(1)地域概況 |
▼中山間地の隘路地に位置する。
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高橋H水田より上流を臨む |
中山間地にあり、両脇を山地に挟まれた隘路部に、階段のように水田が連なる。(H19.9記)
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(2)用水源 |
▼ため池からの灌漑
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高橋水田の水源となるため池 |
用水源は清浄であり、背後の山地から流れ出る天水をため池が貯水し、水田に用水として供給する。(H19.9記) |
(3)農薬を使わない水田数 |
▼合計1.2haで9筆ある
高橋水田では平成13年より、農薬を使わない稲作に取り組んでいる。対象とする筆数も多いため、水田毎の稲作方法の変遷は複雑であるが、だいたいの概要については以下となる。
図−1に示す水田でにおいて、
・H13〜H16 農薬を使わない稲作を継続
・H17 農薬を使わない稲作+冬期湛水の稲作を実施
・H18 農薬を使わない稲作+冬期湛水+不耕起の稲作を実施
・H19 冬期湛水を及び不耕起を中断し、農薬を使わない稲作を実施
・H20 H19同様に、農薬を使わない稲作を実施
上記の農薬を使わない水田ではいずれも有機肥料を施肥している。(H19.9記)
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図−1 |
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(4)水田構造 |
▼ほ場整備は未実施、用排は分離され暗渠排水は無し
高橋水田では、深掘りでコンクリートにより装工された排水路と、10a程度に整形された水田区画以外は基盤整備が行われていないが、暗渠排水は設置されている。
用水はため池から流れ出る沢水に堤を設け、そこからの直接取水となる。(H19.9記)
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(5)育苗方法 |
▼ハウスによる育苗を基本とする。
平成20年作での育苗方法は下記のとおりである。
種籾は塩水選、温湯消毒済みものを地元農協から購入 |
3/8〜4/4 |
水漬け |
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4/5 |
催芽 |
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4/13 |
播種 |
90g播、無肥料倍土(山土) |
4/13〜5/18 |
育苗(ハウス) |
4/13にバイオノ有機60g/箱を施肥
5/13にバイオノ有機14g/箱程度を追肥 |
5/17〜19 |
田植え |
移植時 3.5葉程度、70株/坪植え |
4月19頃から苗床に苗焼けが目立ち始め、全370箱中の一部苗を破棄した。これにより補充苗として70箱を播種し、育苗に追加
(H20.9記)
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(6)耕起状況 |
▼特に不耕起栽培は行っていない
平成18年作において耕起は行わず、代掻きのみの「半不耕起栽培」を行ったが、オモダカを多く発生させてしまったようである。また生藁のスキ込みによりガスが発生し、稲の根を痛めたため半不耕起栽培を中止した。(H19.9記)
平成19年作、20年作では秋耕、春耕を実施したが、平成20年作では平成19年11月に秋耕を実施、春耕は田面が十分に乾いた頃を見計らい3月22日に実施した。また田植え直前にも代掻きも行っている。(H20.9記)
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(7)農薬使用 |
▼平成13年より農薬を使わず
平成13年作より一貫して、農薬を使わない稲作を継続している。(H19.9記)
上記より平成20年作まで同様である。(H20.8記)
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(8)施肥状況 |
▼有機肥料を使用、平成19年作はクズダイズを採用せず
基肥はぼかし(EM菌、バイオノ有機10kg、追肥としてバイオノ有機 10kg)を施肥し、田植え後に追肥と除草効果を目的にクズダイズ・コメヌカを施肥している。
ただし平成19年作ではクズダイズの施肥を取りやめた。これは平成18年作で稲の生育に障害が生じ、その原因をクズダイズの強すぎる有機酸の結果と考えたためである。クズダイズが分解して生じる有機酸は発芽雑草を枯死させる効果があるが、それが強すぎると稲にまで障害を与えるようである。(H19.9記)
平成18年作で生じた生育障害についは、下記に述べる土壌改良により解消できるものと判断し、平成20年作では5月22日にクズダイズ(20kg)、コメヌカ(60kg)を施肥した。平成20年作ではこれ以外にも苦土20kg/10a(JAS有機認証ミネラル肥料:マグマックス70)、有機肥料40kg/10a(JAS有機認証有機質肥料:オーガニック853)を4月に施肥している。(H20.8記)
▼土壌分析により蛎殻を投入
平成18年作の稲作結果はおもわしくなく、平成19年産では土壌養分析の結果から、PH調整及び残留藁の分解を目的として、土壌へのカルシウム補給が必要と判断し、蛎殻の焼却材を土壌改良材として投入した。
