覆面試食会 |
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記録:平成19年05月27日 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
掲載:平成19年07月13日 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
栗原市志波姫の農家 菅原 |
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おかげさまで「稲と雑草と白鳥と人間と」から始まった田力本願の米のインターネット販売は好調に推移し、我が農家経営も安定してきております。まずは、本HPをご覧になっている方々に感謝申し上げる次第である。 一時は、田んぼの廃業まで考えた俺ではあるが、人生、どこに逆転劇が待っているかわからないものだ。 今年も田んぼの雑草はその勢いを益々逞しくしているが、気持ちに余裕も出てきて、今では、フツフツと発芽してくる雑草を目にしても、 「雑草諸君よ、健やかに育ってくれ。」 などと、微笑みを返すくらいの寛大さもある。と言いながらも、田植え前には代掻きロータリで一斉除草する予定だったりもするわけで、ゆえに雑草諸君も今のうちに、田んぼ本来の力を引き出す「田力本願」の田んぼを楽しんでいただきたいと思うのであった。 さて、米のインターネット販売であるが、顧客の皆様から注文メールを受信する度に、いろいろなコメントをいただくことがある。 「美味しい」、「体調が良くなってきた。」、「素敵な稲作ですね。」 これはメールに記されたデジタル信号が伝える「人の気持ち」である。こういったメールをいただくと、時として「愛しきあの娘」からメールをもらっているような錯覚にも陥り、嬉し恥ずかしのワビサビさえ感じてしまうものだ。 そして、その錯覚は「デジタル」から「アナログ」世界への郷愁を呼び起こし、だんだんと
顧客の皆様は俺の米をどう食べ、そしてどう感じているのか?メールを受信する度に、その思いが強くなっていったのである。 この「まだ見ぬ恋人」への気持ちは日増しに強くなり、ついに俺は居ても立ってもいられなくなった。そして高奥君に電話することにしたのである。 「つまりだな、デジタル信号も大変結構であるが、実際に顧客の人達と会ってみることもね、これからの日本の農業にとって必要だと思うわけだ。」 若干の照れ隠しをするため、大上段に構えながら、そう伝えると、 「覆面試食会みたな感じですかね。」 電話の向こうで、眠そうな声の高奥君が答えた。彼は半分寝ていたのか、もたつかない声で、その「覆面試食会」なる解説を始めるのである。
それだけ言って、高奥君は電話を切った。彼はメールは長いが、電話は短いのが特徴である。 そうかと思い、早速この「覆面試食会」を遠藤先生、浦山さんに提案したところ、皆さん快諾してくれたのであった。どうやら遠藤先生も浦山さんも「まだ見ぬ恋人」への思いを強くしていたようである。 5月27日、若干の小雨模様の空の下、色麻町のライスフィールドに3人の顧客が集まった。これに俺と高奥君、遠藤先生と浦山夫妻、福澤君と「農薬を使わずの野菜」に取り組むレディーファーマーの吉田さんが加わり、10人の参加者で「お米の試食会」を開催することになったのである。 ちなみにタイトルは「覆面試食会」。もっとも今回、覆面になるのは「人」ではない、「米」である。 ・栗原市 菅原作 「田力本願の米」 ・石巻市 遠藤作 「人と自然の仲立ち米」 ・色麻町 浦山作 「おてんと米」 いずれも、農薬を使わず、肥料を使わずのササニシキである。 これに、 ・加美町 渋谷作「覆面の米」 が加わり、4種類の米で「覆面」型式により、お米の試食会を行う。方法はこれらの米をそれぞれ皿に盛りつけ、それに「A」、「B」、「C」、「D」とだけ書いた札を付す。これを
なお、米の炊き出しは公平を期すため、炊飯器など同じ条件で炊き出しを行った。 さらに、純粋に米の味を吟味いただくために、副食は漬け物等シンプルなものに限ったが、これも美味であり、ご飯が進むのである。 「どういった成分が米を美味しくするのですかね。アミロースとか○○ペクチンとか、○×糖とか、どの成分がどの程度含有しているのが理想なんでしょう?ねぇ菅原さん!どうなんですか?」 これは、吉田さんからのご質問である。彼女は設計会社の出であるが、味覚に対しても持ち前の「設計思想」が復活するらしく、聞いたこともない横文字を駆使しながら質問してくる。
