

(農家 Y)

 気が付かないだけで、田んぼや稲作には誰かに伝えるだけの価値のあるネタがいろいろ転がっているのかもしれない。それを農家以外の人達が教えてくれる。

(農家 X)

 そうね、いろんなお客さんがいてくれたほうがヒントも多い。そして励みにもなる。稲作のモチベーションはお客さんからもらうことにしている。

(評論家 A)
 他力本願ですね。

(農家 X)

 そうね、他力本願。
 ちなみに稲作のほうは「田力本願」


 
座談会の後
携帯の時計を見たら、もう21時になろうとしていた。俺はその携帯を閉じ「マスター、そろそろお開きだ、おあいそお願いね。」そう告げると、同席していた浦山さんが「はいよ」と答え、レジカウンターに向かっていった。
 「おもしろかったですね〜」と遠藤さんも満足げに席を立ち、高橋さんは「また、集まってみっぺね!」とレジカウンターに向かいながら、振り返った。
 「メモ取りご苦労さん」と高奥君は新弟子の福澤君をねぎらい、「今度、プライベートでも店を使わせもらいますよ。」と笑顔の掘さんが店を後にした。
 そして、それぞれが、それぞれの持ち場に還っていくのであった。


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