田力つながり水田の記録

■冬水田んぼクラブ水田 場所:登米市迫町飯島   
〜伊豆沼のほとりの大規模水田、組織で取り組む農薬使わずの稲作〜

(1)地域概況
伊豆沼の干拓地に位置する。
伊豆沼西南端の湖岸堤に隣接する
「冬水田んぼクラブ」水田
この水田も昭和20年代まで沼であった


 昭和30年代に伊豆沼を干拓した区域であり、地形は低平である。
(2)用水源
伊豆沼からの取水
蓮の花が一面に広がる伊豆沼


 伊豆沼からポンプで取水し、パイプラインにより灌漑している。水田からの排水は伊豆沼と接続する用水ポンプ調整池に注ぎ、用水の反復利用の特徴も併せ持つ。
(3)農薬を使わない水田数
合計2.0haで2筆ある
 「冬水田んぼクラブ」とは、ほ場整備事業が実施されている飯島地区において「農薬を使わない稲作」に賛同した耕作者が構成した任意の営農組織である。
 平成19年における「冬水田んぼクラブ」は、下記耕作者により構成される。

        佐々木寛、佐々木和彦、高橋吉郎 

 また農薬を使わない稲作の先達である白鳥章氏菅原秀敏氏も「冬水田んぼ」の稲作に助言を与えるなど交流関係が深い。
 冬水田んぼクラブの水田が位置する飯島地区ではほ場整備事業が実施中であり、作付けを行う水田の位置は換地により変遷している。
 
 農薬を使わない水田(換地前 A,B水田) 
 ・H14    基盤整備実施、牧草作付け
 ・H15    牧草作付け
 ・H16    農薬を使わない稲作冬期湛水半耕起
 ・H17    農薬を使わない稲作(冬期湛水・耕起
 ・H18〜   換地により、農薬を使わず水田移動

 農薬を使わない水田(換地後 C,D水田)
 ・  〜H17 従前耕作者により慣行稲作
 ・H18〜H19 換地により、冬水田んぼクラブ耕作
         農薬を使わない稲作(冬期湛水・耕起)

図−1

(4)水田構造
ほ場整備が実施済み、用排分離、暗渠排水有り
 現在ほ場整備を実施中の区域であり、その整備内容も最新の設計によっている。区画は長辺は120m程度以上で、短辺は80mを基本とし、1.0ha程度以上の区画である。
 用水路と排水路が分離され、用水はポンプにより水田末端までパイプラインにより灌漑される。排水は、多自然型に配慮し、コンクリート装工は施されていない。現在のところ暗渠排水は未設置であるが、ほ場整備の事業期間中に設置する予定である。

(5)耕起状況
▼平成13から不耕起を継続したが平成19年は耕起
 
換地前の「農薬を使わない水田」は干拓地に位置しているものの、
H16年5月18日 田植え状況
基盤からは軟岩が露出した。このような堅固な土壌にあっても、平成16年作では冬期湛水を開始し、田植えまでに土壌表面に軟弱なトロトロ層が形成されたことで、耕起はせず、代掻きのみの「半不耕起」でも田植えが可能となっている。
 その後、平成17年作以降も冬期湛水は継続しているが、「耕起無し」は取りやめ、耕起有りの稲作を継続している。

(6)農薬使用
平成16年より農薬を使わず
 平成16年差作より農薬を使わない稲作を開始した。平成18年作からは換地(A,B水田からC,D水田に移動)によりほ場が移動し、それ以後も農薬を使わない稲作を継続している。

 ・換地前(A,B)水田の農薬を使わない稲作  H16〜H17 2ヶ年
 ・換地後(C,D)水田の農薬を使わない稲作  H18〜H19 2ヶ年

 斑点米の原因となるカメムシ防除については、白鳥氏からの提案を受け、穂揃期〜登熟期に1〜2回の黒酢散布を行うなど工夫している。

H16年8月22日 純米黒酢を薄め、稲に散布
(7)施肥状況
▼平成16年作より有機肥料を使用し、牛糞厩肥の利用も行う
 
平成16年作ではコメヌカ・クズダイズ、牛糞厩肥といった有機機肥料を施肥したが、平成17年作以降はクズダイズと牛糞厩肥の施肥を取りやめ、コメヌカのみの施肥を継続している。

