資金会計理論の部屋

KUJIRA Cafe

資金別貸借対照表

1.色々な現金

①資本金5000で、会社を設立した。

②長期借入金1000を、借り入れた。

③短期借入金400を、借り入れた。

➃掛けで、商品を600仕入れ、現金1000で売上、利益400を獲得した。

これから、次のような貸借対照表が、作成されます 。

       貸借対照表
現金   7400 買掛金    600
(現金以外の)

その他資産

    

0

短期借入金    400
長期借入金   1000
資本金   5000
利益    400

現金という勘定科目は、一つですが、いろんな性格の現金から構成されています。

利益400は、獲得した現金であり、自由に処分することが可能です。

資本金5000は、減資や会社の解散がない限り、会社に存続する現金です。

長期借入金1000は、ある程度の安定性をもった現金で、長期間利用可能です。

短期借入金400は、1年以内に返済しなければならない性格の現金です。

買掛金600は、損益取引によって発生した現金で、短期間で支払わなければならない性質の現金です。

このように、現金は、いろんな性格の現金から構成されているの です 。

この現金を使って、有価証券、棚卸資産、建物等々が購入されます 。

使用された現金も、色々な性格を持っています。

2.四つの資金

資金会計理論では、現金を四つに分類しています。

まず、「自社資金」と「その他資金」の2つに分類さ れます。

取引には、損益に関する取引と、損益に関係しない取引の2種類の取引が あ ります。

利益400は、損益に関する取引から生じたもので、「自社資金」と呼ばれます。

損益に関係しない取引の資金(買掛金、短期借入金、長期借入金、資本金)は、「その他資金」といいます 。

「自社資金」と「その他資金」では、資金の性格が異なっています。

「自社資金」は、会社が獲得した資金で、自由に使う事の出来る資金で すが、「その他資金」は、会社を運用するために使われる資金で す。

「その他資金」は、三つに分類されます。

固定資金、売上仕入資金、流動資金、の三つです 。

これに、自社資金である損益資金が、加わって四つになります 。

<自社資金>

損益資金

<その他資金>

固定資金

売上仕入資金

流動資金

の四つです。

現金は、この4つの性質の現金から構成されているのです 。

現金以外の貸借対照表の勘定科目は、上記で述べた四つの資金に分類されます。

貸借対照表は、現金とこの四つの資金で構成され、四つの資金それぞれに、現金の増加である調達と現金の減少である運用が、ありま す。 

現預金、運用、調達の形式で、作成される貸借対照表を、資金別貸借対照表と呼んでいます。

    貸借対照表(=資金別貸借対照表)

現預金残高 運用(現預金の減少) 調達(現預金の増加)
AーB=1 損益資金=B 損益資金=A
CーD=2 固定資金=D 固定資金=C
EーF=3 売上仕入資金=F 売上仕入資金=E
GーH=4 流動資金=H 流動資金=G
1+2+3+4=
貸借対照表上の
現預金残高


1、2、3、4は、それぞれ、プラス、マイナスの値をとります。その合計 が、貸借対照表上の現預金残高と一致するのです。

詳細な資金別貸借対照表は、後ほど表示いたします。

3.四つの資金について

(A)損益資金

損益資金とは、営業活動によって獲得された当期利益、及び会社設立から現在までの利益の蓄積額を 言います。

この資金は、自社が稼いだ資金であり、自由に使うことができる資金です。

資金会計理論における企業の目的は、この損益資金を最大化することが、 目的になります。

損益資金 の

調達勘定科目・・前受収益、引当金、未払法人税等、利益準備金、繰越利益剰余金等

運用勘定科目 ・・前払費用、長期前払費用、配当金等

佐藤幸利氏の「実践 資金管理会計」では、決算で作成した貸借対称表を、組み直した形で使用されており、 損益計算書が記載される様式ではありませんでした

現在の会計用語で、損益資金のフォームを記載しておきます。

  

現預金 損  益  資   金

前払費用
前受収益

長期前払費用
引当金

株主配当金
利益準備金



任意積立金



繰越利益剰余金

運用計
調達計

資金会計理論の入門書である「キャッシュフローがいつでもわかる会社を強くする資金会計理論」では、損益計算書を含めた形の、資金別 貸借対称表のフォームになっています 。

損益計算書を含めた形で損益資金を示すためには、繰越利益剰余金を当期利益と前期繰越利益剰余金の二つに分けて表示する必要がありま す。

現預金   損  益  資   金

前払費用
前受収益

長期前払費用
引当金

株主配当
利益準備金



任意積立金



前期繰越利益剰余金

小計
小計



差・繰越損益等

売上原価
売上高

販売一般管理費
営業外収益

営業外費用
特別利益

特別損失
(税引前利益) ( )

