4. 蘭の憧れ、有希子の願い

『Something Four』という言葉をご存知でしょうか?
挙式当日に4つのサムシング(あるもの)を身に付けた花嫁は幸せになれるというおまじないの事です。
ちなみに、そのサムシングとは、次の4つのものを指します。

Something Old
『古いもの』は謙虚な心を意味し、祖先から受け継がれてきたものを大切にする事で、二人の生活がささやかでも安定する事を願うもの。例えば、母親から譲り受けた宝石類など。

Something New
『新しいもの』は、これから始まる二人の真っ白な未来を意味し、新しく用意したものを下ろす事。下着など、当日に身に付けるものなら何でもOK。

Something Borrow
『借りたもの』は、すでに結婚生活を送っている友人などから、その幸運を分けてもらう事。例えば、レースのハンカチを借り、ブーケのリボンにするなど。

Something Blue
『青いもの』とは、古代、女性の慎ましさを象徴する色で、欧米では聖母マリアのシンボルカラーとして知られている。『青いもの』は一目に付かぬようにとされているので、ガーターベルトなどに青いリボンを飾ることが多い。

今ここに、その『Something Four』のおまじないにあやかろうと、実際の行動に移している人物がいます。その人物の名は、工藤有希子。そう、新一君のお母さんです。有希子さんが考えている『Something』とはオーソドックスに『Old』のようですが、どうやら、宝石ではないようです。

さて、有希子さんと蘭さんが都心のとあるビルの中にある目的地のお店に到着したようです。

「久しぶりねー、有希子ちゃん。もう、待ちくたびれちゃったわよ」
「ごめんなさい、麗子さん。飛行機が遅れちゃったのよ。それよりも、お願いしてあったモノ、用意は出来ているかしら?」
「ええ、もちろん、バッチリよ。それじゃあ、こちらのお嬢さんが?」
「そう。今度、私の娘になる蘭ちゃんよ」
「あの、初めまして。毛利欄と言います」
「あら、ごめんなさい。紹介がまだだったわね。えーと、こちらは佐野麗子さんと言って、私が女優をしていた時に、スタイリストをしてもらっていた人なの。そして、今は見ての通り、オートクチュール中心のお店とやっているのよ」
「初めまして、蘭さん。私と有希子ちゃんとは、20年以上の付き合いになるのよ。この度は、どうか宜しくね!」
「えっ? 宜しくって!?」
「あのね、蘭ちゃん。実は、私から蘭ちゃんにお願いしたい事があって、今日は一緒にここに来てもらったの」
「おばさまが、私にお願いですか?」
「そうなの。早速だけど、麗子さん、例のモノを持ってきてもらえるかしら?」
「ええ。じゃあ、ちょっとだけ待っていてね」

蘭さんには、まだ有希子さんの意図がわかっていません。おそらく、頭の中ではたくさんの?マークが飛び交っていることでしょう。どう質問したら良いかもわからなくなってきているようです。
待つ事、ほんの数分。二人の目の前に目的のモノが示されます。そう、それは、紛れも無い純白のウエディングドレスです。

「ありがとう、麗子さん。蘭ちゃん、このドレスはね、20年前に私が着たものなの」
「そう言われれば、このドレス、子供の頃に新一に見せてもらった写真のドレスと同じ……」
「そっかー、蘭ちゃんは私たちの結婚式に写真をみていたのよね。そこで、私のお願いなんだけど、このドレスを蘭ちゃんに着てもらえないかなって。もちろん、このままで着るわけじゃなくって、蘭ちゃんに合うように、多少のアレンジは加えるつもりよ。で、そのアレンジをお願いするのが、こちらの麗子さん」
「そういう事です、蘭さん」
「本当に私なんかが、そんなに大切なおばさまのドレスを着させてもらって良いんですか?」
「ええ、もちろん。蘭ちゃんなら大歓迎よ。それとも、私が着たお古なんかじゃ、嫌だったかしら?」
「いいえ、とんでもありません。むしろ、私の子供の頃からの憧れでしたから、おばさまが着たようなウエディングドレスを着ることが」
「良かったー。じゃあ、決まりね。断られたらどうしようかと思っていたのよ」
「そうそう。有希ちゃんったら、自分の結婚式の日にはもう、『このドレスを将来、私の娘に着てもらうのが夢なの』って言っていたくらいですものね」
「そうだったかしら? まあ、とにかく、長年の私の夢がやっと叶うと決まったからには、早速、蘭ちゃん、そのドレスを着てみてくれる?」
「はい」

15分程の時間が過ぎたでしょうか。かつて、有希子さんが着たウエディングドレスを、今、蘭さんが着ています。シンプルな細めのAラインのそのドレスは、それだけで、蘭さんの美しさを充分に引き出させるようで、その場にいた誰もが目を奪われてしまっています。

「おばさま、どうでしょうか?」

少し頬を赤く染めてそう尋ねる蘭さんは、それはそれは、本当にお人形さんのようで、有希子さんも喜びを隠しきれないようです。

「うん、うん。私が着た時とは雰囲気が変わるけど、本当に良く似合っているわよ、蘭ちゃん」
「本当ですか?」
「ええ。でも、せっかくだから、もう少し可愛らしい感じにしたらどうかしら? ほら、レースとかでアクセントを付けたりして。新ちゃんはどちらかと言えば童顔なんだし、二人のバランスを考えたら、ね! どうかしら、麗子さん?」
「そうね。確かにこのデザインだと、実年齢よりは大人っぽく見えるかもね。当の蘭さんはどう思うかしら?」
「私は、お二人の意見にお任せします。センスの良いおばさまと、プロの方の意見ですもの」
「それじゃあ、全体的にもう少し可愛らしさを出す形にするわね。ついでだから、ヘアースタイルやブーケとかの小物なんかもドレスに合わせて用意するから、希望のものがあったら教えてね」
「はい、宜しくお願いします」

さて、再び待つだけの身となった有希子さんですが、何やら先ほどまでとは少し様子が違うようです。満面の笑みだった表情が、少し曇ってしまっています。その理由は、

(私、何か英理に悪いことをしたかな。何の相談もせずに、少し出しゃばり過ぎたかも?)

そうです。蘭さんのお母さん、英理さんのことが気に掛かったからのようです。有希子さんと英理さんとは、元々、親友でもありますからね。でも、そんな心配もこの後、すぐに解消されることになります。いいえ、それだけではありません。とびっきりのプレゼントも一緒なんです。

さて、真打?の登場です。
というのも、留意がこのお話を書きたかった本当の理由は、はしゃぐ有希子さんを書きたかったからだったりします。ここではまだ、触りの部分にしか過ぎないんですけどね。

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