平成20年作でも平成19年11月に蛎殻改良材を40kg/10a、さらに鶏糞150kg/10aを投入している。
高橋水田も含め、現在の水田のほとんどはトラクターやコンバインなど農作業機械の走行に支障を生じさせない丈夫な耕盤を持つ。このような機械作業の可能な水田の実現には地盤中に設置された暗渠排水の果たす役割が大きい。
暗渠排水は水田地盤中に設置された排水パイプにより地下水の排水制御を行うが、意図せざる結果として、土壌中の肥料分やミネラル分(窒素、リン酸、カリ以外に稲作に必要とされる鉄分、カルシウム、マグネシウムなどの養分)を溶脱させる作用もある。一般に湿田に比較して、乾田のほうが土壌養分の消耗が激しい。
特に有機肥料を用いる場合は土壌の還元化状態が強くなり、より多くのミネラル分が溶脱しているものと思われる。このため土壌分析の結果に基づくカルシ
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H20年8月3日 水稲状況(C水田) |
ウムの補給は理にかなったものである。
なお水田土壌等から溶脱されたミネラルは河川から海に流出する過程でプランクトンに吸収され、それが餌となって魚介類に吸収されているかもしれない。
そうだとするならば、水田への蛎殻投入は、水田から海に流出したミネラルを、蛎殻を通じながら再び水田に還元するといった壮大な循環型稲作と言えるであろう。(H20.8記)
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(9)雑草状況 |
▼主たる雑草はオモダガ、コナギ
▼上流に田んぼがなくても、雑草は生えてくる
高橋水田の雑草の特徴として、宿根性雑草のオモダカが多
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H17年7月24日 雑草状況 |
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H18年7月23日 雑草状況 |
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H19年7月29日 雑草状況 |
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H20年8月3日 雑草状況 |
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いことがあげられる。オモダカはコナギと異なり、根茎において生育空間を拡大するため稲の根茎空間を狭める。
そしてオモダカの繁茂量が多ければ、その障害は稲作にとって無視できなくなるだろう。高橋水田は「田力つながり」の田んぼの中でも、唯一圧倒的にオモダカが多い。
また、コナギも多く、これは長年に渡る農薬を使わない稲作の結果と想像される。コナギの窒素吸収量は多いようであり、しかも面的に繁茂するため稲にとって大敵である。
高橋水田より上流に水田はなく、用水源はため池だけである。それでもなんらかの経路を伝って、雑草の種子が水田に侵入し、繁茂してくる。
おそらくは堆肥、鳥や動物の糞、客土、もしくは慣行水田を行う以前から土壌に休眠していた種子が覚醒し、そして高橋水田内で拡大再生産していったものと思われる。
農薬を使わない稲作を開始して3年目となる平成16年にはコナギが爆発的に増加した。そして半不耕起栽培を実施した平成18年にはオモダカの増加も顕著になった。(H19.9記)
平成19年作ではコナギが顕著であったが、蛎殻による施肥対策が効果を発揮したためか、稲はコナギに負けず、しっかりと生長した。
平成20年作においては、初期除草に力を注いだため、8月初旬時点において、コナギ、オモダカとも例年になく少なくなった。(H20.9記)
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(10)雑草対策 |
▼平成13年作より継続して有機資材による抑草を施す
▼平成13年作より継続して手押し除草機による除草を施す
▼平成16年作からアメンボ除草機を導入
▼平成17〜18年作では冬期湛水による抑草を試行
▼平成18年作から「稲の優先化」も重要な抑草対策と考えられる
▼平成19年作では冬期湛水を中断し、冬期の耕起を施す。
無農薬稲作を開始した平成13年から、継続して有機資材(コメヌカ、クズダイズ等)の施肥による抑草対策を施し、動力式の手押し除草機により6月に2回ほどの除草作業を行っている。また平成16年作からは新型除草機(アメンボ号)も導入した。
無農薬を開始して3年目の平成16年作ではコナギが爆発的に増加した。この対策として、平成17年作では冬期湛水を行った。これによりある程度のコナギ抑草効果は発現できた。
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H18年6月17日 田面水の濁り |
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H18年6月17日 田面を覆う浮草 |
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H18年7月29日 水稲状況(E水田) |
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H19年7月29日 水稲状況(E水田) |