法人税等
(当期利益) ( )
   運用計
調達計   

「差・繰越損益等」より、上の部分が、会社設立から現在までの利益の蓄積額を示しています。

下の部分は、当期の損益に関するものです。

長期前払費用・前払費用について

「実践資金管理会計」では、前払費用について、「前払費用とは、制度会計において期間計算重視のために発生するもので、資 産とは言い 難く、費用と認識するのが妥当です」と、書かれています。

また、同じように、前受収益については、「前受収益とは、制度会計において期間計算重視のために発生するもので、資産とは 言い難く、 収益と認識するのが妥当です」と、書かれています。

前払費用・長期前払費用は、現実に、現金が社外に出金されており、前受収益も同じように、社外から現金の入金があります。

損益資金は、創業以来の、資金ベースの利益を計算したものですから、実際に、資金の収入・支出があるものを、費用・収益と 捉えるの は、適切なことだと考えられます。

b.なぜ引当金を、損益資金に計上するか、を説明 します。

例えば、損益計算書の販売費一般管理費に、退職給付引当金繰入額が、計上されているとします。

損益計算書の当期利益は、退職給付引当金繰入額を、控除した後の利益になっています。

引当金の取引は、非資金取引です。

資金会計理論では、 非現金取引は、対象としていません。

退職給付引当金繰入額が、なかったように、処理し なければなりません 。

当期利益は、退職給付引当金繰入額の分だけ、減っています。

現金ベースのあるべき当期利益は、算定された当期利益に、退職給与引当金繰入額をプラスしたものです。

このあるべき数値にするために、考え出されたものが、損益資金の調達の欄に、退職給付引当金を計上することです。

損益資金の調達の欄で、当期利益と退職給付引当金を、加算することで、あるべき利益の額になります。

退職給付引当金の分だけ、損益資金が増加することになります。

違った見方をすると、損益資金の中で、運用額で退職給付引当金繰入額が、調達額で退職給付引当金が、同額計上されており、退職給付引 当金繰入額と退職給付引当金の両方を、削除しても、損益資金に影響しないと いうことです。

このように計上することで、非資金取引を、意味のないものにしているのです。

決算の当期利益を利用するということですので、このような削除はされません 。

当期利益が、変更になりますが、退職給与引当金繰入額と退職給付引当金を削除すると、どうなるか考えてみましょう。

販売費一般管理費の職給与引当金繰入額の計上額が、減少し、その分、当期利益が増加することになります。

この当期利益は、非現金取引を含まない利益であり、現金ベースの利益になっています。

次期への繰越ですが、当期利益は、繰越利益剰余金で、引当金は、引当金の累計額として繰り越されます 。

(B)固定資金

固定資金とは、長期間にわたり、安定して、使用することができる資金で す。

固定資金の運用は、長期にわたり、資金が固定化してしまいますので、投資の効果について慎重に検討して投資すべきです。

投資の運用いかんが、会社の命運を左右してしまいます。

固定資金の

調達勘定科目・・長期借入金、設備未払金、社債、資本金、資本準備金等

運用勘定科目 ・・棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産、投資等、繰延資産等

a.棚卸資産について

小売業も製造業も、常に、ある一定の棚卸資産を保有しています。

このことから、資金会計理論では、棚卸資産を、固定資金の運用として取り 扱っています

b.減価償却費について

減価償却費は、非現金取引ですので、費用として計上されますが、現金の支出はありません

利益は、減価償却費を差し引いた分だけ減少しますが、現金は、実際に支出さ れていませんので、現金が、減価償却費の分、会社に残 ることにな ります 。

資金会計理論では、二つの処理方法があります。

(1)固定資産から減価償却費を引いて簿価表示する 方法

(2)取得価額と減価償却累計額を両建てする方法

二つの処理方法を説明します。

(1)固定資産から減価償却費を引いて簿価表示する方法

二つの処理方法を、わかりやすくするため、減価償却費を独立表示しています。

販売費一般管理費に、減価償却費は、含まれていません。

現預金 損益資金







その他    30


差・繰越損益等    30
売上原価   150 売上    200
販売一般管理費   20 営業外収益    10
減価償却費    5 特別利益     0
営業外費用    2

特別損失    0





   63 運用計   177 調達計    240
      固定資 金

棚卸資産    5 長期借入金    30
固定資産   85 設備未払金     0
投資等    0 社債     0


資本準備金     5


資本金    45
  ▲10 運用計   90 調達計    80

固定資産の取得価額は、90ですが、減価償却費を差し引いた85が表示されます、


(2)取得価額と減価償却累計額を両建てする方法

現預金 損益資金



減価償却累計額     5


その他    30


差・繰越損益等    35
売上原価   150 売上    200
販売一般管理費   20 営業外収益    10
減価償却費    5 特別利益     0
営業外費用    2

