6. 作戦会議

「遅い!! 全く、一体どこまで行ったんだよ、あの二人は! なあ、父さん。本当に、二人の行き先に心当たりは無いのかよ?」
「ああ、無いよ。まあそう心配せずとも、その内に帰ってくるだろうさ」
「あんただろうが、あんなにはしゃいでいる母さんを見たことが無いって言ったのは! これが、心配しないでいられるかよ……」

いつもは冷静沈着な新一君が、今日は珍しく興奮しています。一体、過去に有希子さんは何をしでかしたのでしょうね? 新一君の心配っぷりから、余程のことだったというのは間違いないのでしょうが。

「たっだいまー」
「一体、今の今まで、どこの行ってたんだよ? 蘭、大丈夫だったか?」
「大丈夫って、どういう意味?」
「いや、ならいいんだ……、あ、すみません。おばさんも一緒だったんですか?」
「ええ、私は途中から合流したんだけどね」
「まあまあ、こんな所で長話もなんだから、とりあえずは中に入りましょう。英理も、さあ、入って」
「え、ええ……」

とりあえず、ホッと一安心といった様子の新一君です。
その後、リビングにて優作さんも加わり、いよいよ作戦会議が始まるわけですが、まずはその前に事情聴取といったところでしょうか?

「で、母さん。蘭を今まで連れ回して、どこまで行っていたんだよ?」
「どこって、蘭ちゃんのウエディングドレスを用意してあげようと思ってね!」
「はぁー? って、まさか、昨日の今日でもう決めたとは言わないよな?」
「それがね、新一…」
「決めちゃったわよ! 何か問題でもあった?」
「マジかよ……、何で俺の相談も無しで……、ていうか、俺が見てないのに決めるか、普通?」
「だってー、挙式当日まで花婿が花嫁姿を見ない方が、花嫁は幸せになれるとも言うじゃない?」
「そうは言っても……、なあ、蘭。ちゃんとオメーの気に入ったものにしたんだよな? 間違っても、母さんに押し付けられて決めたりしてないよな?」
「うん。すごく気に入ってるよ。私が子供の頃から憧れていたデザインのものだったしね」
「なら、いいけど……」
「新ちゃんも見たかったんでしょ? それはもう、綺麗だったわよ、蘭ちゃんのドレスす・が・た!」
「だぁー、それ以上は言うな! 悔しさが倍増するだろうが」
「はいはい」
「ところで、有希子。今の話だと、今日は蘭君のドレスを決めに行ったようだが、それ以外にも何かあったんだろう? 時間は掛かり過ぎだし、英理さんのこともある。おそらく、最初は蘭君のドレス姿を見せようと思って呼び出したのだろうが、それだけなら、その後にわざわざ英理さんが家まで来る必要は無いからな」
「さすがね、優ちゃん。そうなのよ。じゃあ、ここからが本題ね。実は、新ちゃんと蘭ちゃんの結婚式の日に……」

と、捲くし立てるように話し始めた有希子さん。逸る気持ちを抑えられなかったようです。有希子さんのプレゼンの間、蘭さんは嬉々とした表情で時には相槌を打ったりと、有希子さんの意見を全面支援といった感じです。

一方の英理さんは、顔を紅潮させて俯くのみ。とは言え、その様子は満更でもないといった様子です。
そして、問題の新一君と優作さんですが、案外と冷静に有希子さんの話しに聞き入っているようです。

