資金会計理論の部屋

KUJIRA Cafe

ニュー資金別貸借対照表

ニュー資金別貸借対照表も、佐藤幸利氏が、考案されたものです。

ニュー資金別貸借対照表は、資金別貸借対照表に比べて、複雑になっています、

ただ、財政状態を見るには、ニュー資金別貸借対照表は、分かりやすいと思います。

1.資金別貸借対照表から、変更になった主要部分は、次の点で す。

①売上仕入資金が、損益資金の次に来る配列に、なりました。

固定資金の棚卸資産が、独立表示になりました。

③固定資金の調達が、自社資金(資本金、資本準備金)と、外部資金(長期借入金、社債等)に別れて、表示されされるようになりまし た。

➃固定資金の自社資金の次に、固定資金の運用額が、表示される様式になりました 。

➄安全資金に、修正安全資金という欄が、追加されました 。

ニュー資金別貸借対照表の、フォームを 提示します。

現預金問 損益資金
   前払費用
前受収益
長期前払費用
引当金
株主配当
利益準備金


任意積立金


前期繰越利益    30
小計
小計


差・繰越損益等    30
売上原価   150 売上高    200
販売一般管理費   20 営業外収益    10
営業外費用    5 特別利益     0
特別損失    2 (税引前利益)  ( )
法人税等    0 (当期利益)  ( )
 63 運用額合計   177 調達額合計    240

売上仕入資金
売上債権   17 買入債務    12
前受金 前払金
 ▲5 運用額合計   17 調達額合計   12
   58 継続損益資金
   固定資金
▲5 棚卸資産    5

   53 実質損益資金
 
資本準備金     5
資本金    45
 50 調達額合計    50
  103 真正損益資金
   固定資産   90
投資等    0
▲90 運用額合計   90
   13 正味損益資金
   
長期借入金    30
設備未払金     0
社債     0
30 調達額合計    30
  43 安定資金
   流動資金
 2

短期借入金     2
   45 修正安定資金
   未収収益    1 預り金
有価証券
未払費用
仮払金
仮受金
▲1 運用額合計  1 調達額合計  0
44 現預金合計

ニュー資金別貸借対照表の、フォームを参照しながら、以下の説明をお読みください。

①売上仕入資金が、損益資金の次に来る配列に、なりました。

売上仕入資金の配置が、変更になっただけで、損益資金も売上仕入資金も内容に関しては変更はありません。

損益資金と売上仕入資金の合計額が、「継続損益資金」として表示されるようになりました。

固定資金の棚卸資産が、独立表示になりました。

継続損益資金の、次に、棚卸資産が表示・控除され、「実質損益資金」と表示されます 。

③固定資金の調達が、自社資金(資本金、資本準備金)と、外部資金(長期 借入金、社債等)に別れて、表示されされることになりまし た。

実質損益資金と資本金・資本準備金が、加算され、「真正損益資金」が計算されます。

➃固定資金の自社資金の次に、固定資金の運用額が、表示される様式になり ました 。

棚卸資産を除く固定資金の運用額を、真正損益資金から控除し、「正味損益資金」を計算します 。

正味損益資金に、固定資金の外部調達額、長期借入金、社債などを、加えて「安定資金」を算出します。

➄安全資金に、修正安全資金という欄が、追加されました 。

短期の借り入れがある場合、「修正安全資金」という項目が加わります 。

2.新しく出てきた用語を説明します

継続損益資金

損益資金+売上仕入資金が、継続損益資金です。

利益が発生していても、売掛金が多額であれば 、会社にお金が入って来ません。

継続資金は、会社の手元に残る資金です。

利益が出ていても、売上仕入資金が、多額のマイナスであるような場合、「勘定合って銭足らず」の状況になり、黒字倒産の可能性があり ます。

企業の継続に関係してくるため、継続資金と名付けられています。

継続資金を、もう少し説明します。


貸借対照表
現金 1000 前期繰越利益 1000

前期の貸借対照表は、上の通りです。

資本金その他、貸借対照表を構成する科目は、省略しています。

必要な部分だけの、貸借対照表になっています。

仕入の倍額で、商品を売っている、と仮定します。

例1

現金で、商品を1000仕入れ、 現金2000で売却した、とします。

そうすると、2000ー1000で、1000の利益を獲得し、現金が、1000増加します。

貸借対照表は、次のようになります。


貸借対照表
現金 2000 前期繰越利益 1000


当期利益 1000

例2

例1の続きではない、別の例です。

今度は、商品を、買掛金で500、現金500、で仕入れたとします。

売上も 、半分の1000を売掛金で、半分1000円を現金で、売上たとします。

利益は、上と同じように、2000ー1000で、1000の利益が、出てます。

現金は、売上額1000ー仕入額 500と、前期からの繰越額1000で、1500になります。

そうすると、次のような、貸借対照表になります 。


貸借対照表
現金 1500 買掛金 500
売掛金 1000 前期繰越利益 1000


当期利益 1000

これを、ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると、

損益資金 2000 (前期繰越利益1000+当期利益1000)
売上仕入資金 ▲500 (買掛金500ー売掛金1000)
継続資金  1500 (2000+▲500 )

