(1)地域概況 |
▼山地の裾野に接する低平地
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冬期湛水の遠藤水田に映る朝焼け |
遠藤水田は、かつて沼地であった「広渕沼(昭和3年に干拓)」の端部に位置し、背後には山地が接する。基本的に干拓地の端部にあるため、地形はほぼ平坦である。
この地帯は土地が肥沃であり、干拓直後より入植希望者が相次いだと伝えられる。
遠藤水田は他の「農薬を使わない水田」に比して雑草が少なく、また無肥料でも多多収穫を得ている。これらの一因には「肥沃な土壌」が関係しているようにも思える。
(H19.9記)
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(2)用水源 |
▼河川からの直接取水
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写真奥に微かに見える山並みまで、かつは
沼であった。道路を挟み、右側が遠藤水田
で、道路と水田の間にある溝が用水路であ
る。
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用水源は日本有数の大河川である北上川であり、そこからポンプ取水し、水路を通じて広域な水田地帯に灌漑する。遠藤水田は、その末端からの取水となる。
遠藤水田が位置するような低平地は地形勾配はわずかであり、そのため導水に必要な地形落差も得られ難いことから、河川からのポンプ取水灌漑が一般的な方法となる。 (H19.9記)
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(3)農薬を使わない水田数 |
▼合計1.2haで8筆ある
平成19年作において遠藤氏が「農薬を使わない稲作」を営む水田は、合計1.2haで8筆である。
A〜B水田
・〜H14 休耕田
・H15 農薬を使わない稲作(冬期湛水・不耕起)
・H16〜20 農薬も肥料も使わない稲作(冬期湛水・不耕起)
C〜E水田
・〜H15 慣行稲作
・H16〜18 農薬も肥料も使わない稲作(冬期湛水・半不耕起)
・H19〜20 農薬も肥料も使わない稲作(冬期湛水・不耕起)
F水田
・〜H15 慣行稲作
・H16〜18 農薬も肥料も使わない稲作(冬期湛水・半不耕起)
・H19 農薬も肥料も使わない稲作(冬期湛水・不耕起)
・H20 農薬も肥料も使わない稲作(耕起・代掻き)
H〜I水田
・〜H15 慣行稲作
・H17〜18 農薬を使わない稲作(春期湛水・耕起)
・H19 農薬も肥料も使わない稲作(春期湛水・耕起)
・H20 農薬も肥料も使わない稲作(耕起・代掻き)
J〜L水田
・〜H19 慣行稲作
・H20 農薬も肥料も使わない稲作(耕起・代掻き)
(H19.9記、H20.8追記) |
図−1 |
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(4)水田構造 |
▼ほ場整備は未実施で用排は分離されている。ただし土水路である。
昭和40年代以降に行われてきた基盤整備実施(ほ場整備
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用水は水質の浄化効果を期待し、管理休耕
田に置かれた蛎殻を通じ、水田に灌漑して
いる。 |
)は未実施である。もともとは10a区画であった水田の畔畔を除去し、現在では20a区画を標準としている。
用水路と排水路は分離されているが、いずれもコンクリート装工は施されておらず、土水路のままである。簡易型の暗渠排水(集水渠)は設置されており、これは昭和19年に設置されたものである。
以下、暗渠排水の施工経緯について、「宮城県土地改良史」(平成6年2月 宮城県発刊)より引用する。
「昭和16年10月31日 官有地耕作者289名(中略)一丸となって干拓地を美田にする執念に燃え耕作者総動員、悪戦苦闘の末、昭和19年4月20日 506.1ha余の完全暗渠が竣工したのである。本工事の施行を知らず太平洋戦争に出征していた人達は、広淵沼の湿田を戦友と語り合い復員後も湿田を耕作する覚悟であったが、その変貌ぶりに驚嘆し暗渠排水事業の効果の大きさに、只々感銘したとのことである。」
(H19.9記)
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(5)育苗方法 |
▼苗代育苗を基本とし、種籾消毒は行わず
▼育苗の被覆材には有孔ポリを利用
▼超晩期栽培でイネミズゾウムシの回避とウミネコによりザリガニが駆除?