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H20年7月26日 水稲状況(C水田) |
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平成18年作では、前年にコナギ対策としての有効性が確認された「冬期湛水」をさらに本格化するため、半不耕起栽培を取り入れた。
また田植え後の有機資材の投入も綿密に行った。
このように平成18年作では、今までになく除草対策に力を入れ、その結果、6月中旬頃には田面水が赤茶色に濁り(注1)、また田面に浮草が覆う(注2)などして、水田は雑草の抑制環境として理想的な状態になった。
しかしながら、今度は稲の生育障害が生じて分株が遅れ、そのためか隙間の埋まらない稲と稲との条間からコナギ、オモダカが一斉に発芽してしまった。
このことは田面における稲の優先化も、雑草の抑制効果に重要な役割を果たすことを示唆している。平成18年6月下旬以降、田面では雑草が優先化していった。
平成18年作の課題は稲の生育障害にあったが、これを誘発した原因としては、有機資材を多量に施肥し、そして冬期湛水+半不耕起であったため、土壌の強還元状態が続き、これが雑草を枯死させるのみならず、稲の根茎にまで障害を与えたためと考えられる。
平成19年作では、オモダカの越冬根を凍枯させるため、冬期湛水を取りやめ、冬期の耕起を行った。そして平成18年作の経験を踏まえて田植え後の有機資材の施肥を少な目にしたところ、雑草の繁茂は平成18年より減少した。
平成19年作では6月に手押し機械除草機及びアメンボ号でそれぞれ1回ずつ除草作業を行ったが、種子から発芽したオモダカは代掻と除草機によって除草効果が発揮され、大きな支障とならなかった。
(注1)田面水が赤茶色に濁るのは下記効果が大いに発揮されている状態であると「田力つながり」では考えている。
・トロトロ層の促進(種子発芽雑草に対する発芽抑制の効果)
・田面水酸素欠乏(湿性雑草に対する発芽抑制の効果)
・有機酸発生促進(種子発芽雑草に対する発芽枯死の効果)
・遮光効果の発現(種子発芽雑草に対する発芽抑制の効果)
(注2)浮き草が田面を多うと、遮光効果が発現され、種子発芽雑草の発芽抑制効果が発揮されるものと「田力つながり」では考えている。(H19.9記)
▼たゆまぬ除草作業と稲の優先化により、雑草が減少
平成20年作では、「(8)施肥状況」の項で記したとおり、クズダイズとコメヌカを施肥し、また田植え前の代掻きで初期雑草を絶やした。
田植え後に
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H20年6月7日 C水田
アメンボ号で除草したコナギの芽が水に浮き
藻のように漂っている。 |
はアメンボ号(3回程度)、中耕除草機(1回程度)、そしてホウによる局所的除草と行い、5月末〜7初旬までに4〜5回程度、除草作業を行った。
また蛎殻による土壌改良効果により、稲の生長が活性し、雑草に負けず稲が田面を優先化した。このため例年になく雑草が目立たなくなった。(H20.9記)
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(11)冬期湛水 |
▼平成17〜18年作で冬期湛水を実施
平成17年作では冬期湛水に加え、冬期代掻き(田面の凹凸を矯正し、より雑草の抑制効果を高める効果も期待できる。)を実施した。
このような冬期湛水+冬期代掻きは「田力つながり」では初の試みであった。雑草抑制にも有る程度の効果があったようである。
平成18年作では半不耕起も加えた冬期湛水を実施したが、宿根性のオモダカが増加したため、平成19年作ではオモダカの根茎の凍枯を目的として冬期湛水を中断し、冬期の耕起を実施した。(H19.9記)
平成20年作でも冬期湛水は行っていない。(H20.9記)
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(12)認証状況 |
▼JAS有機認証を取得
平成12以降、農薬と化学肥料を用いない宮城県の認証制度を継続して取得している。(H19.9記)
平成20年作からは「特定非営利活動法人 環境保全米ネットワーク」認証によるJAS有機取得の管理栽培に着手した。(本認証はH23年以降の見込み)(H20.9記)
。しかしながら、平成20年作では認証取得を取りやめた。(H20.9記)
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(13)田力活動履歴 |
平成17年03月 冬期湛水状況「熟成するトロトロ層確認」
平成17年06月 田んぼ状況「イトミミズ調査(4月)」
平成17年04月 田んぼ状況「アカガエル調査(4月)」
平成18年04月 田んぼ状況「木漏れ日の映る田んぼ」 |
(14)個人ホームページ |
・大郷自然塾
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(15)掲載内容更新履歴 |
・平成19年09月10日 本文掲載
・平成19年09月23日 (11)認証制度の説明文訂正
・平成20年09月14日 「(5)育苗方法」、「(14)個人ホームページ」を追加
その他平成20年作について追記
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