となり、貸借対照表の金額と、一致します。

現金取引だけですと、当期利益と同額、現金は、1000増加します。

売上仕入資金では、買掛金よりも売掛金の方が多いため、500のマイナスが発生しています。

当期利益1000の現金が、増加するはずが、売上仕入資金の▲500によって、500だけ現金が、減少しています 。

売上仕入資金を加えた継続資金が、「会社の手元に残る資金」を、示しています。

実質損益資金

継続損益資金ー棚卸資産が、実質損益資金です。

内部留保を含め、企業が獲得した損益資金の、最終的なキャッシュベースの利益の額です。

(売上債権ー仕入債務)+棚卸資産は、「必要運転資金」と呼ばれています。

売上仕入資金と棚卸資産の合計は、必要運転資金と同義です。

損益資金が、必要運転資金を賄っているのです 。

企業の損益資金の蓄積が、あまりなされていない場合、売上仕入資金や在庫の金額によっては、マイナスになる場合があります 。

実質損益資金が、マイナスになるということは、資本金、資本準備金まで、食い込んでいるということです。

考え違いをしないで、いただきたいのですが、 資本金、資本準備金に食い 込んでいるということは、資金ベースの話です。

実際の貸借対照表では、純資産、繰越利益剰余金が、プラスであり、 マイナス残高でない、ということは当然あり得ることです。

あくまでも、資金をベースとした説明です 。

もう少し、実質損益資金が、内部留保を含め、企業が獲得した損益資金の、最終的なキャッシュベースの利益の額である、ことを説明しま す。

継続資金で使った、前期貸借対照表と設定した仮定は、同一です。


貸借対照表
現金 1000 前期繰越利益 1000

例3

商品を、買掛金で500、現金500、計1000仕入れたとします。

商品は、仕入れた商品の半分を、売掛金1000で売上げました。

棚卸資産500が、売れ残っています 。

利益は、1000の売上から、仕入500を引いて、500が利益になります

現金は、仕入で500使っていますので、500の減少となり ます。


貸借対照表
現金   500 買掛金  500
売掛金  1000 前期繰越利益   1000
棚卸資産   500 当期利益  500

ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると

損益資金 1500 (前期繰越利益1000+当期利益500)
売上仕入資金 ▲500 (買掛金500-売掛金1000)
継続資金  1000 (損益資金1500+売上仕入資金▲500 )
棚卸資産 ▲500
実質損益資金  500 (継続資金1000+棚卸資産▲500 )

損益資金1500から、売上仕入資金500が、引かれて、継続資金が、1000、継続資金1000から、棚卸資産500を、引いた金 額500が、実質損益資金であり、貸借対照表の、現金の金額になります 。

当期利益から見た、現金の動きの説明です。

当期利益500が、出ていますので、現金も、同額、増加します。

ところが、 増加するはずの500の現金は、売上仕入資金が、▲500 のため相殺しあって、増加額はありません。

棚卸資産500の支出は、今までに獲得した前期繰越利益剰余金の中から支出され、現金が、500減少しています 。

期首貸借対照表の現金1000が、500の残高になっています。

例4

商品を、買掛金500、現金500、計1000仕入れました。

商品は、売れ残った棚卸資産500と、仕入れた商品750、計1250を、売掛金1000と現金1500、計2500で売上げまし た。

棚卸資産250が、売れ残っています。

売上原価は、

前期棚卸資産500+当期仕入1000ー期末棚卸資産250=1250

利益は、

売上高2500ー売上原価1250=1250

になります。

現金は、

売上1500 ー仕入500=1000

それと、前期で未回収だった売掛金1000の現金増加と、未払いだった買掛金500の支払いで現金が、500円増加しています。

1000と500を足して、1500現金が、増加します。


貸借対照表
現金 2000 買掛金  500
売掛金 1000 前期繰越利益   1500
棚卸資産   250 当期利益   1250

ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると

損益資金 2750 (前期繰越利益1500+当期利益1250)
売上仕入資金 ▲500 (買掛金500-売掛金1000)
継続資金  2250 (損益資金2750+売上仕入資金▲500 )
棚卸資産 ▲250
実質損益資金 2000 (継続資金2250+棚卸資産▲250 )