平成18年頃からハウス育苗を止め、古くからの一般的な育苗方法である苗代育苗を行っている。また温湯消毒を含め、種籾の消毒は行っていない。
本田作では、無肥料による稲作栽培となるが、育苗では有機肥料を施肥している。
平成20年作での育苗方法は下記のとおりである。
4/4 |
ノギ取り、塩水選 |
塩水選 比重 1:15 |
4/4〜4/24 |
水漬け |
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4/24 |
催芽 |
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5/1 |
播種 |
60g播、無肥料倍土(山土) |
4/21〜6/14 |
育苗(苗代) |
苗代育苗(C水田利用)、有孔ポリ被覆
有機アグレット肥料施肥 |
6/14〜15 |
田植え |
移植時 4.5〜5葉、37株/坪植え |
田植え直前の苗にはドロオイムシが目立ったが、本田移植後は特段に稲の生育に支障は及ぼさずドロオイムシは姿を消した。
農薬を使わない水田では、除草機による除草作業が必要となるが、この作業過程で稲葉についたドロオイムシが掻き落とされる。また掻き落とされたドロオイムシは農薬を使わないがゆえに数の増えるアメンボに捕食され、そして駆除されていくとの意見もある。
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平成20年8月3日、開帳型の稲 |
平成20年作では、イネミズゾウムシがほとんど見られなかったようである。宮城県でのイネミズゾウムシ最盛期は5月中旬頃とも言われるが、遠藤水田の田植えはそれよりも一ヶ月遅い6月中旬であった。
また、平成20年作では、移植後間もない稲を切断するザリガニの被害も減少しとのことである。これの原因として思いつくのがウミネコによるザリガニの捕食である。
遠藤水田ある地域は海岸線より18kmの距離にあるが、6月頃からウミネコが群れを為して水田地帯に飛来する。この頃、遠藤水田ではまだ田植えをしておらず、水田で成長したザリガニは稲株に潜伏できない。このため平成20年の遠藤水田ではウミネコがザリガニを捕食するための絶好の条件が整ったようである。
事実、田植え直前には、遠藤水田に多くのはウミネコが集まっていた。
田植え時期を遅らせることを「晩期栽培」と呼ぶ。これはイモチ病の回避を目的として行われ、また田植え期における用水需要のピークを緩和させる効果もあるとされる。遠藤水田の田植えは、通常の晩期栽培に比較して、さらに1ヶ月近く田植えが遅い。このような「超」晩期栽培ではイモチ病回避や用水需要ピーク緩和といった効果以外にも、先に紹介したイネミズゾウムシやザリガニの被害を抑制効果も期待できるのかもしれない。
さらにイネツトムシも平成19年作より少ないとのことである。(H20.8記)
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平成20年6月13日、田植え直前の遠藤水田に群れるウミネコ、サギも多い |
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(6)耕起状況 |
▼平成15年作以降より不耕起を継続
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平成15年5月25日、始めての不耕起田植え |
図−1のうち、A〜B水田は、復田した平成15年作より不耕起を継続している。
C〜F水田は「農薬を使わない稲作」を開始した平成16年より半不耕起(簡易な代掻きは行うが、耕起は行わない)により水稲栽培を継続してきたが、平成19年作では代掻きも行わない不耕起栽培による稲作となった。
G〜H水田については、慣行稲作時と同じく「農薬を使わない稲作」を開始した平成17年作以降も、耕起を行っている。
(H19.9記)
平成20年作では、「農薬を使わない稲作」を開始したJ〜L水田に加え、F,H,I水田も耕起を行っている。
(H20.8記)
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(7)農薬使用 |
▼平成15年より農薬を使わず
A〜B水田は平成15年より、C〜F水田は平成16年作より、またH〜I水田については平成17年作より継続して農薬を一切使用していない。
(H19.9記)
J〜L水田については平成20年作より農薬を一切使用していない。(H20.8記)
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(8)施肥状況 |
▼平成16年より「無肥料」栽培を継続
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平成19年7月7日、遠藤水田の水稲状況 |
A〜B水田は平成15年作において抑草を目的として、「コメヌカ」を施肥したが、平成16年作以降より継続して化学肥料及び有機肥料を使わずの稲作を行っている。
C〜F水田についは平成16年作以降、「肥料を使わない稲作」を継続し、H〜I水田は有機肥料を用い稲作している。
いずれの水田についても、育苗にあたっては、有機肥料を用いている。
(H19.9記)
平成20年作より農薬を使わない稲作を開始したJ〜L水田も、同年より肥料を使わない稲作を開始。(H20.8記)
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(9)雑草状況 |
▼主たる雑草は若干のコナギが目立つ程度
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平成19年7月7日、水田を注意深く観察して、
ようやく見つけた雑草のコナギ。水深の浅い
部分に集中していたようである。 |
C水田において、コナギ、オモダカ、クログワイが見られるが、稲作に支障を与える程度ではない。その他の水田についても、雑草は僅かである。(H19.9記)
▼冬期湛水をしない水田に雑草が目立つ