(8)雑草状況
▼主たる雑草はヒエ、ホタルイ
 
始めて農薬を使わずの稲作に取り組んだ平成16年作においては、ヒエの繁茂が著しかった。しかしながら収量は7俵以上を記録し、農薬を使わずの
H16年8月29日 ヒエ繁茂状況
稲作としては、それなりの多収を記録している。ヒエ繁茂の収量そのものへの影響は少なかったようである。
 ただし、稲刈り時にヒエの種子が混入するのを防ぐため、稲刈り前にバリカンでヒエの穂先を刈り取る必要が生じた。
 平成17年以降、ヒエは目立たなくなり、代わりにホタルイ、コナギが目につくようになったが、いずれも収量に影響を与えるほどではない。
 このように雑草の種類が、ヒエからホタルイ、コナギに変遷したのは、冬期湛水有機資材の投入により土壌特性が変化し、それに適合した雑草にとって代わられたためと思われる。

(9)雑草対策
▼平成16年作より継続して、有機資材による抑草を施す
▼徹底した深水管理による抑草効果
 
平成16年作以降継続して主として田植え直後に「コメヌカ」を施肥

施肥状況

H19年7月7日 水稲状況

することによる抑草対策を行っている。(有機資材の施肥により田面水中の酸素を欠乏させ、雑草種子の発芽を抑制する、また有機資材の分解により発生する「有機酸」により発芽雑草を枯死させる。)
 これに加え、ほ場整備により築立された堅固で大きな畦畔を活かし、徹底した深水管理を行うことでも、雑草の抑制効果を行っている。(深水により土壌の酸欠を促進させることで雑草の発芽を抑制する。また浮力により発芽雑草の活着を阻害する。)このような深水管理は、同じくほ場整備により設置されたパンプラインによりさらに効果的に行えるようになっているであろう。
 以上の雑草対策は、冬期湛水と併せ行うことで、より効果的に発現されるているものと想像される。
 (冬期湛水により形成されるトロトロ層は、土壌中の酸欠を促進させ、また発芽雑草の活着を阻害する効果があると考えられている。)
 平成19年作においては、若干のホタルイとヒエが目に付く程度で、見事な抑草が図られているようである。
 これは、有機資材の施肥や深水管理に加え、雑草の繁茂を許さないほど稲の分株が旺盛であることも一因であると感じられる。このことから、稲の分株の促進や植栽密度の程度をどのようにするかについても、雑草抑制には重要であると思われる。

(10)冬期湛水
▼平成16年作以降、冬期湛水を継続
 
平成16年作より冬期間から水田の湛水を田植え時期まで継続する「冬期湛水」を継続している。
 
(11)認証状況
▼必要に応じて宮城県有機認証を取得
 
平成16作以降、農薬と化学肥料を使わない稲作を継続しており、宮城県の認証制度を継続して取得している。(A,B水田は平成16〜17年作、C,D水田は平成18〜19年作)

(12)田力活動履歴
平成16年05月 田んぼ状況「イトミミズ調査(5月)」
平成16年05月 田んぼ状況「トロトロ層の確認(5月)」
平成16年05月 田んぼ状況「イトミミズ調査(7月)」
平成16年07月 田んぼ状況「トロトロ層の確認(7月)」
平成16年07月 生育状況「出穂前の稲抜きツアー」
平成17年03月 冬期湛水状況「熟成するトロトロ層確認」
平成17年04月 田んぼ状況「イトミミズ調査(4月)」
平成17年04月 田んぼ状況「アカガエル調査(4月)」
(13)掲載内容更新履歴
・平成19年09月10日 本文掲載
・平成19年09月24日 本文にABCD水田の注釈を付加




<問い合わせ>
 本コンテンツはホームページ「稲と雑草と白鳥と人間と」に関係する農家から、農薬を使わない稲作」の方法と経過を聞き取り、また必要に応じて水田を観察した結果を記録しております。
 本記録は「農薬を使わない稲作」に取り組む、あるいは取り組もうとする「お米を作る」農家の方々への一助になればと考え掲載いたしました。そしてまた、そういった農業の現場を「お米を食べる」消費者の方々に伝えることで、新しき日本の農業を共に考えるきっかけになればと願っております。本ページに対する問い合わせにつきましては、こちらまで(←クリック)お願いいたします。(記:高奥)

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