損益資金2750から、売上仕入資金500が引かれて、継続資金2250、継続資金2250から、棚卸資産250を、引いた金額2000が、実質損益資金 です。

これは、貸借対照表の、現金の金額です 。

企業が獲得した損益資金の、最終的なキャッシュベースの利益の額が、実質損益資金です。

真正損益資金以降の損益資金は、損益資金と言っていますか、企業の営業努力によって獲得する、損益資金ではありません 。

真正損益資金

実質損益資金+資本金+資本準備金(以下資本金等と呼ぶ)が、真正損益資金です。

真正損益資金は、今まで獲得した損益資金と資本金等とから構成されており、 「会社の持分」であり、自社資金の残高を、 示すものです。

真正損益資金が、資本金等の額よりも小さい場合は、実質損益資金がマイナスになっています、

真正損益資金が、どのような状況にあるかで、会社の資金状況が分かりますので、非常に大切な指標になります 。

正味損益資金

真正損益資金ー固定資金運用額(棚卸資産を除く)が、 正味損益資金です。

自社の資金を使って、設備投資をしたら、どれだけ資金が残るかを 示すのが、正味損益資金です。

正味損益資金が、プラスになる会社は、あまり多くないと思います。

通常の会社は、マイナスになります。

長期借入金で、このマイナスを、穴埋めするのが通常です。

長期借入金によって、安定資金が、プラスになります。

長期借入金でも、マイナスを埋めきれない時には、短期借入金で、穴埋めすることになります 。

修正安全資金

安定資金は、損益資金、売上仕入資金、固定資金の合計ですが、これに、短期借入金を加えて、修正安全資金と いう項目が、加わりまし た。

安定資金が、プラスで、資金に余裕がある場合には、短期借入金の必要はありませんが、流動資金がマイナスであるような場合には、短期 借入金で穴埋めする場合があります。

安定資金が、マイナスであるような場合、短期借入金で、それを、穴埋めすることになります。

多額の短期借入金があるような場合、資金的に、切羽詰まった状況にあると言えます。

3.損益資金、継続損益資金、実質損益資金の関係

これらの関係を、図示してみました。

実質損益資金、真正損益資金、正味損益資金、安定資金の関係も含めて、図示すると、あまりにも複雑になりますので、分けて図示しまし た。
数字を入れてみると、分かり易いかもしれません。