平成20年作において、農薬を使わない稲作が5年以上経過したA〜I水田のうち、C水田はクログワイコナギが目立ち、H,I水田は、ヒエ、コナギが目立った。
平成20年作より農薬を使わない稲作を開始したJ〜Lのうち、J,K水田ではヒエが目立ち、K水田ではクログワイが目立った。これら水田では冬期湛水を行っておらず、これがヒエが目立つ原因となったものと思われる。(H20.8記)
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(10)雑草対策 |
▼田植え後の手取り除草を実施、冬期湛水も継続して実施
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遠藤水田にはサヤミドロが多い |
平成15年作にA〜B水田、平成17年作にG〜H水田でコメヌカを施肥した以外は、有機資材によるによる抑草対策は行っていない。
また、除草を目的にしてC〜H水田で簡易な代掻きを実施している(平成19年作では、C〜F水田について代掻きを行わず)。
田植え以後は、7月上旬まで、ほぼ毎日1〜2時間程度の手取り除草を行っている。これは全ての農薬を使わないA〜H水田全てで行い、反当の手取り作業時間はおおよそ下記となる。
手取り除草時間合計=作業日数×作業時間×作業人員
=30日×1.5時間/日×1.5人
=67.5時間
面積当たり作業時間=67.5時間/120a=5.4時間/10a
この作業時間は、同じ手取り除草に力を入れる白鳥水田の4〜5分の一程度であるが、それでもなお7月中旬頃の雑草量は白鳥水田に比して圧倒的に少なくい。このように遠藤水田の雑草が繁茂が目立たないのは注目に値する。
これは、冬期湛水により春期まで継続して行われ、形成されるトロトロ層の効果が発揮されている以外にも、もともとの土壌性質にも原因があるようにも感じられるが、はっきりしない。(H19.9記)
▼昭和初期のアンティーク手押し除草機を活用
平成20年作においては、昨年によりも雑草が増加気味であった。特に雑草の目立ったH、J水田では手取り除草に加え、中耕除草機(通称:カルチ)でも除草を行った。
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平成20年7月7日、昭和初期の手押し除草機
での除草作業 |
また、クログワイが目立ってK水田では、昭和初期に使用されていた手押し除草機で除草した。
この手押し除草機の利点は、田面の雑草を鋤取るのみならず、除草した雑草を土中に埋め込むことが可能なことにある。これが20〜30cm程度に成長したクログワイの除草に効果を発揮した。(H20.8記)
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(11)冬期湛水 |
▼平成15年以降、継続して冬期湛水を継続
▼冬期湛水による「直播き栽培」も試行
A〜B水田については、平成15年作以降より、C〜F水田については、平成16年作以降、継続して冬期湛水を継続している。
また、G〜H水田についしは、平成17年作より、田植え前の春期のみ、水田を湛水する「春期湛水」を行っている。
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平成16年8月29日、冬期湛水による直播き
水田の状況 |
遠藤水田ではC水田の平成16年作において、冬期湛水による直播き栽培を試行したことがある。
この直播き栽培では、冬期代掻きを行った種籾に酸素供給剤をコーティングし、直播き専用の田植え機で播種し、冬期湛水だった田面を発芽時期まで落水し、苗の生長とともに、水深を深くしていった。
この際に、籾の発芽と同時に雑草も発芽を始め、さらに直播きした種籾の発芽不良も多く、結果として反当収量は2俵/10a程度に留まった。
冬期湛水はトロトロ層の形成により、雑草の発芽を阻害する効果があるされるが、直播き栽培は種籾に対しても、この効果が発揮されたようで、やはり直播き栽培と冬期湛水は相性が悪いようである。(H19.9記)
▼冬期湛水はやはり雑草の抑制に効果があるようだ。
雑草状況の項で記載したとおり、平成20年作においては、冬期湛水をしなかった水田で雑草の繁茂が顕著であった。このことから、やはり冬期湛水には雑草の抑制効果があるようで、特にヒエに対してはそれなりの効果があるようだ。(H20.8記)
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(12)認証状況 |
▼認証は取得していない
平成15年以降、農薬と化学肥料を使わない稲作を継続しているが、有機栽培にかかる認証制度は現在まで取得していない。(H19.9記)
平成20年作においても、宮城県認証を含め、認証を取得する予定はない。(H20.8記)
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(13)田力活動履歴 |
平成15年06月 田植え記録「ホタルイ君」
平成15年08月 田んぼ状況「河南町から」
平成16年01月 冬期湛水状況「冬・水・田んぼな人間達」
平成16年07月 生育状況「出穂前の稲抜きツアー」
平成17年03月 冬期湛水状況「熟成するトロトロ層確認」
平成17年04月 田んぼ状況「イトミミズ調査(4月)」
平成19年06月 田植え記録「ヘッドライトを灯火に」
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(14)個人ホームページ |
・人と自然の仲立ち米
・花鳥風月 ふゆみずたんぼ日記
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(15)掲載内容更新履歴 |
・平成19年09月10日 本文掲載
・平成20年08月31日 「(5)育苗方法」、「(14)個人ホームページ」を追加
その他平成20年作について追記
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