特別損失    0





   68 運用計   177 調達計    245
      固定資 金

棚卸資産    5 長期借入金    30
固定資産   90 設備未払金     0
投資等    0 社債     0


資本準備金     5


資本金    45
  ▲15 運用計   95 調達計    80

損益資金欄には、減価償却費5と減価償却累計額5が、両建てで表示されます。

固定資産は、取得価額で表示されます 。

(1)の方法も(2)の方法も、損益資金と固定資金の現預金の合計額は、一致します。

(2)の方法は、減価償却累計額が大きくなればなるほど、損益資金が、大きくなります。

会社に残るはずの、毎年の減価償却費に該当する現金は、長期借入金の返済などに使われ、実際、減価償却費の分、会社に残っていないの が、通常、ではないでしょうか。

これは、私の考えですが、(2)の方法では、損益資金が、過大に表示されるように思われます。

資金会計理論の考え方から行けば、(2)の処理方法が妥当です。

引当金の処理と同じ考え方が、できますので。

通常は、(1)の方法が使われています。

(C)売上仕入資金

売上仕入資金は、営業活動によって生じた売上債権と買入債務の差額の状況を 示すものです。

売上代金の前受金は、マイナス表示します。

仕入代金の前渡金は、マイナス表示します。

これは、サイトの勝ち負け、と言われています、

サイトとは、例えば、売掛金が、発生してから、回収されるまでの日数が、サイトです。

買掛金にも、サイトがあります。

サイト勝ちとは、 売掛金の回収よりも、買掛金の支払いが、後になる場合が、サイト勝ちです。

買掛金の支払いが、売掛金の回収の後ですので、資金が回収されて、それで買掛金を支払うことが可能になります 。

サイト負けとは、逆の場合です。

サイト勝ちの場合には、売上仕入資金が、プラスになります。

サイト負けの場合には、売上仕入資金は、マイナスです 。

売上仕入資金の

調達勘定科目・・買入債務、前払金(マイナス表示)

運用勘定科目 ・・売上債権、前受金(マイナス表示)

現預金 売上仕入資金

売上債権
買入債務
前受金 前払金

運用計
調達計

「勘定合って銭足らず」とは、損益資金がプラスで、売上仕入資金がマイナス、の状態をいいます 。

売上仕入資金が、損益資金と同じ性格の資金である、ことを説明します。

売掛金などは、短期間に現金化されるものであり、買掛金なども短期間中に支払われるものです。

損益資金の売上高から、売掛金等を 引いたものが、損益資金として入金されるものであり、仕入高から買掛金等を引いたものが、 損益資金として出金されるものです 。

売掛金は、損益資金の回収の途上にあるものであり、買掛金は、損益資金の支払いの途上にあるものと いえます 。

このように、損益資金と売上仕入資金とは密接に関係しています。

売掛金>買掛金の場合

現金預金 損益資金

900



繰越損益等
売上原価 1,500 売上 3,000
販売費一般管理費 500 営業外収益 100
営業外費用 200 特別利益
特別損失


運用額合計 2,200 調達額合計 3,100
▲300 売上仕入資金
売掛金  1,000 買掛金   700
運用額合計  1,000 調達額合計   700
600 合計

売掛金<買掛金の場合

現金預金 損益資金

900



繰越損益等
売上原価 1,500 売上 3,000
販売費一般管理費 500 営業外収益 100
営業外費用 200 特別利益
特別損失


運用額合計 2,200 調達額合計 3,100
300 売上仕入資金
売掛金   700 買掛金 1,000
運用額合計   700 調達額合計  1,000
1,200 合計

上の例のように、損益資金の損益計算書が、同一だとすると、売上仕入資金の状況によって現預金の残高が違ってきます

売掛金が買掛金より大きければ、現預金の残高が減少し、売掛金が買掛金より小さい場合には、現預金が増加します。

どのように会社が、行動しているかによって、売掛金、買掛金の残高は異なってきます。

ニュー資金別貸借対照表では、表示方法が変更され、損益資金の次に、売上仕入資金が、来ています。

(D)流動資金

流動資金とは、損益資金、固定資金、売上仕入資金以外の資金で、超短期的な資金の調達・運用を表したものです 。

流動資金の調達源泉の主なものは、短期借入金です 。

資金繰りが逼迫している場合には、調達源泉としては、この短期借入金が中心になります。

そのような場合には、資金調達がうまくいかないと、倒産に至ることになります 。

流動資金の

調達勘定科目・・短期借入金、預り金、未払費用、仮受金等

運用勘定科目 ・・未収収益、有価証券、仮払金、短期貸付金等

現預金 流動資金

未収収益
短期借入金
有価証券
預り金
仮払金
未払費用
短期貸付金
仮受金

運用計
調達計

(E)安定資金

安定資金とは、損益資金、固定資金、売上仕入資金、の三つの資金の合計額を、 いいます 。

定 資金は、0より大きくなければなりません。

安定資金が、マイナスですと、資金繰りが大変なことになります。

資金別貸借対照表のフォームを示します。

現預金問 損益資金

   