A.売上仕入資金がプラスの場合

a.実質損益資金ガプラス

売上仕入資金がプラスですので、これに損益資金を足したものが、継続損益資金になります 。

そこから、棚卸資産を引いた額が、実質損益資金です。

b.実質損益資金がマイナス

継続損益資金よりも、棚卸資産の額が大きいため、実質損益資金が、マイナス残高になっている場合です。

B.売上仕入資金がマイナスの場合

a.実質損益資金ガプラス

売上仕入資金が、マイナスになっていますので、損益資金から差し引くと、継続損益資金になります。

継続資金の額よりも、棚卸資産の額が少ないので、実質損益資金が、プラスになっています。

b.実質損益資金がマイナス

継続損益資金よりも、棚卸資産の額が大きいため、実質損益資金は、マイナス残高です。

c.実質損益資金・継続損益資金がマイナス

損益資金よりも、売上仕入資金のマイナスの方が大きいため、継続損益資金が、マイナス残高になっています。

そこから、さらに、棚卸資産を引いたものが、実質損益資金のマイナス残高です 。

4.実質損益資金、真正損益資金、正味損益資金、安定資金の関係

これらの関係を、図示してみました。

a.実質損益資金が、プラスの場合

超優良企業


実質損益資金と資本金・資本準備金を足したのは、上の図の右側にある真正損益資金であり、会社の持分です。

この会社の持分を使って、設備投資などの固定資金運用が行われます。

設備投資を行っても、まだ、真正損益資金が残っているという ことは、非常に優良企業であると言えます。

真正損益資金から設備投資を引いたものが、正味損益資金です。

このような優良会社では、長期借入金は、必要ないかもしれません。

長期借入金がない場合には、安定資金と正味損益資金が、同一の金額になります 。

普通企業

通常、会社が、設備投資を行うと、正味損益資金は、マイナスになります。

このマイナスを埋めるために、長期の借入れが、行われます。

長期借入金から、マイナスの正味損益資金を引いた残高が、安定資金になります。

業績悪化企業

通常、設備投資を行うと、正味損益資金が、マイナスになります。

その穴埋めのために、長期借入金を調達しますが、それでも、マイナスを 穴埋めできない場合には、短期借入金で、補填することになりま す。

この場合には、安定資金が、マイナス状態になり、短期借入金で、なんとか資金繰りを、行っている状態です。

b.実質損益資金が、マイナスの場合

業績悪化企業

実質損益資金が、マイナスであるため、資本金・資本準備金に食い込んでいます。

そのため、会社の持分である真正損益資金は、資本金・資本準備金よりも、少額になっています 。

このような状態の会社が、設備投資を行うと、 金額にもよりますが、大幅な正味損益資金がマイナスになります。

正味損益資金のマイナスを、埋めるため、長期借入を行いますが、それでも補填されない場合には、短期借入金で穴埋めす ることになりま す。

安定資金が、マイナスになります。

短期借入金で、長期的に資金が固定する投資を行なったことになりますので、短期借入金の更新ができないような場合には、倒産に至る可 能性があります 。

実質損益資金が、マイナスであるような会社は、新規の設備投資は、行うべきではない、と主張されている方もおられます。

このような会社は、借入金で新規の設備投資を行う、と考えられますが、借入金の返済原資が不足すると思われます。

新規の設備投資は、難しいのではないでしょうか 。

これ以外の図が、あると思いますが、これについては、皆様がお考えください 。

5.借入金の返済原資の考え方

一年以内返済予定長期借入金」ですが、 流動負債の短期借入金として取り扱うのではなく、固定負債の長期借入金として、取り扱います。

資金会計理論では、資金は、性格別に集計する、と考えているからです 。

資金別貸借対照表を解 説している書籍と、ニュー資金別貸借対照表を解説している書籍では、考え方が違っています。

最初に、資金別貸借対照表で説明している、借入金の返済原資 を解説します。

資金会計理論における、長期借入金の返済原資は、

「損益資金の増減額」 プラス「固定資金の増減額」プラス「売上仕入資金の増減額」プラス「流動資金の増減額」プラス「現預金の繰越残 高」

となっています 。

これは、資金別貸借対照表の現預金の増減額が、返済原資であ る、ということになります。

長期借入金、短期借入金も含めての話ですが、借入金の返済は現預金で行うということです。

資金会計理論における、借入金の返済能力の算定式が、出ていますので紹介しておきます 。

(短期借入金+長期借入金+社債)÷損益資金増加額= X年

・損益資金は、仕入高で計算する。

・減価償却費は、負債 の返済原資としない。

減価償却費は、負債の返済原資としない、ということを記憶しておいてください 。

損益資金は、仕入高で計算する、を説明しておきます。

これは。現金収支を、厳密に把握しようとすると、損益を売上原価で算定するのではなく、仕入高で算出するという考え方です。

通常は、

売上高ー売上原価(期首棚卸資産+仕入高ー期末棚卸資産)=損益

計算されます。

仕入高で計算するとは、

売上高ー仕入高=損益資金

で計算する方法です。

仕入高を 、商取引の仕入高で計算する方法で、棚卸資産が仕入 れに包含されて、発生しない方式です。

次に、ニュー資金別貸借 対象表で説明されている、長期借入金の返済原資を紹介します 。

長期借入金の返済原 資=減価償却費+実質損益資金⊿ G

の算式になります。

当期の実質損益資金から、前期の実質損益資金を引いたのが、実質損益 資金⊿ Gです。

1年間の、実質損益資金の増加額です。

ニュー資金別貸借対照表を解説している書籍では、

借入金の返済は、ま ず、減価償却費で行い、 減価償却費で不足する部分については、実質損益資金⊿ Gを充当する、 と説明されています。

資金別貸借対照表とは違い、減価償却費が、借入金の返済原資と なっています。

ニュー資金別貸借対照表で、解説している長期借入金の返済原資の考え方を、示しておきます。


・減価償却費の範囲内で借入金の返済を行うのが原則 です。

こうすることで、当期利益が、自由に使えるようになります。

又、新規設備投資を行なったり、配当や内部留保もできるようになり、資金が循環し、増大して行きます。

・借入金の返済額が、減価償却費を超えて、 実質損益資金⊿ G2まで食い込むような状態が、継続すると 、徐々に、資金が圧迫され、財務体質が悪化することになります。

・土地は、減価償却費の対象となりませんので、資本金などの自己資金 で、購入するべきです