「……というアイデアなの。どーお? こんな素敵な結婚式、他にはそうは無いでしょ?」
「まあ、普通は考えないよな、フ・ツ・ウは!」
「新一の危惧した通りだったな。この様子じゃ、お前の計画通りにはことは進みそうもない」
「ああ……、ったく、どうしていつも、こうも奇抜な発想が出来るんだか、母さんは!」
「なーに? もしかして新ちゃん、反対するつもりなの?」
「いーや。蘭がこれだけ嬉しそうにしてるんだ。反対するわけがねーだろ? そりゃあ、俺の知らない間に次々と話が進められたことは面白くはねーけど。でもまあ、蘭が望んでいることだったら、俺はそれでいいから。けど、おばさんの方は、本当にこれで良いんですか?」
「え、ええ。私自身も、もうそろそろ潮時だとは思っていたし、こんな風に蘭も喜んでくれているから。もちろん、今さら恥ずかしいっていう思いはあるわよ。けど、こうでもしなきゃ、あの人は腹を括らないでしょうし」
「わかりました。では、母さんの案で話は進めましょう。これで良いんだよな、蘭?」
「うん。ありがとう」
「さてと、問題はおじさんだな」
「それなら、当日の毛利さんの退路を塞いでしまえば良いさ。そうすれば、さすがの毛利さんだって覚悟を決めるだろう。本人に全くその気が無いというわけでもなさそうなのだから。そうだな……、例えば、船上パーティーの形にするとか」
「船か……、そうだ、蘭。昨日の園子との電話で、会場はぜひ鈴木財閥グループでって頼まれたんだったよな?」
「うん、そうだけど。あ、そっか! 園子のとこの……」
「そう。アイツのところだったら、客船の一隻くらいはどうにか貸してくれるだろうし。もちろん、それなりのことはするつもりだが」
「じゃあ、早速、園子に電話してみるね」

数分後。

「どうだった、園子の返事は?」
「それが……」
「まさか、ダメ、だったとか?」
「ううん。船は即OKしてくれたんだけどね。面白そうだからって、今からこっちに来るって言ってた……」
「はぁ? マジ?」
「うん」

更に30分後。
本当に園子さんは工藤家のやって来ました。挨拶もそこそこに、早速、話の輪の中に加わります。

「じゃあ、船はとびっきりのをパパに頼んで用意してもらうわね。私の大切な親友、蘭のためですもの。この鈴木園子、喜んで協力させてもらいます。けど、よくこの計画を新一君がOKしたわよねえ。まあ、蘭の頼みだから断れなかったんでしょうけど」
「オメーなあ、人のことをからかってる場合じゃねーだろ? ほら、自分達のだってあるんだし」
「それなら大丈夫。もう大体の打合せは済んでいるから。それにしても、偶然なんだろうけど、まさか、同じ時期に結婚することになるとは、夢にも思わなかったわよね」
「うんうん」

そうなんです。
蘭さんの親友で、新一君とも幼い頃から付き合いのある鈴木園子さん。実は彼女も二人よりも一足先の春に、結婚することになったんです。お相手はもちろん、かねてより交際中だった京極真さんです。

この二人、ちょっと変わった経緯で結婚することになりました。
それは、半年前まで遡ります。それまで真さんは空手の武者修行のためにほぼ留学していて、園子さんとは約2年の遠距離恋愛だったのですが、留学を終え、帰国したのを機に、園子さんの両親に二人の交際を認めてもらおうと挨拶に行った日のことです。ただ交際を認めてもらいに行ったはずだったのですが、真さんの実直な人柄を園子さんの両親が気に入ってしまい、どうせ好き合っているのなら早く結婚してしまいなさいと、一気に話が進んで、今日に至ったというわけです。
鈴木財閥は日本を代表する財閥の一つなのですが、その会長夫婦はなかなか変わった思考の持ち主だったようです。

話を戻しまして。
新一君と蘭さんの結婚式は、有希子さんのアイデアを元に、どうやら、一風変わったものになるようです。けれど、心配は要りません。二人の幸せを願ってのことなのですから。素晴らしい式となるに違いありません。

この後の本番までの半年間、この日のメンバーで何度となく打合せを重ねることとなりました。もちろん、小五郎さんには気付かれないように、最新の注意を払いながらの、いわゆる水面下の会合です。
年が明けた1月中旬には粛々と結納が取り交わされ、4月の始めには協力者である園子さんと真さんの盛大な結婚式が執り行われました。

そして、6月初め。
雲一つない青空が広がったこの日、いよいよ本番です。

更にすみません。相変わらず、好き勝手なことを書いてますね。
コナンドリルに書かれていた米花町内恋愛の歴史を絶やすべく? 今回は、園子ちゃんを勝手に婚約させてます。その上、真×園子、まだ詳細まで設定してないし……

▲ Page Top