そうは思ったが、 「自分が食べて美味しいのが、美味しい米である。」 と、とりあえずかわすと、 「そうですね、一般的には、△×□が甘みを増加させ・・・」 とゲストの一人が補足説明をしてくれた。 どうやら、米の味については、生産者の俺よりも消費者の皆様のほうが詳しいようである。 さて、覆面試食会による「きき米」の結果である。 まずは、俺から <菅原予想> A皿−浦山作「おてんと米」 B皿−菅原作「田力本願の米」 C皿−渋谷作「覆面の米」 D皿−遠藤作「人と自然の仲立ち米」 上記予想は、まずA皿のご飯を食べ、これは地力の豊かな田んぼで育った遠藤作の米であろうと考えてみた。そして唯一ササニシキでない「覆面の米」をC皿と確信し、残り二つの皿は、直感を頼りに予想してみたのである。 次に、レディーファーマーの吉田さんの感想である。 <吉田さんの予想> A皿−味が薄い感じ B皿−爽やか系の味 C皿−スウィート。個人的にスキ! D皿−甘みは少ないが、しっかりした味がある。 吉田さんは、なぜか予想無しの感想となったが、これはC皿が「菅原作」だった場合の予防線を張ったためであろうか? 次にゲストの「ユウコ」さんの予想、 <ユウコの予想> A皿−C皿と似ている。 B皿−独特の香りがある。誰かな〜?始めての食感! C皿−甘みがある。 D皿−噛みごたえありますね〜 ユウコさんは、俺の「田力本願」の長年のリピーターである。それだけに菅原作の米に確信を持っているだろうと思い、 「ユウコさん、俺の米がどれだかわかりますかね〜?」 と訊ねてみたが、 「わかりません!」 と素敵な笑顔で返してきた。 それにしても、ユウコさんも予想抜きの感想である。なぜかと思って聞いてみたら、 「だって、菅原さん以外の米は食べたことがないし、稲作方法もわかりませんもん。予想のしようがありません!」 とのことで、もっともな話であると気が付いた。そもそもゲストの皆様に生産者の予想をしていただくのは無理があったようである。 というわけで、次はゲストの皆様の感想 <ゲスト シラハタさん(遠藤先生の顧客)> A〜C皿−たぶんササニシキ D皿−山形のハエヌキのような味、噛みごたえある。 シラハタさんも、ユウコさんと同じくD皿の「噛みごたえ」を感じているのが注目される。 <ゲスト ドイさん(シラハタさんの友人)> B皿−やさしい味ですね。 C、D皿−一粒々の味が、しっかり口の残る さて、それでは正解である。 A皿−菅原作「田力本願の米」 B皿−浦山作「おてんと米」 C皿−遠藤作「人と自然の仲立ち米」 D皿−渋谷作「覆面の米」 なお、渋谷作「覆面の米」の品種については、わざと伏せていたが、これは「ササシグレ」という、ササニシキの母体となった品種を用意した。 それでは以下にレギュラー参加者の予想と結果を公開してみる。 |
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★レギュラー参加者「覆面試食会」きき米結果表 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■ 外れ ■ 正解 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
上記結果を考察するに、さすがササニシキではない渋谷作の「サシグレ」はだいたいの参加者が予想を当てている。
これは、ゲスト参加者の感想からもわかるとおり、ササニシキとは明らかに異なる食感があるためであろう。 ちなみに、俺は予想を全て外したが、これは予想を裏切る稲作を続けてきた俺にして始めてできる技である。 高奥君は、「きき米」試食というより、単なる昼食の一環として「飯」を平らげているようで、 「美味しい米は、空きっ腹が知っている。」 などと、「味」も素っ気もない事を言っていたが、しかし二つの予想を当ており、今回の「きき米」にあっては好成績な結果を残した。それを高奥
「浦山さんの奥さんがですね、旦那の米はB皿だと言っていたから、たぶん間違い無いと思いまして。」 とのことだ。なるほど、旦那のことはカミさんが良く知っているとの理屈だ。高奥君もなかなか「味」のある予想をするもんである。肝心の浦山さん自身は、自分の米を外しているから、たぶん、旦那のことは旦那自身よりカミさんのほうが良く知っているのかもしれない。 ちなみに、今回の「米」では、唯一浦山作のみが天日干しであった。これについてもゲストから感想があった。 「天日干しの米は自然のリズムに合わせてゆっくりと乾燥しているから自然の旨味があると思う。なんで最近は天日干しが廃れて機械乾燥ばかりなんですか?」 これについては、農家としてやむにやまれぬ事情がある。簡単に言えば、天日干しは手間がかかるのである。かつてのように一人当たりの生産面積が小さかった頃に比べ、現在は一人で大面積の田んぼを作業しなければ経営が間に合わない。 例えば、俺は一人で5haの田んぼを経営している。これはかつて天日干しが主流だった頃の倍以上の面積で、も
それでもなお、稲作で食ってくためには、この5haは最小に近い面積なのである。それだけ米の価値が低下してきたのかもしれない。 こんな感じで、「覆面試食会」もそろそろお開きの時間が近づいてきた。 最後に俺の総評をゲストの皆さんに述べた。 「今日は、いろんな米を食べてもらいましたが、「田力本願の米」に限らず、さらに言えば今日の米にもこだわらず、いろんな米を食べていただき、自分が美味しいと思った米を買ってください。」 そう述べた。 くどいようであるが、農薬や肥料を使おうと使わまいと、自分が食べて美味しいのが、やっぱりその人に合った「美味しい米」なのである。
なお生産者としては「甘い」評価よりも「辛い」評価をもらったほうが、時として稲作のモチベーションが高まったりもするのであった。 |
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