   63

前払費用
前受収益
長期前払費用
引当金
株主配当金
利益準備金


任意積立金


前期繰越利益剰余金    30
小計
小計


差・繰越損益等    30
売上原価   150 売上高    200
販売一般管理費   20 営業外収益    10
営業外費用    5 特別利益     0
特別損失    2 (税引前利益)  ( 33)
法人税等    0 (当期利益)  ( 33)
運用額合計   177 調達額合計    240
  ▲15 固定資金
棚卸資産    5 長期借入金    30
固定資産   90 設備未払金     0
投資等    0 社債     0


資本準備金     5


資本金    45
運用額合計   95 調達額合計    80
 ▲5 売上仕入資金
売上債権   17 買入債務    12
前受金 前払金
運用額合計   17 調達額合計   12
  43 安定資金
   1 流動資金
未収収益
短期借入金     2
有価証券    1 預り金
仮払金
未払費用


仮受金
運用額合計  1 調達額合計   2
44 現預金合計

資金別貸借対照表の作り方

①上記のフォームに、損益計算書と貸借対照表の数値を、入力します。

損益資金の前期繰越利益剰余金は、繰越利益剰余金から当期利益を、差し引いた金額です。

税引前利益、当期利益は、加算の対象にはなりません。参考の数値です。


②資金別に、調達合計と運用合計を算出
します。

③調達合計から運用合計を差し引き、それを、各資金の現預金欄に記入します。

➃損益資金、固定資金、売上仕入資金、流動資金の現預金額を、プラスしたものが合計に入ります。

この合計額と、貸借対照表の現預金の金額が、一致します。

一致しない場合には、記入ミス、計算ミスが発生しています。

安定資金欄には、損益資金、固定資金、売上仕入資金の現預金の合計を記入します。

安定資金と流動資金の合計が、現預金合計と一致するはずです 。


資金別貸借対照表による財政状態の見方

資金会計理論による財政状態の定義

「財政状態とは。損益資金、固定資金、売上仕入資金、流動資金のプラス・マイナス状態を言う。」

また、「財政状態とは、全部の勘定科目の残高状況を言う 」

と定義されています。

ここから、現金預金が、どのように構成されているか確認します。

すなわち、定義のように、四つの資金の現金預金の残高の、プラス・マイナス状態を読み取ります。

損益資金は、プラスになっているか。

固定資金がマイナスであった場合、損益資金で埋め合わせすることができるのか。

売上仕入資金は、マイナスなのか、プラスなのか。

固定資金と売上仕入資金の合計が、マイナスであった場合、これを、損益資金で埋め合わせすることができるのか。

すなわち、安定資金が、プラスになっているのか 。

安定資金が、多ければ多いほど、資金状態は安定しています。


固定資金調達額に比べて、多額の固定資金運用額になっていないか

適正な在庫状態か。

適切な設備投資額か。

遊休固定資産を、購入していないか等。

遊休固定資産が、安定資金額を、減少させている主要原因でないか。

売上仕入資金の、売上債権と仕入債務のバランスは適正か 。

売上仕入資金のマイナスの額が、多額になっていないか 。

損益資金 3000
固定資金 ▲2100
売上仕入資金 ▲500
安定資金 400
流動資金 150
合計現金預金 5 50

上の例では損益資金が、3000あります 。

固定資金が ▲2100、売上仕入資金が▲500、合計すると▲2600です。

損益資金が3000円ありますので、安定資金は、400になります。

安定資金が、ゼロより大きいので、資金は安定しています 。

四つの資金を、合計すると貸借対照表の金額である550になります。

なぜ、安定資金が、0より大きくなければならないか、を説明します。

当期損益と売上仕入資金を加算すると、実際に手元に残った、営業活動によって生じた資金残高になります。

これに、今までの利益の蓄積額が加算されます。

これが、損益資金と売上仕入資金の合計額の、意味することです。

安定資金が、マイナスであるということは、損益資金+売上仕入資金と、固 定資金の調達額、すなわち、資本金、資本準備金、長期借入 金、を加えても、固定資金の運用額が、それより多いということになります。

資金が、長期にわたり不足する、ということです。

資金繰りを、短期借入金で、行わなければならない状態になっている、ことを意味しています。

財政状態については、資金別貸借対照表よりも、ニュー資金別貸借対照表の方が分かりやすいと思います 。

財政状態については、ニュー資金別貸借対照表のところでもう一度説明いたします。